111.兄妹は世界的スタンピードを引き起こす
新作、『“ぼっち”な迷宮製作論』(仮題)を投稿しています。
地下室ダンジョンとも絡めていますので、興味が湧いた方は是非そちらも
見に来ていただけると幸いです。
『ぶきしゅおせんたくして』
唐突に現れたその言葉は大きな違和感があった。
「随分と変な字だな」
今までこのダンジョンで見てきた字は様々だった。自分だけに見えたが全てカタカナだった初めてダンジョンに入ったときの技能選択。
俺は使えないが看破のスキルを使ったときの、脳に言葉が送られる感覚。これは文字というよりは声を聞いたという方が近い気がするらしい。
そして今回。すべてが平仮名なことに加えて字が幾分か雑に見えた。いや、雑というよりは下手だろうか。
以前ダンジョンで見た文字はまるでコンピュータのテキストの文字のように無機質で精確な字であった。今回のはなんだろうか、字を書くことが下手な人が丁寧に書こうとしたかのようなそんな字である気がする。俺も小学生、いや中学生かその頃はこんな字を書いていた。
「おにい、動かせるよ‼」
ハルがパソコンのようなもの、もうパソコンでいいか。パソコンのタッチパッドに触れると画面にはひし形のカーソルが現れる。それと共に、『しんりゃく』『ぼうえい』の文字も現れた。
「ゲームみたいだな」
「だね」
ぶきしゅ、武器種と言われ剣や杖などをイメージしていただけにその文字は意外だった。
「とりあえずしんりゃく選んでみるね」
ハルは手慣れた様子でカーソルを陸の文字に合わせる。カーソルは『りく』に重なると3度光り、画面が切り替わる。
画面の上の方には先ほどと同じように『しんりゃく』と書かれ、その下には1から5の数字とそれに並ぶ文字が書かれている。
「なんだこれ?」
1:へいきそうぞう 3/10000
2:しんぐん 998/1000
3:しんか 6/100
4:ひとがたしょうかん 0/1000
5:しょうごうじゅよ
「『へいきそうぞう』って、兵器を作るってことだよね」
「『しんぐん』は、神の軍か、軍を進めるかだな。『しんか』は多分、生物の進化の進化だろ」
「『ひとがたしょうかん』と『しょうごうじゅよ』は文字通りでいいよね。ヒト型も称号も詳しくは分からないけど。でさ、おにい」
「ん? なんだ」
「いやーあれだけどさ」
ハルは引きつったような笑みを浮かべながら、俺たちが見ていた画面を指さす。
「今、さっきまで998だったよね」
2:しんぐん 999/1000
「だな」
ハルが指さす文字を見て、俺も冷や汗が流れ出すのを感じた。数字が増えたのはしんぐん。考えがあっていれば進軍という物騒な言葉。
「ハル、それ以上調べられない?」
「やってみる」
ハルは恐る恐るカーソルを『しんぐん』に合わせ。
2:しんぐん 1000/1000
カーソルが3度の光を出す最中、数字が増え画面が切り替わった。
しんぐん
ゆきさき:そと
たいしょう:せいぶつ
へんこうありますか
きどう もどる
「うぇ‼」
「ハル、とりあえず行き先を変えろ‼ 嫌な予感がする」
「分かった‼」
すぐにそと、と書かれた場所にカーソルを合わせると、再度3度光り、そとと書かれていた場所が空欄になる。
「えーっと、森林‼ 森林にして」
しんぐん
ゆきさき:しんりん(0階層)
たいしょう:いきもの
へんこうありますか
きどう もどる
「0階層って何⁉ まあいい、対象はとりあえずモンスターで」
「できた‼」
しんぐん
ゆきさき:しんりん(0階層)
たいしょう:もんすたー
へんこうありますか
きどう もどる
「「起動‼」」
きどうしました
その一文が表示されると画面が切り替わり、元の画面に戻る。
1:へいきそうぞう 3/10000
2:しんぐん 0/1000
3:しんか 6/100
4:ひとがたしょうかん 0/1000
5:しょうごうじゅよ
違う部分は『しんぐん』の数値が0に戻ったこと。先ほどは少ない時間で数値を2上げたが、今見ている限り、その数値は0のまま動いていない。
「これ、やっぱり誰かが操作してたよね」
「いきなり増加が止まったってことはそうだよな。一度森林の様子を見てから家に戻ろう」
「うん」
俺たちがその部屋を出た時、当然のようにその部屋の入り口は消えていた。触れても押してもその部屋に戻ることはできず、あきらめて森林の様子を見に向かった。
そこには地獄のような景色が広がっていた。
リムドブムルは悠々と飛び回っているが、地上にいるモンスターは互いを喰らい、殺し合っている。
15層から降りてくる洞窟の前まで戻れば、そこからは数えきれないほどのモンスターが森林に向けて流れ込んでいる。森林に向けて走るモンスターは走りながらも互いを攻撃しあい、傍にいる俺たちには見向きもしなかった。
横合いから刀で斬りつけてみるが反撃もせず、モンスター同士で殺し合う。
対象をせいぶつからもんすたーに変えたことが影響しているのだろう。
すぐに転移陣を使い1階層に戻るとモンスターの影は無く、一階層なのでモンスターの死んだ痕跡も無い。
「たぶん、全部森林に向かったな」
「っぽいね」
そのまま家に戻った俺たちは装備も外さずパソコンを開く。
『世界的スタンピード再び。探索者には攻撃せず⁉ モンスターはダンジョンの奥へと走る』
思った通りだ。スタンピードはすべてのダンジョンで起きている。すべてのダンジョンのモンスターが人を攻撃せずに森林へと向かい、モンスター同士で殺し合っている。
「前回のスタンピードにも元凶がいる」
世界のどこか。誰よりも早く部屋の場所を、秘密を暴き悪用している人がいる。その事実を確信せずにはいられなかった。
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次作『“ぼっち”な迷宮製作論』連載中です。
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