10.事実とは小説より奇なり、そして地味なり
「よーしこんだけあれば十分だろ。しばらくは夕飯のメニューに困らないな」
「さすがに疲れた。調子に乗って狩りすぎた」
今、5層のボス部屋の後の部屋。モンスターが入ってこない部屋には二人が疲弊して転がっている。
「じゃあ、ハル。成果の確認しようか。今日取れたもの出してくれるか」
「了解。うわ、分かってたけど結構ある」
「えーっと倒した数は、狼が132匹。猪が9匹、経験値ウサギが1匹か」
倒したときに数えていた数を持ってきたメモ帳に書き込む。経験値ウサギとは前に3層で見つけたときに倒したらレベルが上がった感覚がしたレアモンスターだ。ちなみに今回は倒したらレベルが上がる感覚は1度だけだった。
そういえばハルが発見した経験値の割合は戦闘の貢献度に比例するということだが、このウサギだけは例外らしい。今回は間違えてハルが一撃で吹き飛ばしてしまったのだが俺もレベルが上がった。付与どころか追い詰めるなどといった補助もしていないのだから、俺の戦闘の貢献度は0だろう。
ウサギの場合は倒れたときに周囲にいる人に均等に経験値を分け当てるといったところだろうか。
おっと話がずれていた。
「おにい、何考えてんの。早く整理手伝って」
ハルがモンスターのドロップしたものを仕分けしているので俺もそれを手伝う。とはいっても種類はたいしてないのですぐに終わった。
「では今回の成果。というかこれまでダンジョンでの初収穫の成果を発表します」
ハルがそう前置きし一旦溜めるように口を閉じる。いや、まあ俺も仕分けはしてたから成果は知っているのだからハルの自己満足というかそういうノリなのだろう。
「では、狼の爪が103個。狼の毛皮が12枚。石が47個。そしてよく分からない金属のプレートが1枚。そしてー」
「で、猪の肉が6枚、角が2本か。十分な収穫だな」
「あ、おにい。それ私が言おうと思ってたのにー」
ハルがあまりにももったいぶるので横からかっさらって成果を言うとハルは頬を膨らませて文句を言う。膨らんだ頬をつつくとプス~という音と共に空気が抜けた。面白い。
「あ、消えちゃった」
「何が」
突然ハルが慌てたような声を出したのでハルの手元を見てみると特に何もない。いや、そりゃそうか。消えたって言ってるんだからそこにあったものが無くなったんだろう。
「んー、何に使うのかなーって思って金属のプレートいじってたら光りながら粉々になって消えちゃった」
「あー、まあ大丈夫だろ。今、体に問題がなさそうなら。どうせ、こんなところでいきなり触るだけで駄目な毒物なんて出てこないだろうし」
「そっか。まあ使い道もなかったしいいや」
ハルも案外潔く、広げたドロップ品を種類ごとにまとめると俺とハルのリュックに分けていれる。当然のように俺のリュックの方がいっぱい入っている。
「じゃあ、帰るか。どうやって帰るのか知らないけど」
「来るときに乗った魔法陣じゃないの?」
ハルに従って魔法陣に乗ってみるが、反応はしない。
「どうすりゃいいんだ。定番だと魔力を流すとか。やり方知らないけど」
「それは知ってる人いないと思うんだけど。それならここに来た時点で全員詰み」
これは閉じ込められたか。魔法陣に魔力を流すやり方を検証してみたり魔法陣を蹴ったりしていると答えは案外あっさりと見つかった。
「おにい、ここの壁に魔法陣書いてあるよ。まだ触ってないけど」
その壁の魔法陣は俺たちがここに来るときに使った魔法陣のあった場所から反対側の部屋の隅にあった。階段から見て部屋の右側の隅にここに来るための魔法陣、左側に壁の魔法陣があるということらしい。
「じゃあ、おにい。触ってみて」
そして壁の魔法陣に近づいた俺にハルが魔法陣を触らせてくるのでハルの手をつかんでそれを止めながら魔法陣に触れる。自分で触れるのはまだしも人に強制的に触れさせられるのは怖い。触れてみると、頭の中に文字が浮かんだ。
帰還
1階層:転移の間
5階層:入り口
「ん、これで帰れるっぽい。おにい、1階層の方をイメージして」
ハルに言われたとおりに魔法陣に触れたまま1階層を意識すると数秒のタイムラグの後、魔法陣が光り、浮遊感と共に視界が変わる。洞窟の中の一つの小部屋のようだ。横にはしっかりとハルがいる。体の接触があると一緒に飛ばされるらしい。
そして目の前にはスライム。
「ってなんでだよ」
既に簡単に殺すことができるどころか、攻撃を食らっても大して痛くなくなったモンスターなので慌てることもなく鍬を核に刺して殺す。勿論ドロップは無し。5階層より前ではドロップはしないはずだから、ここはしっかりと1階層のようだ。
「転移した先が安全地帯じゃないってこれ作った人はいい性格してるね」
「まぁここに転移できるってことはここら辺の敵じゃどうにもならないだろうから問題ないんだろ。とはいえここはどこだ」
「さあ?」
念の為しっかりと武器を構えながらその小部屋を出るとそこはダンジョンへ入り口のすぐ近くだった。
「こんな部屋無かったよね。おにい」
ハルが白けたような眼をしている。いや、確かにそうなんだが。確かに思うところはあるのだろう。どこに帰ってくるのかとワクワクしていたら今までなかった部屋ができていてそこに転移されたのだ。これがダンジョンでなかったらただのホラーなのだが、ここはダンジョン、人智の及ばざる場所なのだ。
「ダンジョンって案外無茶苦茶だよな。何この適当感」
「おにい、しょうがないんだよ。これは自然現象だから。誰かが作ってるわけじゃないんだから。たぶん」
「だよなぁ」
俺たちはそろってため息を吐きながら南京錠を開け、自分の家に戻るのだった。
だってさ、帰還とか転移の間とか書いてあったら期待するじゃん。どこかにフラグがあったか、とか考えるじゃん。
それがただのダンジョンの中の小部屋って。ただ、魔法陣が置いてあるだけの小部屋って。
事実とは小説より奇なりなんて言葉はあるけれど。現実とは物語より、人の期待を裏切るのだ。
地下室に戻ったころには時間は19時だった。休憩を挟みながらだったとはいえさすがに熱中しすぎた。ダンジョンの中では特に精神が疲労するのはよく理解しているので、明日の探索は午後からにしようと思っている。
とりあえずは探索用の装備を外し、仕舞って夕食を作りますか。
ダンジョン内でとれる肉がどんな味なのかは分からないが、生の状態を見た感じ硬すぎるようには感じないしかといって柔らかすぎでもない。霜降り肉でもない、普通の肉だ。まあ、味は分からないのだから素材の味を活かすということで、今日は贅沢にステーキを二枚焼く。勿論一人一枚。ご飯は少量に適当に野菜も炒めて食卓に出す。
「「いただきます」」
ハルと一緒に手を合わせそしてステーキを食べ始める。残念なことにナイフは家に無かったので先にカット済みだ。
俺たちは一口ステーキを食べそして顔を見合わせた。
「ん~‼」
ハルもごきげんそうな声を出している。この肉がめちゃくちゃおいしい。脂が、とか柔らかさが、とかそういったおいしいではなくて根本的に何かが違う。体に染み渡るような感覚。俺たちはいつものように会話を交わすこともなく。最後まで食べ切った。
「ご馳走様でした」
最後も二人そろって手を合わせ夕食を終了する。
しばらく休憩や武器の手入れをして。それからハルと一緒にランニングに行く。こうしてダンジョン内で精神を鍛えダンジョン外で体を鍛えるのだ。こうしていつもの生活にちょっぴりスパイスが加えられた一日を存分にいつものように楽しむのだった。




