113.兄は久々におやじと話す
新作、『“ぼっち”な迷宮製作論』(仮題)を投稿しています。
地下室ダンジョンとも絡めていますので、興味が湧いた方は是非そちらも
見に来ていただけると幸いです。
「なんの用だよ、親父」
「いやー最近何してんのかなって思って。ハル元気?」
その日は珍しく電話の音で目が覚めた。
時計を見れば朝の7時。電話をかけてきた奴に文句でも言いたいがこの時間なら起きている人は起きているよな。
セールスか何かかと渋々受話器を取れば、聞こえてきたのは親父の声。思わず電話を切りかけたのはバレてないだろう。
「ハルは寝てるよ。朝から電話して、で実際はなんの用だ」
「んー? 派手に動いてるなーって思っただけだぞ」
「は?」
俺は受話器片手に動きを止める。派手に動いたとはどういうことか。心当たりはあると言えばある。スタンピードを起こしたことなんて、派手に動いていると言われても仕方がないだろう。
とはいえ、親父がそれを知っているはずがない。第一俺たちもはっきり理解しているわけではないのだ。
俺たちがあのパソコンのようなものを動かしてスタンピードを起こしたというのは確信しているが、確証があるわけでは無いのだから。
たっぷり5秒ほど思考し、俺は口を開く。
「なんの話だ?」
「この前、スタンピードあったじゃねえか。トウカとハルなら頑張ったんじゃねえかなぁ? と思ったわけよ」
「そういうことかよ」
「どういうことだと思ったんだよぉ、親に隠し事か。ハルは妹だぞ」
「何が言いたいのか分らんが黙っとけ。それ以外特に用がないなら切るぞ」
電話越しであっても親父のにやけた顔が目に浮かぶようで、イラつきながら受話器を置こうとする。
「ちょっと待て。こっからは真面目な話だ」
「じゃあ、最初からそっちを話せ」
親父が声音を変えたところで、今更シリアスな気分にもならず軽く舌打ちをした。
「トウカ、ダンジョンの中で、手ぶらでボロボロの服の女に会ったことはあるか?」
「手ぶらで、ぼろぼろ? 自殺志願者か?」
「んなわけねえだろ。ねえんだな」
「無い、はずだ」
さすがにそんな異様な格好の人がいれば気づかないわけがない。そもそも、俺たちが普段探索している地下室のダンジョンは人に会わない。東京ダンジョンの方なら人も見かけるが、手ぶらな上、ボロボロ。そんな人がいればさすがに救助に向かう。
「無い、か。じゃあ、もう1つ。お前、メイドについてどれくらい知ってる」
「メイド?」
親父の言葉に思わず口をぽかんと開け固まる。いや、真面目な話ではないのかと。
「メイドっつってもメイド喫茶じゃねえよ。従者としての格式あるメイドだ」
親父がまたふざけだしたと思ったがそれにしては真面目な声音で話し続けている。全くもって意味が分からないが、きっと親父にとっては真面目な話なのだろう。そう思っておこう。
「ほとんど何もわからないな。さすがにミニスカートじゃないってのはわかるが、制服っていうのか、それとマナーも。仕事として何をしてるのかも詳しくはわからん」
メイド喫茶やアニメ、ライトノベルのメイドが有名になった今現在。本来のメイドの姿なんてのも調べなければ分からなくなってきている。
自分がどこかで見たメイドの姿に、どこまで現代人の妄想が含まれているかなんて分からないからだ。
「メイドがわからねえ、ってのはお前が無知だからとかじゃねえよな」
「たぶん。男子高校生なら、メイド喫茶のメイドについてのほうが詳しいんじゃないのか?」
「だよなぁ。ってことはそういう趣味だったとか? あり得ない話ではないが。にしては変な文化も混ざってる気がすんだよな。趣味か? 性癖か?」
¬¬¬¬¬¬
親父は電話の向こうでぶつぶつと独り言をしゃべっている。
「親父、考え事すんなら切ってもいいか」
「ん? あぁ、そうだな。じゃあ最後に1つ」
「まだあんのかよ」
「魔王はどうして、城でいつまでも待ってると思う。意外な答えでたのむ」
魔王が城で勇者を待つというのは今ではありふれるほど有名になったRPGの定番。道々には魔王の手下である敵が待ち構え、されど敵は成長する勇者が倒せるようにはじめは弱く、魔王に近づくにつれて強くなっていく。
「魔王は城でしか力を発揮できないから」
「他には?」
「勇者を育てたかったから」
「他には?」
「あー、仲間だと思われている魔物を減らしたかったから?」
「なるほど。そういう案があったか。いや、当然そのままではないだろうが。トウカ、ありがとな。ハルによろしく」
親父は一人で納得したような声を上げるとそのまま電話を切る。
「まったく、結局なんの話だったんだよ」
俺はハルが起きてくる前に朝食を作ってしまおうとキッチンに立つ。食器をそろえながら親父との通話を思い返し。
『この前、スタンピードあったじゃねえか。トウカとハルなら頑張ったんじゃねえかなぁ? と思ったわけよ』
「なんで親父、探索者を襲わないモンスターのスタンピードで俺たちが頑張ったと思ったんだ?」
背筋に冷や汗が流れるのを感じた。
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次作『“ぼっち”な迷宮製作論』連載中です。
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