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第55話 エンスラポイド作戦とケンブリッジファイブ、その2


こうしてラインハルト・ハイドリヒ殺害計画である、エンスラポイド作戦は実行に移された。


 イギリスの特殊作戦執行部によって養成されたガブチークとクビシュという二人のチェコ人エージェントが極秘裏にドイツ占領下のチェコに潜入し、抵抗組織の協力を得ながら襲撃計画を練り、最終的に自宅から執務を行うプラハ城へ移動する途中の道で車を襲撃することにした。


 ハイドリヒは毎朝、プラハ郊外のパネンスケー・プジェジャニ村の家から、自分専用のメルセデス・ベンツのオープンカーで通っている。彼らは車が途中の下り坂で大きくカーブし減速した時に機関銃で襲撃することにした。


 そして、ある晴れた日の朝。いつも通過するはずの9:30になってもハイドリヒを乗せた車はそこに現れなかった……グビシュは焦った。計画が露見して違う道に変更されたのではないか、そうだとすれば、そのうち治安警察が不審者狩りを行うことは目に見えている……早くここから立ち去るべきではないか。


 彼は何度も、もう一人の襲撃者のガブチークに、それを伝えようと考えた。しかしたまたま自宅の出発が遅れていたハイドリヒの車が、ようやく一時間遅れでその地点に現れた。車がキルヒマイヤー通りから、クライン・ボレショヴィッツアー通りへ右折する下り坂のヘアピン状のカーブに差し掛かる……ガブスチークが歩道から踏み出し短機関銃を構えて、ハイドリヒに狙いを定めて乱射しようとした。


 しかし装弾不良で銃からは弾が出なかった。焦って何度も引き金を引く男の姿は、車に乗っていたハイドリヒからもよくわかり、彼は運転手に停車を命じ自らの拳銃に手を掛けた。その時、別方向から事態を見ていたクビシュは、発砲しないブスチークを見て、反射的に手にした手榴弾を投げつけた。手榴弾は車の右後輪付近で爆発し、車体に穴が開くほど大きな被害をもたらした。


 襲撃されたハイドリヒは、すぐに病院に運び込まれチェコ人医師の診断を受けたが肋骨、横隔膜、脾臓に裂傷を受けていることがわかり、すぐに手術が必要な状態だった。しかし彼はチェコ人による手術を拒否し、ドイツ人専門医を派遣するよう要求したため上司であるヒムラーへ連絡が取られることになった。


 ベルリンで連絡を受けたヒムラーは、すぐにドイツ人医師を手配した。しかし医師は、すぐには見つからず結局、手術が行われたのは3日後のことになる。ハイドリヒは手術の翌日は、面会し短い会話を交わせるほどだったが、2日後には胃腔の感染症が発症し昏睡状態に陥ってしまった。


 そんな時、ヒムラーのもとに思わぬ面会者が現れた。ベルリンの酒場で見初めて以来、何くれとなく後援し今では、そこそこ有名な映画女優となったリリー・ピアフだった。

「ヒムラーさんの知り合いが大怪我で入院された聞いて……私、B.J.という天才的外科医の話を、知り合いのお金持ちから聞きました。どんなことでも奇蹟のように治すことができるそうです。この人に治療をお願いしたらいかがでしょう?」


 最初は取り合わなかったヒムラーだが、執刀した医師にも手の施しようがないと匙を投げられると、藁にもすがる思いでその医師に連絡を取ることにした。


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


 その夜、上手く役目を果たしたリリーことジャンヌ・フォンテーヌの夢の中に女神様が現れた。

「(ジャンヌ、ありがとう。これで大きく神の願いを進めることができるわ)」

しかし、ジャンヌは心配そうに尋ねてきた。

「(女神様……でもよろしかったのですか? 彼はナチスの重要人物みたいですから、いなくなったほうが世界のためなのでは?)」

「(大丈夫です。彼が、そのまま助かるわけではありません。身体は元のままでも、その中身は神の使いになるのです……残りの人生は、今までの償いをするように過ごすことになるでしょう)」


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


医師の姿で、ハインリヒが治療を受けている病院へ行く道すがら、ハクちゃんはテンちゃんと念話で話していた。

「(しかし、私は天才医師の代わりをするなど出来ないぞ)」


「(大丈夫、祓い清めで感染症は抑え込めるから。そして私が代わりにハイドリヒの身体に乗り移って、回復したふうを装っておくわ……で、頃合いを見計らってあなたが仕事を引き継ぐのよ。その後の進め方はちゃんと相談に乗るから)」

しかし、不安そうにハクちゃんは訴える。


「(それこそ、私にできるとは思えんが……)」

「(やるのよ! いつまでも楽な立場だけじゃなくて頑張りなさい。もともと貴方がユダヤ人を助けたいって言ったんだから)」

彼は肩をすぼめて、病院の門をくぐった。


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


 一方、ロンドンではルクレチア嬢が彼女の養父であるヴィクター・ロスチャイルドと協議を行っていた。

養父様(おとうさま)、『ケンブリッジファイブ』は非常に危険です。私も調べてみましたが早急に刈り取らねばイギリスの根幹が蝕まれます……それとアメリカとの関係も見直すべきかと。あの国は戦争を通してイギリスの立場を奪うことを望んでいるようですから」


「『ケンブリッジファイブ』の件は、早速イギリス政府首脳(キャビネットメンバー)に伝えておこう。しかし、アメリカについてはそう簡単な話ではないな。もちろんキミが言うことも理解できるが……カードがもう一、二枚必要だ。こちらの件は今しばらく待ちなさい」





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