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第78話 オペレーション・メテオ、その2

「というわけで、ドイツから『震星を融通してもらえないか』って言われたんだけど」

オレは早速、華子さんにゲーリング元帥からの要望を相談してみた。


「そうですね……売ってしまうと、日ソ戦で何かあった時、足枷になるかもしれないので、ドイツでの生産が進むまで貸し出すということでどうでしょう。搭乗員込みで」

さすがの華子さんも、これについては日本優先で確保するべきという考えは変わらなそうだ。まあそうだよね、それに機体だけあってもパイロットがいなければ飛ばすことは出来ないし……パイロットの機種転換訓練はどれくらいかかることか。


「了解、日本からの増援とライセンス生産という話で交渉してみる……ところで日本(そっち)の状況はどうですか?」

まだこっちに来て二、三週間しか経ってないけど日本の様子も気になるので聞いてみると、開戦準備で、軍隊や物資の動員計画で大忙しらしい。

「私も第13独立部隊と共に大陸に行きますので、時休殿はそれまでに日本に戻ってきてください」

そうか、華子さんも部隊を率いて前線に出ることになるんだ。日本に誰もいなくなるのは避けたいよね……そうするとあまり時間がないか、早くこっちを片付けないと。オレは震星の派遣部隊の増派を要請、欧州(こちら)側でやることの準備するため、各所へ連絡を取り始めた。


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


 翌週早々、遣欧艦隊震星部隊による第一次ソ連軍軍需施設空爆作オペレーション・メテオ戦が開始されることになった。日本からの追加部隊を待っているよりは、とりあえず現有機だけで試してみようという判断の為だ。


 まず作戦の準備段階として震星をレヒリンから、ルーマニア東部国境近くのヤシまで移動させる。そして、ここを前線基地として東方約700kmのソビエト領内のハリコフを爆撃に向かう計画だ。ドイツ国内からでも震星の航続距離内になるが、現在の基地からは、どちらにしろ一度移動することになるので、それなら余裕があったほうがいい。それに、いくら陸上でも距離が長くなると目標地点を見誤らないとも限らない……慣れてきたら、爆撃隊の出発地を変えて敵の目をくらませるのも有りだとは思うが。


 8機しかいない震星に、すべて爆装をさせた攻撃全振り状態……震星の性能が敵を寄せつけないと判断できるからこそのやり方だ。本当は別のドイツ空軍機を護衛と道案内につけるという話もあったのだが、そもそも速度が違うし連携をとるには準備期間が足りないので単独作戦にした。時間帯も迷ったが敵の準備の整っていない時で、かつ有視界で地形を把握できるということで早朝に出撃することになった。


 6月某日未明、ヤシ空軍基地の震星爆撃隊は甲高いジェット機特有のエンジン音と共に短時間で飛び立っていった。一応、ドイツとルーマニアの電波発信所から位置を把握するための信号が出されていたが、最終確認は地形を目で見ながら行うことになる……一時間ほどで最初の目標のドニエプル川を無事通過すると、その30分程後、目標のウクライナ第二の都市、ハリコフ上空に到達した。


 4機ずつの2編隊を組んだ爆撃部隊は東側から侵入し、上空で街全体の様子を俯瞰する。

「うーむ、工場らしきものが多数あるな……どれがお目当ての戦車工場だ?」

街の地図は事前に入手していたが、さすがに軍需工場の位置までは調べがついていなかった。

「各機、横一文字で低空から市内の様子を目視、爆撃目標を捜索する。第一編隊は東西方向、第二編隊は南北方向から。以上編隊毎に散開!」

生島からの指示により各機は、地上を目視可能な高度まで降下し、速度もギリギリまで落として西側から第一編隊、南側から第二編隊が爆音を轟かせて低空でパスしていく……当然、地上では人々が何事かと騒ぎ始める。

 捜索の結果、まず最初の目標は市街地南部の貨物駅に決定された。

「線路が集まっている箇所を4番、8番機で叩け。散布界を広げるため高度を上げてからやれよ」

「「了解!」」


 2機が編隊から離れ上昇していき、残りは爆撃地点から離れた空域で、次の目標を探して低空飛行を繰り返す。やがて高空に遷移した2機の震星の弾倉から大型爆弾が緩降下爆撃で投下された。


 遠くからでも見えるほどの黒い塊は、地上500メートルほどでバーンと軽い音を発し、蜘蛛の子のように小爆弾を撒き散らす……中心に残った500キロ爆弾はそのまま落下していき「ズドン!」という地響きと共に爆発して、付近にあった線路や鉄道施設を吹き飛ばす。続いて小爆弾が少し遅れて落下し、その内の数割がパン、パン、パンと打ち上げ花火の星ような音を立てて爆発していく……しかし残りは落下時には爆発せず単に辺りにばら撒かれただけだった。これは信管が長時限式だったり、あるいは地雷のように落下後の振動が加わって初めて爆発するよう細工されているためだ。


「次はそうだな……東側の工場が隣接している地域だ。3番、6番、7番でやれ!」

「「「了解!」」」

新たに3機が編隊から離れ、上昇を開始する。大きな棟の建物を目掛け投下された爆弾は、工場の屋根を突き破り、用意されていた仕掛り部材を吹き飛ばし、多数の小爆弾も工場内の其処彼処に振り撒かれた。

「……さて、そろそろ敵の動きがあってもいい頃合いなんだが」


「隊長、先程の工場の西側に高射砲陣地が見えます。貨車の引き込み線もあるので、あそこも重要な場所であると考えられます」

「どこだ……ああ、あの飛行場の北辺りか。よし2番機、任せたぞ!」

「了解」

2番機は単機、大きく弧を描いて離れていくと遥か上空から急降下のような軌道で侵入し、通常より高い位置で爆弾を投下した……上空で一旦、小さな爆発が起こった後、高射砲のすぐ隣に落下した500キロ爆弾が高射砲を斜めに、ひしゃげさせると小爆弾が簡易地雷原を作り出す。これでしばらく、あの陣地を復旧させるのは無理だろう。


さて、あと2発か……どこに、お見舞いしてやるかな

「隊長! 11時方向から敵編隊が接近中。あと5分ほどで接敵します」

爆弾投下後、上空で警戒を行っていた味方機から無線が入る。

「わかった。3番、4番、7番、8番はこれにあたれ。6番は上空で別の敵が来ないか警戒だ。さて……もう一発は空港にお見舞いするか。5番機は空港の滑走路と誘導路が交わるところに落とせ」

4機は軽くなった機体で2機ずつに分かれて敵を挟み撃ちにするように加速していき、6番機は上空で円を描くように警戒を続ける……そして5番機は空港の滑走路を着陸よりもだいぶ上の高度をとってパスしていき、職人技のようにピッタリと滑走路と誘導路の交点に爆弾を落とした。


 最後に敵機が接近してくる北方の街外れに、製鉄炉のようなものを発見した1番機の生島は、敵編隊に立ち向かうように高速で上空まで駆け上がると一転、速度を絞りハンマーヘッドのような変形ロールで逆落としをかけ爆弾投下後し、さっと離脱していった。

1番機が飛び去った後に溶鉱炉の塔状の建物が爆発と共に崩れ、辺りに赤々とした炎の流れが広がっていく。


 震星部隊を迎撃に飛来したのはソビエト空軍のYak-1だった。これはノモンハンなどで使われたI16のような寸胴な機体ではなく、イスパノスイザ水冷を内製化したM105 V12気筒エンジンで「美男子」と呼ばれるほどスッキリとしたデザインだ……さらにプロペラ軸に20ミリ機関砲を搭載しコックピット周りの防弾鋼板はBf109の機銃では撃ち抜くことができない。Yak-1はこれまでのものより、かなりよい機体だったが相手が悪かった。


 遠目からでもはっきりと分かる見たこともない震星のシルエットは敵のパイロットたちを困惑させた。彼らはドイツ軍機ならBf109だろう判断して迎撃に来たのだが、Bf109より遥かに速い敵新型機(unknown)は、見る間に12機のYak-1を取り囲み、後方につけた2機から20ミリ×4の強力な機首機銃の掃射が始まる。Bf109の7.92ミリとはレベルの違う弾丸は触れるだけで簡単にYak-1の機体をバラバラにしてしまうほど強力だ。そして獲物の集団を追い抜いた最初の震星が両側に掃けると、それまで両脇を固めていた待機組の2機が入れ替わり、後方から次の攻撃を繰り返すいう姿は、まるでシャチが獲物を狩っているような状態だった。


 瞬く間に2機、そして4機と数を減らす迎撃編隊は、何とかして敵機の包囲を抜けて反撃の機会をうかがおうとするが、そこに爆撃を済ませた震星が合流してきた。

「よし、1番、2番、5番、6番も敵編隊の迎撃に向かうぞ! 高度5000まで上昇し先行4機から逃れた敵機を狙え」

「「「「了解」」」」


 こうして爆撃任務の余勢を駆った8機はソ連迎撃機をすべて撃ち落とすと、もと来たルーマニアの前線基地に向けて帰投していった。


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


 あまりに呆気ない成功に、震星隊は爆撃の確認と追加爆撃のため再度ハリコフ上空に飛来した。さらにその後、時間帯を変えたり大きく回り込んで侵入方角を変えたりして何日も爆撃を繰り返した結果、ハリコフの工場群は完全に使用不能に陥ることになった。



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