第46話 ポーランド侵攻、その2
開戦から8日目、ドイツ軍が北方と南方からワルシャワを包囲しようと圧力を強めていた時、ポーランド軍に残された最後の反撃が開始された。
ワルシャワ北西部のブズラ川が大きく屈曲する場所に位置していたポズナニ軍は、ドイツ軍と戦闘を避けてきたため、ほぼ無傷でいたのに対してこの付近に位置するドイツ軍は第30師団だけで、局地的に戦力の逆転が発生していた。
9月9日、ポズナニ軍3個師団は、南部ウージ軍とクラクフ軍の間隙を埋めるため移動せよという命令を受け、まずドイツ第30師団に奇襲をかけ敗走させると、そのままブズラ川を越えて他のドイツ軍のワルシャワ包囲軍の背後を強襲しようと移動する。それを知ったドイツ軍は慌ててワルシャワ前面に展開していた3個師団を呼び戻して防御に当たらせつつ、空軍に爆撃要請を行った。
9月10日、南方のドイツ第10軍はワルシャワ南方のヴィスワ川、西側で攻勢をかけ僅かに残ったポーランド軍予備兵力のプルーシィ軍を包囲した。このままではドイツ軍の攻勢を防ぎきれないと判断したポーランド総司令部は、首都ワルシャワからの脱出を決定し、全ての部隊に対してポーランド最南部のルーマニア橋頭堡への移動、撤退命令を発した。
しかしこれがポーランド軍にとって最悪の事態を引き起こした。近代的設備の遅れていたポーランド軍は司令部間の連絡を有線通信に依存していたが、それは一旦、移動が開始されると移動が終了し通信網が再構築されるまでの間、通信手段が途絶し総軍としての行動、指揮が不能になってしまうことを意味していた。ポーランド軍は各地で大混乱におちいり、一斉に大潰走が始まっていた。
「ジェイコブ司令官! 総司令部から撤退命令です。『全ての部隊は現位置を放棄しルーマニア橋頭堡まで後退せよ』と、総司令部も移動を開始するそうです!」
通信隊員が基地の司令官室に駆け込み、そう伝えてきた。ジェイコブは隣で状況を見守っていた赤井旅団長を見る。これが彼の言っていた反撃のタイミングという事だろうか……
「赤井殿」
「はい、もはや総司令部は総軍を指揮することが出来なくなったと考えられます。只今より我々は、独自にドイツ軍に対して国土防衛戦闘を行うべきです。始めましょう、ジェイコブ司令官!」
「よし、基地総員に命令。本部隊はこれよりドイツ軍に対して反撃を開始する。出撃準備!」
連絡兵へ命令発令を伝えた後、司令官は傍らの赤井と作戦について詰める。
「まず本基地、西方のポズナニ軍と戦闘中の敵機甲師団を目標にしましょう。黒騎士が先鋒となり敵陣を縦断し装甲車両を攻撃しますので、基地部隊は機動力のなくなったドイツ軍を包囲し殲滅戦を仕掛けて下さい」
ワルシャワ前面から移動したドイツ軍は、ポズナニ軍との間に兵力の均衡を作り出したが、戦線はそのまま膠着状態に入っていた。彼らは数時間後に行われる空軍による爆撃の後に、ポズナニ軍へ掃討戦を行うために待機していた。そして突然、その側面から新しい敵つまり黒騎士ことパンツァードラグーンが突入を仕掛けてきた。
数の上ではそこまで大きくないが、戦車の間を縫うように高速移動しながら、回り込んで対戦車ライフルを放つ相手に、ドイツ軍の主力を占める一号、二号戦車は為す術なく破壊されていき、さらに歩兵に向けて機関銃弾をばら撒いていくので、その足を止めることも出来ない。ようやくドイツ空軍が戦場上空に現れたときには、地上軍は完全に無力化されていた。
「敵航空部隊接近。各自対空防御をとれ!」
黒騎士各隊で空爆に対する警戒が伝達される。今回、新たに追加された追尾式機銃は全機分あるわけではないが装備された機体では頭部の銃身が目標を探すように動き回っている。そして急降下爆撃を開始した敵機に対し黒騎士本体が回避行動を取る中、何条もの射線が上がる。
「各機、無駄彈は避けろ。残念ながら連続射撃をしたら10分ももたずに弾が尽きてしまうぞ。回避行動を取りながら食らいついてくる敵機に対して数秒間連射をする要領だ」
後の時代のような機銃による弾幕を張るには及びもつかないが、それでも反撃を予期していなかった敵航空機は慌てふためいた。
今まで簡単に敵地上軍を無力化してきた航空部隊は、何度爆撃を行おうと急降下体制に入っても、くるりとフィギアスケートのように弧を描いて目標線上から外れ、挙げ句に爆弾投下高度に近づくと機銃弾を噴き上げてくる存在に、一機また一機と損害を出していった。
「敵航空部隊は引き上げるようです!」
「どれくらい落としたか?」
「十数機と思われます」
「こちらの被害は?」
「爆撃機による被害はありません。地上障害物に足を取られ移動機構が破損したものが二機」
「トラックに乗せて基地に後送し修理しろ。騎兵ならびに歩兵部隊も損害を確認し負傷者を基地へ後送。戦闘可能な部隊はトラックに分乗して黒騎士の残りの機体と共に、ヴィスワ川、西側でプルーシィ軍に攻勢をかけている敵師団の攻撃に向かう」
「「「「了解!」」」」
このようにして、黒騎士部隊は西側から反時計回りに南方へ、ルーマニア橋頭堡に向け撤退するポーランド軍を追撃しているドイツ南方軍を、更に後ろから追うように戦場を移動していった。そして、そこかしこでドイツ軍に捕まり包囲されている味方部隊を救援し再編して、自らも補給を受けながら、機械化兵力を潰されたドイツ軍を包囲反撃する部隊に仕立てていく。
ドイツ空軍による黒騎士に対する空爆攻撃も何度か仕掛けられたが、爆撃はおもった効果を上げられず、逆に敵機銃による被害が積み増されていくことを憂慮し、最後は兵力の有効活用のために、別の攻撃目標へとシフトしていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ほぼ1週間後の9月17日、ドイツ南方軍に追われルーマニア橋頭堡に移動集結を続けていた総司令部に対して、ソビエト軍が東方から襲いかかってきた。
ソビエト軍の内情はスターリンの大粛清により、指揮官クラスが大幅に不足し、かなり弱体化した存在だったのだが、ドイツ軍との戦いで兵力が残っていないポーランド東部の空白地帯を、文字どおり無人の野を行くように進軍していった。
コウォミィヤのポーランド軍総司令部とクートのポーランド政府はソビエト軍の侵攻を知ると、ポーランド国内に留まることを諦め、ルーマニア国側に亡命し、事実上ポーランド政府は崩壊した。
ドイツ南方軍の先端が、最後に南部に残ったポーランド軍の都市リヴィウを攻略しようと街を包囲して攻撃を行っている背後に、ついに黒騎士ことポーランド装甲騎兵部隊120機が追いつき襲いかかった。
2週間以上の戦いで補給線が延び切り兵力も低下したドイツ南方軍に対し、ポーランド軍は付近を守備地域にしていた残存部隊を再編糾合を繰り返した結果、比較的良好な燃料弾薬の補充を得ていた。そして黒騎士の後ろに控えたポーランド再編軍は、一度敗れたドイツ軍への報復と国土防衛の意思に燃えている。たまらずドイツ南方軍は包囲を解くと北方のドイツ軍支配地域目指して退避していった。
一方、黒騎士たちは次の目標をソビエト軍へと定めると、装甲車両へは対戦車ライフル(T34以前のソビエト軍戦車はいずれも装甲の薄いものばかりで対戦車ライフルで十分に破壊可能なものばかりだった)、野砲、重機へは12.7mm機銃(これは航空機への自動追尾機能はオフにして前方の敵陣地を掃討するために使用されていた)、近距離の歩兵へは本体内蔵の7.6mm短機関銃というように装備を上手く活用しながら、ソビエト軍を占領地域から引き剥がすように、執拗に攻撃を加えていき彼らをソビエト領へと追い落としていった。
しかし黒騎士を擁するポーランド再編軍も、ドイツ南方軍とソビエト軍を敗走させた後は、残存兵力も半減し兵器弾薬も底をつきかけた状態で、ポーランド回廊を占領したドイツ北方軍を排除するほどの力はなく、この状況のままイタリアからもたらされた停戦の斡旋を受け入れることになった。




