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第50話 冬戦争と救いの神、その1


「ソビエトは、いよいよフィンランドに手を出すらしい」

ゲッベルスは、わずかの間に作り上げたゲッベルス機関(元のリッベントロップ機関)からの情報により、そう判断して総統の考えを確認した。


 そして総統から『ソビエトと共同歩調をとる必要はない。むしろドイツの役に立つならフィンランドに手を差し伸べるべき、また国際世論をドイツに好意的にするため積極的に外交を行え』との指示を得た。


「まずはフィンランドか……」

ゲッベルスは、秘密裏にフィンランドのカヤンデル首相と会談し、ソビエトが『国土の割譲、防衛線の撤去やソビエト海軍基地の設置と約5000人のソ連軍の駐留』を要求してきたことを知る。


「それで貴国はソビエトの要求を飲まれるのですか?」

「まさか。しかしソビエトが軍事行動をとってくると我が国は非常に困難な事態に陥るので、譲歩できるギリギリを提示しているのですが……」

「あまり芳しくないと……よろしければドイツは貴国を援助したいと考えています。もちろん条件はありますが」


ゲッベルスの言葉にカヤンデル首相は表情をこわばらせ

「我が国に権益を求めるようなら、断固拒否します」

そう答えてきた。

「いや、大丈夫ですよ。そのようなことは要求しません……当然、支援に見合う経済的対価は求めますが」


「それも、すぐには……何しろ戦争になれば、いろいろ入用になるのは目に見えていますから」

先回りして、そう答えるカヤンデル首相に対して、ゲッベルスは柔和な表情で伝えた。

「それも承知しています。我が国が求めるのは貴国の鉱物資源の輸出契約です。必要ならドイツからの物資を先渡ししても構いません……それと、国際社会でフィンランドへの支援を求める行動をしようと思います。貴国もぜひドイツの行動に歩調を合わせて頂けることをお願いします」


「それは、願ってもないことですが……なぜそこまでドイツは我が国に好意を示して頂けるのでしょうか? あまりに釣り合いが取れていないと考えますが……」

首相の控えめな疑念の表現を、理解しているという顔でゲッベルス外相は

「いえ、ドイツも十分に利益を得られますよ。国際的立場の改善という利益が」


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


 フィンランドとの交渉を終えたゲッベルスは、今度はスイスのジュネーブに飛ぶ。国際連盟のジョセフ・アヴェノル事務総長に会うためだ。

「今さらドイツの外相が国際連盟にどのような御用ですかな?」

フランス人の事務総長であるジョセフは元々ドイツや日本、イタリアといった国を支持基盤として事務総長になったのだが、その後の相次ぐ枢軸国の国際連盟脱退により影響力が低下してしまい、無力な存在になってしまっていた。


「今一度、国際連盟の力を発揮してみませんか……そうすれば貴方の後援者もお喜びになることでしょう」

 この当時、国際政治に関係する者に後援者がいるのは当たり前のことだった。彼の場合はパリ、ロスチャイルド家であり、彼らは伝統的に反ロシア的立場をとっていた。


「それは、どのような?」

怪訝な様子で続きを促す事務総長にゲッベルスは答えた。

「ソビエトが起こすフィンランドへの侵略への対抗策を国際連盟が主導で行うこと。具体的には対ソ制裁、そして背後でソビエトを支援するアメリカのレンドリースの中止要請……これはロックフェラーを抑え込むことにも通じます」


「ほう、なかなか興味深い……しかし可能ですかな? 残念ながら今の国際連盟には各国を抑え込む政治力は不足しています。ましてアメリカに言うことを聞かせるなど」

「貴方の母国フランスが、イギリスと共に働きかければ可能でしょう……ヨーロッパの情勢に手を出すなと」


ゲッベルスの言葉に事務総長は目を伏せながら

「なるほどモンロー主義を建前とするアメリカに、ヨーロッパの自主的解決を宣言するのはよいやり方でしょう……問題はイギリスが意見を共にしてくれるかですが」


「パリ家の方からロンドン家に口添え頂ければ大丈夫でしょう? ロスチャイルド家は家同士の協力が堅いそうですから」

ゲッベルスは自分の読みを伝える。


「うむ。しかし、何か利がなければパリ家も……ロシアへの意趣返しだけでは」

彼の言葉にしばらく何ごとか考えていたゲッベルスは、ここで自分のカードを切った。

「よろしい……ドイツ国内でのユダヤ人政策の緩和。具体的には反ユダヤ主義宣伝の一時停止、強制収容所へのユダヤ人の収監政策の再考を行うとお伝え下さい。これはパリ家がロンドン家に恩を売れる内容の筈です」


 こうしてジョセフ・アヴェノル事務総長からの同意を得て、ロスチャイルド家に口添えをしてもらったゲッベルスは、一連の動きの最後にロンドンを訪れた。



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