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第99話 国家戦略諮問会議と研究者リクルート

 久永殿下に東シベリア開発のプレゼンをしたら、なぜか「国家戦略諮問会議主幹補佐」という何だかよくわからない役に就けられた。軍事参議院と内閣企画院から諮問を受ける……というか実質そこを動かすための意見を出す組織だそうだ。久永殿下が主幹なので、その補佐をするということらしい。そして久永殿下は中将に昇進、企画院副総裁になったそうだ。史実では鈴木貞一中将が近い立場(彼の場合は第二次近衛内閣国務大臣兼企画院総裁)だったが、この世界では第二次近衛内閣自体が誕生せず、鈴木中将も予備役編入しただけで企画院総裁にはならなかった。殿下は同じ中将になったが、まだ若いので副総裁で経験を積むということらしい。


 厳冬の明けた頃、大陸の今村中将率いる第二軍はコルィマ鉱山を接収した。そして鉱山労働者を働かせていたマガダン強制収容所を解放し、逆に収容所を運営していた幹部職員を施設に拘禁した。戦争でモスクワに運べず鉱山に蓄積されていた金を日本に運び出しただけで国家予算の10倍以上の規模に及んだ。


 そしてこの資金を使って鉱山採掘のための採掘機械、そして新しいバイカル湖北側の油田の採掘、あるいはミールのダイヤモンド鉱山の開発。さらに掘り出した石油を生成するためのプラントをイギリスからの技術協力で日本国内6ヶ所に建設した……国内の自動車産業育成を計画した際、企画院で元のアイデアを想定してから4年を経てようやく国内の産業基盤となる重工業地帯の建設が始まった。


 一方で、オレは重工業ではないが今後の日本の主力産業になるものの立ち上げを行っていた。京城と台北を除いた全国七つの帝国大学の工学部にそれぞれ計算機科を創設し(東京だけは既にあったので新設は六つだが)TKT計算機(実態は軍で使っていた旧型機を移設したもの)を設置した。学部生も新入生に限らず、優秀なら他学部から三回生への編入を認め一年後には専門家として世に出せるように鍛え、その働き先として帝国計算機なる国策企業を設立した。


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


 久永殿下のお手伝いの合間を見つけて、オレはイギリスへ飛んだ(憑依で)。

ラプトルMarkⅡの改良に思いの外、費用と手間がかかっていること。大半の問題がテストパイロットであるアーロンの要望から起因していることを言ってから交渉に入った。


「まあ正直、我々もアーロン中佐があれほどラプトルの改良に執心するとは思っていなかった……彼は、なるべく早くわかりやすい成功を国民に見せる必要がある」

イギリス側には何やら事情があるようだ……これなら交渉巧者(タフネゴシエーター)の華子さんがいなくても何とかなるかもしれないと希望が湧いてきた。


「……それで、何が欲しいんだ? 開発費の肩代わりか? それとも新しい資源を輸入したいのか? 今ならイギリス政府は大概のことは譲歩してくれるぞ」

他人事のようなルーシーのセリフだが、このチャンスを逃すわけには行かない。

「資源や資金も考えたけれど今回はイギリスにいる人間を融通して欲しいんだ」

ルーシーはオレの言葉に、思ってもいなかったというような顔をしている。彼女は交渉相手の考えていることを読めるはずなんだが……オレに気を許して不必要に心を読んだりしていないからだと好意的に解釈しておこう。


「人間? どういうことだ? まさか奴隷貿易をしたいというわけでもあるまい?」

……これはイギリス人、一流のジョークなのか? 今度はオレが怪訝な顔をする番だった。

「いや、そうではなくて……イギリスの一流の研究者を日本に招聘したい。もちろんイギリスと日本を行き来してくれて問題ないので」

オレは具体的に誰を招聘したいかを説明した。まずはアラン・チューリング。コンピュータ関係はノーベル賞がないが、その代わりの世界的な名誉となるチューリング賞の名前になるほどの超有名人。初期の情報処理の理論的裏付けを作り上げた第一人者であり伝説級の人物だ。そしてオペレーションズ・リサーチ(様々な計画を数学や統計を使って効率的に行う科学的技法)の創設者、パトリック・ブラケット。また創成期のコンピュータの命令セットやプログラム言語の意味論などに功績のあるクリストファー・ストレイチー等々、錚々たるメンバーだ。


 史実では、この時代情報処理装置(コンピューター)と言えるモノの開発に成功した国はなかったが機械式計算機や理論の研究はいろいろ行われていた。現在の日本は計算機自体は作れていても、この分野がまだまだ足りない。そして計算機の理論分野で多くの研究者がいるのがイギリスだった。


 そしてもう一人。イギリスから戻る途中(憑依なので戻るも何もないのだけれど)ポーランドに立ち寄る。久しぶりにあったポーランド首相ジェイコブ氏に挨拶し、探すのを依頼していた、とある人を紹介してもらう。マリアン・アダム・レイエフスキ、数学者・暗号研究者。史実でドイツの最重要暗号機エニグマの暗号通信をイギリスが解読することを可能にした重要人物だ。あの歴史ではポーランドはドイツに占領され彼はイギリスに亡命した。そしてポーランドにいる間に研究したエニグマ暗号の解析情報をフランスとイギリスの情報部に渡し、連合軍の暗号解読作戦”ウルトラ”(エニグマ関連なのがばれないようにワザと名前を変えてある)の成功を2年から4年早めたと言われている。


 彼はジェイコブ司令官と因縁の深いポズナニ(ポーランド防衛戦で最後まで無傷で残り反撃の狼煙となった軍の配備されていた地域)の大学で働いていたが戦時には、ポーランド軍参謀本部第2部暗号局ポズナニ支局での仕事も兼務していた。市庁舎の中の一室で傍受したドイツの無線報告の解読を手掛けていたのだった。

「レイェフスキ中尉、私はあなたの暗号解読に関する数学知識をぜひ若い人たちに教えてほしいと思い、こうしてツテをたどって会いに来ました」

自分の仕事がなぜそこまで評価されているのかわからない(この世界では彼はエニグマの解読を完了したわけではなく、まだ道半ばだったからだ)彼は謙遜して答える。


「少将閣下、私の仕事を評価して頂き大変嬉しく思いますが、あまりにも過大評価であるように思います。私は暗号局の一職員で、さしたる成果を挙げたわけでもありませんし……」

オレは彼の緊張を和ませるように微笑みながら

「私は、あなたのゲッティンゲンでの統計学の担当教授にも会ってきました。優秀な学生だったと聞いています……これからの暗号技術には数学的バックグラウンドが必要だ。あなたのようにね。まだ成果が足りないと言うなら我々と一緒に研究を進めてみませんか? 私はイギリスやドイツも含めて新しい暗号学の研究グループを立ち上げたいのです。私の考えではこれからは言語統計学だけでなく数学の群論などの知識など幅広い分野の知識が必要になります……また現在の機械式暗号機の限界を越えた新型計算機を使った手法の理解も必要だ。新しい世界を見てみたいと思いませんか?」


 例によって未来知識もチラつかせながら彼の研究者心を刺激した。そして最後にはジェイコブ首相にも、ひと押しをお願いする。

「ジェイェフスキ君。ポーランドは、これまで何度も日本の人たちに助けられてきた……私は、これからは是非とも彼らに協力するべきだと思っている。ポーランド人としてね」

これは、前回の「黒騎士」の件だけでなく、ポーランド・シベリア孤児救済なども含めて言っているのだろう……まさに情けは人の為ならずだ。先駆の日本人の行動に感謝しながら彼の答えを待った。


「……そこまでおっしゃるなら。私も共に協力させて頂きたいと思います」

日本の大学の計算機科にポーランドから招かれた教授の暗号情報論の講座が持たれたのは、それから暫く後のことだった。


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[気になる点] >(エニグマ関連でないのがばれないようにワザと名前を変えてある) エニグマ関連なのがばれないように かと思いましたがどうでしょう?
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