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第91話 対ソ戦、ザバイカル大戦車戦、その2

 本間第三軍の航空支援強化の作戦により日本軍はバイカル湖方面に、かなりの数の偵察機を動員することになった。そしてその中には日本軍が一年ほど前から、それまでの九七式司偵(1937年に東京・ロンドン間飛行記録を作った神風号はこれの試作機)に代わり投入された一〇〇式司偵があった。これは日本陸軍が他国に先駆けて構想、開発した戦略偵察機であり通常の前線を越えて敵陣深く侵攻し、敵の機密情報を得るという米軍のSR71(ブラックバード)を先取りしたような機体だった。


 ウラン・ウデから移動をし始めたソビエト軍戦車軍団は、いち早くこの偵察機に発見された。

「バイカル湖南岸を飛行中の索敵機05から入電。『われ地点025に集結中の敵戦車多数を見ゆ』」


「よし、ついに敵位置を突き止めたか。索敵機05にはそのまま離れず監視を続けさせろ!」

「地点025ということはタルバガタイ辺りか……予想とかなり違ったな。ウランバートルの特別航空隊に発令。タルバガタイから幹線道路2 5 8アフトダローガバイカル沿いに集結する敵戦車部隊に向けて、直ちに対戦車襲撃機部隊を発進これを撃滅せよ!」


「本間司令! 他にもいるかもしれません。ソビエト国境近くに展開している味方戦車部隊も出撃させて対抗させるべきかと」

モンゴルの本間第三軍は100両以上の戦車部隊をウランバートルからウラン・ウデを結ぶ幹線道の国境付近、スフバートルに集結させていた。

「……いや、敵の数も意図も不明確なまま軽々に行動を起こすべきでないな。すぐに出撃できるよう準備だけさせておけ!」

「はっ!」


 しかしながらソビエト軍も無警戒で大規模な地上部隊を動かしているはずもなく、上空には新型のYak1戦闘機が防空任務を行っていた……日本軍の偵察機が地上軍を見つけられたのは、高速性を活かしてソビエト軍の想定より、かなり深く入り込んでいたためだった。しかし監視の為にソビエト地上軍に近づいた結果、警戒中のYak1に発見されることとなった。


「敵機発見! 12時方向からこちらに向かってきます!」

「……まずいな。すぐに反転して離脱しよう」

それまでのソビエト空軍機は太く短いシルエットのI16が主で、これは配備当初こそ世界最速を誇る優秀な機体であったが時代の進歩は早く、この頃は既に対処の容易な相手となっていた……しかし上空から近づいて来る敵機はI16とは違い細身で如何にも速そうなシルエットの機体だった。


「くそっ! いつもの奴よりずいぶん速いぞ。こうなったら後席の機銃で……」

一〇〇式司偵は大型の双発機であり、如何にも軽快な戦闘機相手には分が悪そうに見えるが実際は陸軍機最速を誇る機体だ。

「大丈夫だ! こいつより高速な機体はそうそう居ない。下手な小細工をするよりまっすぐ逃げろ」

実際一式戦「隼」よりも速い最高速が出せるYak1であったが一〇〇式司偵のそれは、さらに勝っていた。旋回中は急速に両者の距離が縮んだように見えたが、その後は互いの距離が近づくことはなかった……Yak1のパイロットはBf109にも対抗できる自機に絶対の自信を持っていたが近づけずに、むしろジリジリと離されていく様子に焦れて闇雲に機銃掃射を仕掛けてきた。しかしそんな遠距離の銃撃が当たるはずもなく偵察機05は窮地から脱することができた……それでも敵戦車部隊の監視を続けることができずに追い払われたことを考えると結果は痛み分けと言えたかもしれない。しかしその後に送られた一文が、後の戦闘に大きな意味を持つことになった。


「何とか振り切れたか……本部に連絡『敵機に追尾され監視任務を離脱。敵に高速の新型機有り』」


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


 ウランバートルから発進した鶚部隊は、そんな一〇〇式司偵とYak1のやりとりが終わった後、暫くしてから戦場に到着した。

「我、移動中の敵地上部隊を発見。これより攻撃に入る」

草原を大移動するバッファローの群れのごとく土煙を上げて走る大戦車群は、位置が多少ずれても容易に発見することができた……だが地上軍の上空にYak1がいなくなったわけではなかった。


 爆弾倉から37ミリ機関砲を展開した鶚Ⅲ型40機が、丘陵地帯を突き進むソビエト戦車群に攻撃を加えようとしたその時、上空からYak1戦闘機の大編隊が逆落としを掛けてきた……バイカル湖周辺の3つの基地から飛び立ち、湖上で集合した第11独立空中襲撃旅団の戦闘機部隊が日本の対戦車襲撃機を邀撃するため待ち構えていたのだった。

「……勝ッタナ。日本ノ黄色イ猿ドモハ、我々赤軍戦闘機部隊ノ輝カシイ戦果ノ一部トナルノダ」


 優速で20ミリ機銃を装備するYak1戦闘機は、なかなかに強力な戦闘機であり小型低速な鶚では相手にならない……そんな絶体絶命の危機を救ったのは一〇〇式司偵からの情報を得て飛び立ってきた震星戦闘機部隊だった。震星が遠距離からパッ、パッ、パッと光を発すると、鶚に襲いかかろうとダイブを始めた先頭のYak1数機が、突然そのまま煙を吹いて墜落していく……さらに後続のYak1も次々と爆発を起こして錐揉み状態となって墜落していく。

「間に合ったようだな……さあ、落ちろ!蚊トンボ!」


 ドイツでは長距離高速爆撃機として使われていた震星は、今回のシベリア戦では、爆弾の代わりに初めて実戦配備された誘導噴進弾「天狼」を集合発射筒(ミサイルポッド)で両翼のハードポイントに装備した高速制空戦闘機として運用することになった……震星は次々と照準に入ったYak1に向けて新兵器を発射していく。

「ズンッ!」「ズンッ!」「ズンッ!」

37ミリ機関砲ほどの衝撃はないが発射時からフル加速で飛ぶ天狼は撃つ側にもそれなりの衝撃が伝わる。

後の空対空ミサイル(A  A  M)に比べれば鈍足で追尾能力も低いが、レシプロ機の回避機動程度には十分に追従していく速度があり、新しく追加された磁気近接検知により機体に直接命中しなくても近傍で爆発して被害を与える事ができるようになっていた……そんな誘導噴進弾を一機につき18発づつ装備した震星は、火矢でも吹くようにYak1戦闘機部隊を撃ち落としていく。


「上の方で何かやっていると思ったら、敵の迎撃機を震星が撃ち落としてくれていたようだぜ」

「巴戦もせずに次々と撃ち落としていくとは、味方ながら恐ろしい戦闘機だな……だが、おかげでこっちは安心して敵戦車に当れるってもんだ」

「おう! 俺達も自分の仕事を、きちっとやり遂げるぞ」

「「「「了解!」」」」


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


 ドイツ軍のスツーカばりに、37ミリ機関砲を装備した鶚Ⅲ型襲撃機は、眼下の草原を土煙を上げて移動するT34の大軍に襲い掛かっていく……これくらいの大口径になると、撃った反動で機体がぶれてしまう。史実の屠龍なども連射すると2発目以後は、なかなか命中しなかったようだ。そもそも1門あたり16発しか弾丸を装備していないため連射するようなものでもないが……ということで鶚も1発ずつ狙いをつけてT34の上面装甲めがけて撃ち抜いていった。

「ドゥーン!」

「ドドゥーン!」

彼方(あちら)此方(こちら)に砲塔上部やエンジン部に命中弾を喰らって、大破あるいは炎上した車両が出来上がっていった。スツーカのように急降下ではなく緩降下に近いが、その分慣れてくれば一度の降下中に数両の戦車に命中弾を与えられた……それでも第一波の攻撃ではソビエト軍の半数近くの敵戦車(T 3 4)が残った。通常、半数も戦力が喪失すれは、その部隊は壊滅状態となり再編成を行う必要がある。しかし彼ら(ソビエト軍)に作戦中止の文字はなかった。


 ある程度の損耗は指揮官にとって折り込み済みであり、たとえその戦力が失われようとも最終的に日本軍との戦いで、敵味方双方が損害を受ければソビエトにとっての戦いは勝利となる……彼らには日本とは比べ物にならない補給力があるからだ。そして、そうした指揮官の命令に異を唱えることは、前線のソビエト軍兵にとって、あり得ない事だった……ソビエト戦車部隊は一方的に攻撃され続けられても、敵戦車部隊を求めて前進を続けた。


ついに彼らの決死の進軍は実を結んだ。前方に日本軍の戦車部隊の側面が見えたからだ……T34の咆哮がこだまする。これには日本軍戦車部隊も、たまらず攻撃方向を変えて応射し始める……ついに敵味方1000両以上による泥沼の戦い(ど突き合い)が始まった。


 ウラン・ウデからチタに進軍する間に広範囲に散らばった戦車部隊が、丘陵地帯で、森林地帯で、ある者は遮る物のない遠距離からの戦車砲の撃ち合いを行い、またある者は木々の間に隠れて進んでくる敵部隊を奇襲する伏兵となり、さらにそれを後続の戦車が応射する……両軍が入り乱れて死闘を繰り返し、互いの戦力の擦潰し合いを続ける中、ウランバートルから鶚Ⅲ型襲撃機隊の第二波が戦場に現れた。敵味方が混じり合う中では第一波ほど簡単な襲撃はできないが、それでも移動中の敵戦車を見つけては、しらみ潰しに攻撃を加えることによりボディブローのように戦いに影響を与えていった。


「クソ、敵ノ襲撃機ガ……、味方ノil2ハ、マダカ。ソレ迄耐エレバ我々ニモ勝機ガ……」

 しかし、ソ連戦車部隊の待ちわびる第11独立空中襲撃旅団のil2襲撃機と護衛のYak1は戦場に現れた途端に震星の誘導噴進弾の餌食になっていった。……ここでも誘導噴進弾の存在が決定的な力となった。


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


 本間第三軍の戦車部隊が敵戦車部隊の掃討の為、スフバートルを発したのは大勢の決着がついた翌日のことだった。既に戦いのために弾薬と燃料を消費して思うように戦えない残存兵力(T34戦車)は、新手の特四式戦車にとって難しい相手ではなく、敵味方双方が戦力をすり潰した後の戦場に、無傷の戦車部隊が存在することは決定的な差となっていた。



ようやく大戦車戦の大勢が決着しました。

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