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地下室ダンジョン~貧乏兄妹は娯楽を求めて最強へ~  作者: 錆び匙
2章 貧乏兄妹は資金を求めて東京へ
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22.兄妹は土竜を倒す

「じゃあ、行くぞ。『スピード』『パワー』『ガード』」


 いつも通りハルにも付与を掛け、前衛として突っ込む。とはいえすぐに切りかかりはしない。相手の様子を見ながら攻撃パターンを探るのだ。土竜の爪の間合いから距離を取り様子をうかがっていると土竜は動き出す。


「遅いな」


 土竜の体は地中を進みやすいようにできていて地上を進むのは遅くなるのだ。モンスターなのだが地上でも素早く動けるかと危惧していたので一安心だ。

 敵の速さを確認したので、速度重視で土竜の間合いに突っ込む。このまま鼻に攻撃を加えるのは危険そうなので横に回り込み、把握で常に確認している土竜の様子に違和感があったので地面を蹴り早急に土竜の間合いから抜け出す。


「あっぶね」


 その瞬間俺がいた場所には土竜の爪が通り抜け、地面をえぐり取る。


「攻撃が速い。予備動作もほとんどなかった。よく避けられたね」


 後ろで待機していたハルが近寄ってくる。


「力を溜めてからやったんだろうな。把握で分かったが筋肉がゆっくり収縮していってた」


「わぁ、化け物。んっ『ボム』『セクスタプル』」


 俺たちに完全に距離を空けられてしまった土竜の鼻先に唐突に魔法陣が現れたのに気づき、ハルが魔法陣の書かれたスコップをそちらに向ける。

 土竜の魔法により襲ってきた7つの土でできた棘は容易にハルの魔法によって吹き飛ばされた。


「遠距離でも戦えるか。万能って面倒だな。ハル同時攻撃で。時間やるから魔属性を崩に変えて至近距離の殴り込みで行くぞ」


「分かった」


 ハルの前に立ち、斧を持つ。土竜は俺たちに近づくのを既に諦めているようで再び鼻先に魔法陣が現れる。


「流れてる魔力がさっきより多いな。『チェイン』」


 俺は近接戦闘のスキルを持たないどころか攻撃スキルや攻撃魔法を持っていないため、ハルに比べると殲滅能力が低い。だからこそ、それを少ない魔法と技量で補う。

 チェインの伝染をいつものように適当な範囲ではなく、飛んでくる魔法に固定しなければいけない。

 魔法陣から土の棘が飛び出てくる。その数は9だった。威力は、同じくらいか。

 あえて飛んでくる魔法に自分から近付き先頭の棘を叩き切る。すべての棘を同じように叩き切れればいいのだが速度不足に技量不足。加えて言うなら武器もふさわしくない。だからこそ一撃に力を籠める。

 斧に込められた力は、1つ目の棘を叩き切った瞬間に伝染し、ほかの棘にひびを入れる。そして棘の間をすり抜けて、最後尾の棘に向かい斧を振り上げる。当然のようにその斬撃は伝染し全ての棘を破壊した。


「おにい、準備できたよ」


「了解、一気に行く、ぞっ‼」


 思いきり地面を蹴り、前に向かって飛んでいく。そして土竜の間合いに入った瞬間、隠密を使用する。接近してくる敵の影を寸前で見失うのだ。相当に戦闘慣れしてなければそちらに注意を向けてしまうだろう。そしてそれは土竜も同じだった。


「こっちだぞ」


 一瞬で土竜の横に移動し声をかける。土竜は即座にこちらを向き爪を伸ばす。もう1人の存在などすっかり忘れて。


「『亀裂』えぃりゃ‼」


 ガキーン


 硬いものが打ち合う音が響き渡り、後ろからハルの全力の攻撃を受けた土竜は体勢を崩しこちらに押されてくる。


「『チェイン』」


 再びチェインを使用し斧をその鼻に向けて打ち付ける。ただし攻撃は伝染させて。同じ場所に。一度の攻撃をたくさんの物に伝染させるはずの力がすべて一か所に集まったのならそれはどうなるか。当然、何倍にも膨れ上がるのだ。


 ガキンッ


「ギューー」


 再び硬いものが打ち合う音が響き渡り、初めて土竜が悲鳴を上げた。しかし。


「これはやばい」


「あぁ、予想よりステータスが高いな」


 俺たちは確かに敵の防御していない部分に向けて自分のできる最大火力の攻撃をぶつけていた。それなのに。ぶつかり鳴る音は硬いものがぶつかり合う音。敵が硬すぎる。


「こうなったら仕方がないよな。ハル、本気で」


 斧を投げ捨てて手を下に下ろす。


「レベルは47でおにいは48だから。大体8分。いける?」


「無理だったらこいつには勝てないってことだな」


 ハルもスコップを投げ捨てた。


「じゃあ、行くぞ」


「大鎌」「モーニングスター」


 俺たちの手の中に宝具が現れる。前回リムドブムルの大声を防ごうとしたときになんとなく察したこと。宝具はスキルや魔法を強化する。あの時は『スピード』と『パワー』の付与が掛けられていた。

 しかし宝具を持っていたときはそれ以上の力が使えたような気がするのだ。一か八かの検証を兼ねた実戦。すっとすり足で土竜の間合いに踏み込むとスキルを発動する。隠密。ただでさえその気配を隠すそのスキルは強化され、実像さえも覆い隠す。

 俺の影が曖昧になり隠密のスキルを知っていたにもかかわらず土竜は俺を見失う。ただ、土竜も学習するのだ。

 全体に注意を向けている。先程までだったらこれで不意打ちはできなかっただろう。先程までは。


 俺はゆっくりと、ただし軽やかに土竜の前に進み、全力で大鎌を振るった。


「ギューァー」


 悲鳴が上がる。斬撃は浅かったようだ。しかし、目への斬撃に浅いも深いもない。当たれば大抵は失明するのだから。


「『亀裂』『ディカプル』せいやっ」


 先程とは違うハルの正面からモーニングスターの殴打。10にもわたる空間にできた亀裂がその顔を切り刻み、そこにモーニングスターの棘が突き刺さり、吹き飛ばす。


「ギャーー」


 またもや上がる悲鳴と共に土竜の周りを魔法陣が囲む。魔力は、地面を伝わり俺たちがいる方向へと伸びてきている。


「ハル、跳べ」


 ついでとばかりに斜め前方にジャンプすると同時にしたから土の棘が束になって噴き出す。


「これで終わり。『亀裂』『ディカプル』」


 ハルの詠唱と共に、綺麗に10個重なるように土竜の顔に亀裂ができる。次々に傷を抉っていくというえげつなさ。そして。


「『チェイン』『パワー』」


 再び付与を掛けなおし、目の見えていない土竜に急接近する。大鎌を振りかぶる。


「俺たちの勝利だ」


 思いきり振り抜いた大鎌は、ハルが作った傷口に突き刺さり脳を破壊した。即死。

 一瞬で土竜は霧となって消えていった。


「お疲れ、おにい」


「お疲れな」


 ハルと一緒に手を打ち鳴らすと、土竜のドロップアイテムを見る。

 そこにあるのは2枚のカードと革袋。


「まずはスキルカードだよな」


 カードに触れると勿論片方だけを霧に変えることができて、もう片方はハルが使用した。


「おにい、とりあえずは帰ろ。そろそろいい時間じゃない?」


 懐中時計を見てみると18時。確かにいい時間だろう。


「じゃあ、帰るか。帰ったら解析だな」


 俺たちは謎の革袋と新しいスキルへの期待を胸に帰っていくのだった。ちなみに、帰る途中に人化牛のボス部屋によって、軽く倒してきた。今日はどでかい鉄の斧も回収済みだ。



 そして木崎家へ帰還後。とてつもないことが判明したのだった。


「おにい、スキルはまだ確認してないけどこの袋がやばすぎ。こんな感じ」


 ハルはいつものように紙に書いて俺に渡す。


『アイテムポーチ(小)…1tまでの収納が可能であり重さを帳消しにする』


 つまりは1トンまでは入れ放題のバッグということだ。それもあの壺のように重さが増えていくこともない。これにより俺たちの狩りの成果はうなぎのぼりとなっていくのだ。しかし、その出来事は唐突にやってくるのである。


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