第94話 継続戦争、第二次白金狐作戦
山岳旅団とは、本来山岳地帯など機動兵器が投入しにくい地域での作戦・戦闘を行うための部隊で、起伏の激しい地形や厳しい気候条件でも任務を行えるように特殊な訓練を施された空挺部隊や海兵隊と並ぶ精鋭歩兵である。
しかし基本的には軽装であるので相手が強力な火器を保つ場合、厳しい戦いとなってしまう。今回は戦闘初期こそ山がちの鉱山の確保作戦だったが作戦が進むに連れ徐々に平地部分の作戦になり、現在は鉄道も敷設されているような地域の守備・警戒が中心となっている。
フィンランドに派遣されたグルカ山岳旅団においても、初期は猟兵部隊相手の戦闘だったが、現在の敵は戦車を含む強力な火器を有する部隊となった結果、壊滅的被害を出してしまっている……もちろん連携して戦うフィンランド軍やドイツ軍には重砲や戦車も配備されていたが。
ソビエト軍はKV重戦車、T34中戦車、そしてT60またはT70といった軽戦車をそれぞれ40両配備し、さらに迫撃砲大隊、対空砲大隊、狙撃兵旅団等々を持つ第14軍であり、ムルマンスクを根拠地にしてレンドリース物資輸送のためムルマンスク鉄道の確保を強力に推し進め、フィンランド、イギリス、ドイツ連合軍いわゆるラップランド軍の北極狐作戦および白金狼作戦は頓挫し、現在占領しているソビエト領から徐々に撤退に追い込まれつつあった。
こうした状況の中、特例として機械化兵器を配備したグルカ山岳旅団の再編部隊がイギリスからフィンランドに復帰し、さらにペツァモからムルマンスク攻略を目指すフィンランドⅢ軍に合流した。元々この軍は野戦砲連隊、重砲大隊、歩兵連隊とドイツ軍の第40装甲連隊、SS師団ノルトを麾下に持っていたが、前回の北極狐作戦では歩兵と戦車部隊の連携の問題等でソビエト軍相手に潰走し作戦失敗の原因になった部隊だった。今回、ここにイギリス軍グルカ山岳旅団機械化装甲大隊、いわゆるラプトル部隊が追加された。
本来、山岳旅団は本来装甲兵器など使用しないが、さすが精鋭部隊の名に恥じず短期間でこれを運用可能とした。特にアーロンは、もともと乗馬での戦いに慣れていたこともあり、また戦闘時の状況認識について鋭い適性を持つことも相まって優秀な技量を示した……ちなみに彼は今回の再編での帰国時に国王陛下からナイトに叙爵され、ハミルトン騎士爵となり少佐に昇進して大隊長になった。いやはや王室関係者の昇進が早いのは洋の東西を問わないようである。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「いいんですかね? こんな装備をもらっちゃって……これがあれば、今まで手が出なかったソ連軍軽戦車もイチコロですよ!?」
アーロンは部下の頼もしい発言に苦笑しながら
「その代わり、敵も軽戦車ばかりではなくなって強い奴が出てくるぞ」
と気を引き締めさせようとするが、表情は彼自身も笑みを隠しきれていない様子だった。
翌日から早速、周辺の索敵任務が開始された。
甲高い高速のタービンエンジンの回転音が響き始め、起動シーケンスに従って機体に力が満たされていく……ホバーユニットに十分な風量が確保されると、グンッ!と躯体関節が浮き上がり、操縦席では制御機構が正常動作していることを告げるランプが点灯する。アーロンは自らラプトルに乗り込み機体を起動させると、周囲の状況を再確認しながら通信機で各機の状況をチェックする。
「1号機より各機へ、機動状況を報告せよ」
「2号機、起動完了!」
「3号機、起動完了!」
・
「5号機、起動完了!」
大隊長が機動兵器を駆って前線に立つというのはどなのかという意見もあったが、どうせ止めても前線に出るのだから少しでも安全な装甲兵器に乗せたほうがよいという結論になり、このような状況になった……もちろん彼の操縦技術が優れていたのも大きな要因ではあったが。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一方、ソビエト軍もムルマンスク鉄道周辺を警備するために哨戒部隊を出していた。ラップランド軍と違うのはソビエト軍哨戒部隊はT60やT70といった軽戦車が配備されていた点である。もっともT70はまだしもT60は装甲も薄く「二人兄弟の墓」という渾名が付けられるほどで、これを鹵獲したドイツ軍も「華奢で戦力価値なし」とか「捕獲しても使いみちが限られる」と散々な評価で砲塔を撤去して、大砲を牽引するためのトラクターとして使用される始末だったが。
キュルキュルキュル……
キャタピラの音と共にソビエト軍の哨戒部隊が決められた経路を進んで敵の有無を確認していく。二人乗りであるため操縦手の他には戦車長兼砲手担当のもう一人しかいない。
「おかしいな……」
その戦車長兼砲手の男が独り言を言った。もちろん行動中はマイクを使わなければ操縦手へは聞こえない。それでも彼は自分の中のもう一人の役割へ注意を促すべく呟いいた。
「こんなに晴れているのに地吹雪の音がする」
そう、今日は珍しく雪も風もない良好な天候なのに、遠くからヒューともゴゥーともつかない音が聞こえてくる。
彼は後続の車両に『周囲を警戒せよ』という信号旗を掲げ(ソビエト軍の下級兵士用の戦車には通信機が装備されていなかった)自分も砲塔から身を出して周囲を観察した。
「いた! あれだっ」
彼は遥か彼方から彼らに接近してくる恐ろしく速く移動するモノを見つけた。
戦車や装甲車より車高が高く、圧倒的に速いそれは強力な大口径砲は持っていないようだった。
「敵発見! 9時方向全速前進!」
車長自身が砲塔の旋回を行うT70では高速で移動する相手に照準を合わせて射撃することは無理な話だが接近すれば何とかなるかもしれない……大きさからして我々の戦車より小型だ。そうした読みが彼を強気に出させたのかもしれない。しかし、ものの数十秒のうちに接近してきたそれは大きく弧を描くようにT70の背後に回り込み、携行式の短砲を向け発砲してきた。初速の遅い榴弾砲と思われたそれはT70の側面装甲に命中すると猛烈なメタルジェット噴流で、易々と装甲を侵徹し内部に高温のガス・メタルジェットを撒き散らした。
あるものは自砲弾の誘爆を起こし、別のものは擱座したりエンジンから火煙をあげたり、とにかく遭遇後わずかの間に哨戒部隊の戦車は全滅した。
ラプトル小隊は戦闘結果の確認のため敵が全滅した後一旦停止した。
「ヒュー、凄いっすねぇこの対戦車榴弾砲てやつは」
他機に乗っている部下が嘆息の声を上げる。
「よし、次に行くぞ! 予定のコースで索敵作戦を続行する。各機続け!」
「「「「「了解!」」」」」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
カンダラクシャ西方に突如現れた敵機械化部隊によりムルマンスク鉄道警戒網に多大な被害を受けたソビエト軍はこれを掃討するためKV重戦車およびT34中戦車部隊を動員し、敵を殲滅しようと試みた。
一方、ラプトル部隊は注意深く敵戦車部隊の動向を見ながらヒットアンドアウェイをくりかえし、ソビエト戦車部隊を南方のカンダラクシャ周辺に誘き出した。フィンランドⅢ軍はこのタイミングを見計らって虎の子の重砲大隊、野戦砲連隊および歩兵師団によるムルマンスク一斉攻撃を敢行する。北極圏ゆえに、そこまで規模は大きくないムルマンスクは耐えきれずフィンランドⅢ軍の手に落ち、第二次白金狼作戦はここに終結する。




