第89話 対ソ戦、ジューコフと鶚Ⅲ型襲撃機
ゲオルギー・ジューコフは、ソビエト軍の上級大将であり国防人民委員と親しく、しばしばスターリンの代理として戦線をテコ入れする役割を任されるほど重用されていた。もともとは騎兵出身だが後にフルンゼ軍事アカデミーで研鑽を積み、そこで得た知識を元にした戦争理論と冷徹な指揮能力を併せ持ち、なおかつ党から粛清を受けないよう気を配る周到さも合わせ持っている。
1930年代のスターリンによる軍高級将校の大粛清にも生き残り、ソビエト最大の軍管区であるキエフ特別軍管区司令官を任されたり、独ソ戦序盤のウクライナ防衛戦では最高司令部STAVKAの代表として戦争指導を行い、史実ではレニングラード戦線司令官、西部戦線総司令官、モスクワ防衛全権を歴任したドイツとの攻防戦の中心人物であり、『常勝ジューコフ』という伝説となった人物だ。
一方で、あまりに厳とした作戦指揮は時として部下との軋轢を生み、部下の能力を引き出すという上位の指揮官として重要な資質を疑問視する者もいた。
オレはジューコフに関する資料を見て、ため息をついた……こんなのと戦って勝てるのか? 独ソ戦の最中、こんな大物が日ソ戦側に来るなんて思いもしていなかった……対ドイツ戦線が膠着気味だからだろうか。
とにかくオレはジューコフがシベリア戦線に赴任したという情報をもたらした菊機関の長、華子さんと善後策を考えている。
「まずいですね。ジューコフは常に十分な戦力で理屈の通った戦い方をする人物です。彼が来るということは大規模な補充兵力も引き連れてということでしょう……対する我が第一軍は戦争開始前のソビエト・シベリア軍と戦うのに間に合う程度の数しかありません。補充された戦力とやり合うには力不足は否めません」
「……具体的には、どれくらいでしょうかね」
オレは何か掴んでいる情報があるかと思い、華子さんに聞いてみるがあまり詳しいことはないようだ。
「さぁ……ジューコフが来るのに補充が師団程度ということはないでしょう。最低でも4個師団……軍団規模ということも十分あるでしょう。戦闘車両にして500から2000両、兵員数も10万から20万程度は有り得ると考えます」
……かなり幅が広い。困った事に、この戦いはオレの知っている歴史にはなかったことなので未来の情報を使って先回りすることもできない。
しかたないので第二次大戦で起こった大規模地上戦を調べてみると……クルクス大戦車戦は東部戦線で起こった戦闘でドイツ軍は戦車2800両、航空機1800機、兵員90万人。ソビエト軍は戦車3300両、航空機2600機、兵員130万人が動員されている。それぞれ2~3方面軍を擁して行った一大決戦なので今回とは規模が違うが……あるいはバルジ大作戦ことアルデンヌの森の戦いでは、ドイツ軍は戦車757両、航空機2000機、兵員20万人。連合国軍側はよくわからないが、ドイツより少ないということはないだろう。
一方、現在の日本軍は全ての戦車を集めても600両内外、鉄機兵が第13独立戦隊と第二軍の守備陣地に配備された分を含めて120機、航空機は500機程度、兵員35万といったところだ……航空機は新鋭機が揃っているのと搭乗員の練度が高いのを考えれば日本優位といえるだろうが、個々の戦車の性能はうまく行って互角くらいなので数によってはかなりやばい。
「はやり戦車の数が足りてないですね……なにか対策を考えないと」
「……時休殿の作っている新兵器はどうですか? 誘導噴進弾などで殲滅できたりしたら最高なのですが」
華子さんは気軽にそんな事を言うが、対戦車誘導弾は画像認識ができないと無理だ。それに航空機や潜水艦は近傍で爆発すればOKだが、戦車はちゃんと命中しないと装甲を破れない。
「残念ですが、戦車には使えません……九九式破甲爆雷を投下したら敵戦車に吸着できればいいのですが、あれは兵士が肉薄して投げつけるものですし」
「……そんな武器があるのですか。いっそのこと落下傘を付けて落ちるようにすればうまく貼り付きませんかね?」
うーん、今後の研究次第ではうまく行けるかもしれないが目の前の決戦に使える武器ではないな……
「何か別のものを考えましょう……鶚の爆弾倉に大型機銃を付けて、ドイツの対戦車攻撃機のように使うのはどうです?」
「スツーカ?」
「えーと、ドイツで対戦車攻撃に使われている地上攻撃機です。日本にはこの手の航空機はないのですが、戦車相手には強力な武器のようです」
オレは華子さんに簡単な説明をしてみたが、あまり理解できたとは思えない。まあ、そこまで華子さんには求めてないし。
「問題は機銃なのですが、20ミリではソビエト軍戦車の装甲を抜くには、ちょっと心もとないというか……」
そうなのだ。スツーカのエースパイロット、ハンス・ウルリッヒ・ルーデル大尉が駆るのはJu 87 G-1で37ミリ機関砲を2門装備している。彼はこの機体で終戦までに519両(630両との説もある)の戦車を屠った。彼ひとりで一個師団の価値があると言われた男だ。
「……たしか陸軍にはホ203航空機関砲があったはずです」
華子さんの意外な知識に驚く。たぶん彼女は自分に関係なさそうな知識でも真面目に収集して勉強しているからなのだろう。本来、そういう兵器技術はオレの方が詳しくなければいけないのだが、自分達の作っているもの以外は素人知識しか持ってないからな……反省、反省。
「それは素晴らしいですね。じゃあ機関砲自身の開発は済んでいるので装備ポットを作ればいいですね……操縦席から照準・制御できる装置が必要か。鶚Ⅲ型として改造試作しましょう」
これなら急造でもなんとかなりそうだ……とりあえず、さっきの落下傘式爆雷も研究することにして、今回は航空機で何とか押し切れる作戦にしよう。石原参謀総長にも相談して作戦化してもらわないと。
またしても終わりませんでした(涙)……今回の資料のためにアンサイクロペディアのハンス・ウルリッヒ・ルーデルの項目を見て笑い転げてしまいました。
さあ、みんなで「牛乳飲んで出撃だぁ!」




