第74話 キラーマテリアル「ハイブリッド・セラミックス」
注: この話の「ハイブリッド・セラミックス」は、いわゆるセラミックス複合材料(CMC)とは異なり、ハイブリッドICのように個々の素材が残ったまま焼結されたものです。
鉄機兵の機体制御など兵器内にコンピューターを搭載するため、TKT計算機をさらに小型化したものを作らなければならない。元いた世界みたいにマイコンチップがあれば簡単なんだけど……
まずは汎用のプログラムを実行する部分を簡略化して実行制御を行う、専用のシーケンスコントローラ的なものだ。これでできるのはセンサーからの信号に単純な計算や条件による、あるいは表データに書かれている値を出力すること。すでに汎用計算機ではないが、これなら基板一枚に収まるようになる。
しかし、こんなことを考えていた時、セラミックと磁気デバイスで協力してもらっている企業から、もっと画期的な技術がもたらされた。ハイブリッド・セラミックス技術だ。これはセラミックスを作る際に別の素材(だいたい金属材料だが)を同時封入できるようにすることで、今まで手作業で作られていたコイルやコンデンサ、抵抗といった部品を組み合わせた状態の部品が機械生産できる……つまり集積回路がつくれるようになる。
もちろん、後の時代のICやLSIのような集積度ではないが、セラミックスによる封止で衝撃に強く取り扱いが簡単、かつ小型化できるという良いこと尽くめの技術だ。さらに真空管に応用すればカソードやアノード、グリットといった電極を同じようにセラミック内に封入してしまうことで、アメリカのベル研究所が作ろうとしていた固体真空管そのものが作れる……これにより今まで日本では諦めていたVT信管など砲弾に組み込める耐衝撃真空管も作れるようになった……まさしく、夢を実現する技術だ。
日本に帰ってきた直後、先の見通しもないまま始めた基礎技術研究が、ここにきて花開いたという感じだ。ジェット戦闘機や噴進弾などの直接的なものではないが『これがあればアメリカに勝てる』という未来が見えてくるチート&キラー・テクノロジーだ。どれだけすごいかって、史実の大戦末期の日本軍とアメリカ軍の技術格差がまるっきり入れ替わるくらいの状態を作り出せる……もちろん、ちゃんと実用兵器まで落とし込めればだが。
これを使えば大きめの本くらいのサイズで今までのTKT計算機が作れるはずだ。いやもっと処理能力の高い16bitクラスの計算機も作れるだろう……こうなると計算機の総合的性能を引き上げるために、もっと大容量の記憶装置が欲しい。いくら小さいとはいえ磁気コアメモリーでMBオーダーの主記憶を作るのは無理だろう。こうなったら未来技術で磁気バブルメモリーとか作れないだろうか……それと、磁気テープ外部記憶装置は欲しい。やばい……どんどん夢が広がってしまう。これじゃあ今の研究体制では全然足りない。ちょっと華子さんと久永殿下に話して、日本の将来の目標を変えてもらわないと……半導体技術で大発展した史実の日本が、何十年も前倒しで電磁気技術とハイブリッド・セラミックスでもたらせるかもしれない……日本の将来をこれに賭けてもらってもいいような気がしてきた。日本中の大学にセラミックスと電磁気技術の専門課程を作ってもらおう。そして商工省にも民間産業を育成してもらって……はぁ、戦争を考えるより、こっちの方がよほど希望的なんだけどなぁ。
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あまりに夢想的に広がってしまった考えを冷やすため、いったん脇に置いて(将来のための計画としては、ちゃんと進めるけれど)今はこれを使った超小型計算機、というか元々考えていた機器制御コントローラーに考えを戻そう……これなら機能を削ってプログラムを専用回路に置き換えて、なんて涙ぐましいことを考えなくても、そのままTKT計算機を小型化して組み込める。いや、もっと高度なプログラムを組み込むことも可能だ。鉄機兵の操縦だって自立制御できそうだし、高度な暗号装置とかもタイプライターくらいの大きさで作れる。さっそくTKT計算機チームに小型・高機能版計算機の開発を依頼しよう……って思っていたら、もうすでに開発は進められていた。まあ、もともとその目的のために発明された技術だし……でも、みんな有能なのでオレがいなくても問題ないんじゃないかと、すこし悲しい気もする(贅沢な悩みだけど)
これだけでも相当、チートな状態だったのに、この技術は電磁気回路に留まらず装甲技術にも応用できることが分かった。
セラミック電磁気素子は、コイルや回路を作り込んだ状態でセラミックスを焼結させたが、電気回路用の金属ではなく装甲材料の基材(炭素鋼とかクロモリ合金とか、ジェットエンジン用のセラミックス合金とか)をセラミック基材中に組み込んだ状態で焼結させることで金属装甲の耐衝撃性とセラミックスの硬度、耐熱性を併せ持ったものが作れる……セラミックスの筋肉中に毛細血管のように金属繊維が入り込んでいるようなものだ。当然、全金属製の装甲よりずいぶん軽くでき……今までの常識をすべてひっくり返してしまう、まさに夢の材料素材技術といった感じだ。




