第93話 継続戦争、白金狐作戦とヴェロキラプトル
うまい具合に分けられず、本作最長になってしまいました…
「久しぶりね……そろそろクリスマスの準備をする季節だけど、日本は私たちにどんなプレゼントを用意してくれているのかしら?」
ここはロンドンのロスチャイルド邸。いきなり呼び出してきて、何事かと思ったらクリスマスプレゼントを催促された……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ヨーロッパ戦線は、フィンランドが冬戦争で失った地域をドイツとイギリスの支援により取り戻し、さらに長年紛争の元となっていたムルマンスク、カレリア地方の半ばまで侵攻、占領していた……北極狐作戦および白金狐作戦と呼ばれたこの戦いは北極圏で行われた数少ない大規模戦闘で史実ではソビエト軍が最終的に勝利したが、現在のところフィンランド側の勝利のまま進んでいる。
北極圏の短い夏が終わり、すでに季節は曇天と雪交じりの風が吹きすさぶ晩秋から初冬の頃。グルカ山岳旅団はドイツ第20山岳軍と共にムルマンスク南方の占領地の守備・警戒にあたっていた。
「大尉殿! アーロン大尉殿」
「……ああ、すまない。ぼうっとしていた」
ここ数日、吹雪の先に何か危険なものが蠢いているような気がして、ついついそちらの方に注意を注いでしまう。
「作戦指令室で集合がかかっています。すぐに中央棟に向かってください」
「分かった」
ここ数日、南部のルウキ方面でソビエト軍の動きが活発で、幾度となく兵を差し向けることになっている……しかし実際に現地に行くと敵はすぐに撤退してしまう。まるで注意をそちらに引こうとしているかのようだ。
「イギリス本国からの特命で、急遽北部方面へ長距離威力偵察を行うことになった……大隊の半数をそちらに差し向け、残りはこれまで通り南部方面の警戒任務を続ける。以上」
大隊長が命令を伝えると、アーロンはすぐに意見具申を行った。
「大隊長、私の勘では北部には何か危険な存在があるように思えます……もっと兵力を集中させて注意深く作戦を進めるべきかと……」
「だが活発化している南部の警戒も疎かにするわけにはいかない……北部の任務は私が率いて行うので、君は引き続き南部の警戒任務を頼む」
「ならばせめて私に偵察作戦に行かせてください……私なら危険を察知して避けるのが他人より得意ですから」
けれども、彼の提案は却下されてしまう……アーロンは今まで数々の功績を上げていたが、グルカ山岳旅団にとっては相変わらず、本国から預かっているお客様だった。
「大尉、君も昇進したのだから自分の考えだけでなく上の考えも理解してくれ。勘が鋭いのはよく知っているが、君を危険な任務に就けるわけにはいかない……そのうち、自分で命令を下す立場になった時には、存分に力を使ってくれたまえ」
大隊長は、アーロンの意見を入れてやれないのを少し残念そうに笑った……そしてそれがアーロンの見た彼の最後の姿だった。
北部への威力偵察は失敗に終わり、指揮官も含めて大部分が未帰還となった……グルカ山岳旅団には兵力の再編が必要との判断がなされ、本国への一時帰還が命令された。結局、歴史は変わらないのか北極狐作戦は方針転換を余儀なくされ、これに連携した白金狐作戦も先行きが怪しくなってきた。
「アーロン、我々はどうすべきだろうか?」
アーロンの指揮下には途中から行動を共にしているタルタリア人戦士達が含まれていた。
「我々と共にイギリスまで戻ってもいいし、君達がここから別行動をとりたいならそれでもいい……私としては共に来てほしいが君達の考えを妨げるつもりはない」
彼らは帝政ロシアに奪われた祖先の地を取り戻すという目的の為、逃げ延びたこの北の地から遥か南を目指しての旅路の途中なのだ。
「……そうか。あんたの行く末をもう少し見ていたい気持ちはあるが、我々も自分の使命を果たさなければならない。今は千載一遇のチャンスなのだから先を急ぐことにする。ここでさらばだ、友よ」
「……分かった。私も君たちと別れるのは寂しいが目的の為なら仕方ない。軍の方には私から伝えておく……君達の願いが一日も早く果たされることを願っているぞ!」
「ああ、達者でな」
そう話すと、タルタリア人達はグルカ山岳旅団と別れ、別の道を進んだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
場所は変わり、ここはロンドンのダウニング街10番地の首相官邸……折しも閣僚会合の真っ最中だった。
「アメリカがソビエトへのレンドリースを再開するという噂は本当のようです。我々の派遣部隊を調査に向かわせたところ、白海沿岸方面で強力なソビエト軍の攻撃に会ったようです。……レンドリース物資を陸揚げし輸送する為、この方面の守備兵力を強化しているのではないかと推測されます」
「外交ルートを通じてアメリカにレンドリースの再開について問い質したのですが……彼らはその事実を認めませんでしたな」
軍務卿と外務大臣の報告を聞いた後、チェンバレン首相は考え込みながら
「そうか。さて、どうするかな……ここでソビエトに兵力の立て直しをされると我々には、あまり望ましくない状況になるかもしれん」
「敵に対抗して派遣兵力を増強するのはどうだ……補給ルートの妨害くらいは出来るようになるだろう」
「軍務卿は簡単に増強とおっしゃいますが……まさか戦車師団を送り込むわけにもいきますまい。国際世論のイギリスへの印象がドイツ並みに悪化しますぞ」
「……難しいな。ルーシー君、何か妙案はないかね」
いきなりチェンバレンに振られて、あからさまに顔を顰めた彼女は
「首相閣下、そう気安く解決策を求めないでください。私はオブザーバーであって、貴官のブレーンではないのですから」
「……そうか? 君のドイツとか日本の友人を焚き付ければどうだろうか。彼らは派手にソビエトとやり合っているようだし」
座の中央の人物は、そう言ってすました顔で笑みを返してきた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
東シベリアでの戦いも一息ついた頃、オレ達はドイツにいるテンちゃんから『イギリスのルー何とか?から、自分勝手な呼び出しが来てるけど』って言われた……誰だよイギリスのルー何とかって?!
オレと華子さんは仕方なく予定を調整して、ロンドン郊外のロスチャイルド邸を訪ねた(もちろん憑依で)
「それで、オレ達に何の用事ですか?」
ここで冒頭の話となる……。
唐突にクリスマスプレゼントの催促をされるとは……さすが英国淑女。訳が分かんないぜ!
「……あの~、もう少し分かるように話してもらえますかね?」
オレは困惑と苛立ちを半分ずつ込めたような口調で問い返す。
「日本は中国からプレゼントをもらえるらしいじゃない……」
さらに訳が分からない……オレはポカンとしていると、隣の華子さんが怒りのボルテージを上げながら
「……ちゃんと対策は考えとくから、お気になさらず!」
と言い返した。オレはテンちゃんに『華子さんは何を怒ってるの?』と念話で聞いてみた。するとテンちゃんは『中国共産党がモンゴルの軍閥と手を結んで日本の占領地を荒そうとしているっていう情報が彼女の頭の中にあったわ』と教えてくれた……そのルーシーさんの皮肉発言に華子さんが怒ったってわけか。
「それと、アメリカがソビエトにプレゼントを送ろうしているらしいの、それでウチのお年寄りがうるさいのよ……彼らをなだめる良いアイデアはないかしら?」
華子さんは今度は眉間にしわを寄せて困り顔になっている……きっとまた実際の発言と頭の中は違うのだろう。どうしたもんかとオレが考えていると
「なるほど……フランスがイギリスとの協調路線から離脱したので、共同で圧力をかけていたアメリカのレンドリース中止が有名無実化してしまったと……しかし、これ以上日本も協力するのは難しいですね。なにしろ今は日本も戦時体制ですから……むしろ直接戦争に手を出していないイギリスが一番融通が利くのでは?」
華子さんがルーシーさんへの回答ついでに状況説明をしてくれた……もう、実際の発言と言いたいことが違うとか、回りくどいことは止めようよ!
それは置いておいて、たしかに今の日本に余裕はあまりないのは事実だ。華子さんの言うように一番余裕があるのはイギリスだろう。
「……国際原子力管理委員会の草案を、イギリスが国際連盟に提案しようかという話がある」
あー、今さらそんな奥の手を使ってくるか!? さすが外交博徒、交渉の仕方が汚い……そんなふうに悪態をつきながらも原子力の国際管理は、ぜひ進めておきたい案件だしと、すっかり餌に引っかかっているオレ。
しかし、どうするかなぁ……比較的余裕があるのは海軍か。遣欧艦隊を追加するか……いや、でもそれを国内向けに説明するのは難しいなぁ……黙ってこっそり送り出してもらうとか……いやいや、そんなのは山本司令長官も久永殿下も説得できない……そんなことを考えていたら、華子さんがアイコンタクトしてきた(憑依していてアイコンタクトもないもんだが……)
「石油掘削および精製技術諸々とダイヤモンドシンジケートへの参加権。あとMI6と国際世論誘導の共同作戦の実行で手を打ちましょう……貴女なら安いもんでしょ?」
ええっ! なんかいっぱい華子さんがルーシーさんに条件を吹っ掛けてる! ……ってか、何かいい解決策を思いついたんだろうか、華子さん。
「ずいぶんと、いろいろ並べたわね……まあ、その程度は大したことはないか。で、どうするんだ?」
ルーシーさんは要求を呑むようだ……石油掘削技術とかダイヤモンドシンジケートとかイギリスにとっては簡単なことだろうけど。最後のMI6って何するつもりなんだろう……菊機関がらみの話かな?
「じゃあ、OKということで。すぐに担当者を英国に向かわせます……あぁ、アメリカに皮肉の一つも言ってやったら面白いかもしれませんね。イギリス人らしく」
華子さんは、そんなことを言って話を切り上げた……オレにはよくわからないが、まあそれで話が済むならと思い、この場を後にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「簡単ですよ。アメリカがするなら日本もレンドリースをやろうかなと」
日本に帰ってから、華子さんに詳しい話を聞いたらそんなことを言い出した。
「レンドリースって、何を?」
日本で余っている武器はないはず……まぁ海軍関係なら何とかなるかもしれないけど華子さんがそんなことを言うはずもないし。
「つまるところ、レンドリースって不良債権の有効活用みたいなもんですから……あるでしょ、日本にも要らなくなった物とか」
要らなくなったもの……いや、思いつかないが。
「あれですよ……「て」が付いて「い」で終わる物」
えっ?? てがついていで終わる……て、て、て、手ぬぐい。店頭販売、手あたり次第……ダメだ。ろくなのが思いつかない。
そんなことを考えていたら、華子さんに混ぜっ返された。
「他にも、敵兵とか、挺身隊とか、テンジン・ノルゲイとか(笑)……あと、鉄機兵ね」
「! 鉄機兵?!」
「ええ、新型機を作ったので余っている機能制限版がありますよね。あれなら戦車ほど仰々しくなく戦力増強ができます。行く先が北極圏なので耐寒装備は必須でしょうけど」
まさにWin-Winといったところか……日本は要らないものを処分できるし、イギリスは目立たず戦力増強できる。オレは早速ルーシーさんに連絡を取って次の欧州向けの輸送船でイギリスに運び込んでもらうことにした。
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イギリス人は他国からレンドリースした武器に失礼な名前を付けるのが好きなのか(史実でアメリカからレンドリースされたM3やM4戦車に、南北戦争の将軍の名前を付けたり)今度も鉄機兵に「BENKEI」と名付けようとしていた……戦場で立ち往生してしまいそうだ。
オレがその名前は縁起が悪いと説明した結果「ラプトル」になった……由来はヴェロキラプトルという恐竜の愛称だそうだ。なんでも小型で俊足で「すばしっこい略奪者」だそうだ。まあ弁慶よりはよっぽどいい。
でも出来たらT-Rexの方がカッコいいと言ったら、ティラノサウルスは強いが鈍足だからイメージが違うと言われた。それとヴェロキラプトルは主に発見されるのがモンゴルとかロシア東部だそうだ。それに対してティラノサウルスは北米だとか……一応、関連性を考えてはいるんだ。
まあ、ラプトルも綴りはF22と同じだし、いいか。




