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第45話 ポーランド侵攻、その1

 ドイツ軍はいよいよ、対ポーランド侵略作戦『白の場合』を発動した。

総兵力55個師団150万人を北方軍集団、南方軍集団に分け、フェ―ドア・フォン・ボック将軍に率いられる北方軍団はポーランド北西部に第4軍、北東部の東プロイセンに第3軍を配置し、開戦と同時に北部、いわゆるポーランド回廊と呼ばれる地域を確保する任務が与えられていた。

 一方、南方軍集団は第8軍、第10軍、第14軍からなり、ゲルト・フォン・ルントシュテット将軍に率いられ、オーバーシュレジエンからカルパチアにかけて南部の資源地帯を攻略、確保するのを任務としていた。


 迎え撃つポーランド軍は、ポーランド西部から南部にかけて分散配置され、北東部から南部へかけて順に、ナレフ独立作戦集団、モドリン軍、ポモージェ軍、ポズナニ軍、ウージ軍、クラクフ軍、カルパチア軍が点々と展開していた。総兵力はドイツ軍の半分程度で、戦車、装甲車は各歩兵師団に分散配置され、機械化師団がひとつしかないのが致命的だった。

 ポーランド参謀本部は当初、ドイツに面する西部に縦深陣地を構築し、随時後退しながら時間を稼ぎ、イギリス、フランスの援軍を待つ戦略を取ろうとした。しかしこの地域はポーランドの工業地帯に重なり、ここを失うことは死活問題であるため総司令官リッツ元帥は後退禁止を厳命し、国境際でドイツ軍を食い止める水際作戦を取らせた。


 作戦1日目で、ドイツ軍北方軍集団は順当にポーランド回廊を占拠し、ダンツィヒとの連絡路を遮断、北方全域からワルシャワへ圧力をかけ、侵攻を開始する。ギュンター・フォン・グルーゲ大将麾下の第4軍はブルダ川を渡河し、さらにヴィスワ川で第3軍と合流、東北部を占領することを目指した。

 まず、ドイツ第3軍、ハインツ・グーデリアン指揮の第19師団がポーランド、ポモージェ軍と遭遇した。グーデリアンは自ら考案した電撃戦を行おうとしたが、兵士がまだ慣れておらず従来の包囲殲滅戦のように行軍したため、逆にポーランド軍の素早い騎兵攻撃に苦戦を強いられてしまった。


 2日目にドイツ空軍はポーランド国内の27都市に大規模爆撃を敢行、多数の民間人に死傷者を出した。国際世論の反発を受けて翌3日目、イギリス、フランスがドイツに対して、本来ならば宣戦布告するはずだったが……動かなかった。


 イギリスのチェンバレン首相は議会の演説の前、ひとり考えを巡らせていた。

「ここで宣戦布告すれば、また世界を巻き込む大戦争が始まってしまう……しかしまだ準備は整っていない」

「それにルクレチア(ロスチャイルドの切)(り札)が言っていた言葉。まだイギリスが勝負の席(ベッティングテーブル)に着くのは早いと」

今回は労せず勝者になれる得な役回りが回ってきそうですから、少し我慢して見ていて下さいと……一体何を企んでいるのか。


 そこへ彼の最も口うるさい政敵であるチャーチルが姿を表した。

「こんな時に何だね?」

チェンバレンは、あからさまに嫌そうな表情で彼を迎えた。

「そう嫌がらないで欲しいな、今回は君にとって良い話を持ってきたんだ」

「それは?」


「下院の野党、労働党も首相の君の意見に賛成するそうだ。今日の演説は満場一致の拍手で終えられそうだよ」

今日の議題はドイツのポーランド侵攻に関するもので、チェンバレンが演説するのは通り一遍にドイツを非難するだけで、最後通牒を突きつけるとか宣戦布告するという華々しいものではない。野党からは批難されこそすれ全面的賛成を受けるようなものではないはずだ。さらに言えば、そんな事をいちいち伝えに来るチャーチルは、もっと変だ。


「ああ、私のスポンサーからも伝言があってね。当面は情勢を辛抱強く見守って欲しいそうだ……まったく、何を考えているんだか分からん」

チャーチルのスポンサーといえば、ロスチャイルド家という事になる……彼はロスチャイルド家から釘を差されて、わざわざこんな事を言いに来たらしい。ということは、あの話はルクレチア嬢ひとりの考えではなくロスチャイルド家の意思だということか……チャーチルではないが、何を考えているのか分からない、と言うのは彼も同意見だった。


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


 その頃、戦場では緒戦におけるポーランド軍の幸運が去り、ドイツ装甲師団がようやく電撃戦に慣れ、ポーランド軍の間隙を突破して大きく前線を推し進めていた。東方のムワヴァ付近では東プロイセンから南下したドイツ第3軍がワルシャワのわずか100km程度まで迫って来た。ポーランド軍はムワヴァを要塞化してドイツ軍の侵攻を停止させたが、ドイツ軍は東に回り込んでムワヴァの背後を突こうとしたため、要塞を放棄してさらにワルシャワ寄りのチェハヌフの防御陣地まで後退した。


 一方、南方ではドイツ主力の第10軍が、ウージ軍を撃破しワルシャワに向けて大きく弧を描きながらポーランド主力を包囲すべく進軍する。第10軍はドイツ戦車の4割に当たる1041輌が配備されており総力においても同地域のポーランド軍の3倍を擁していた。ポーランド軍は侵攻するドイツ軍に対して騎兵による攻勢で対抗しようとしたが、初日以後ドイツ軍の電撃戦の前に深く前線を抉られ、為す術なく後退させられていった。さらにウージ軍の後退により、クラクフ軍との間に30kmに渡る空白地帯が生じてしまいドイツ第10軍、第4装甲師団に一気に前進を許してしまう。ポーランド軍は各地で分断され、悲惨な状況に陥ろうとしていた。


「ジェイコブ司令官、我々にはまだ出撃命令は出ていないのですか!」

「こうしている間にもドイツ軍は味方を攻撃し続けているんですよ!」

ジェイコブ司令官の基地では若手の部隊指揮官たちが、いきり立ちながら出撃を催促していたが、彼らの前面にいるポズナニ軍と共に待機命令しか出ていなかった。ポズナニ軍に動きがないのはポーランド軍総司令官のリッツ元帥の厳命だった。彼らはドイツ軍に対してイギリス、フランスが攻撃を仕掛けるその時に、呼応して反抗するための予備戦力として温存されていたからだ。しかし肝心のイギリス、フランスの攻撃は未だ開始されず、戦況は刻一刻と悪化していった。今や北方ではポモージェ軍が孤立、南方ではウージ軍とクラクフ軍の間に深くドイツ第10軍が割り込み、その第10軍正面のプルースィ軍は兵力の招集の遅れで戦力が不足している。ひとりポズナニ軍だけが西に残り両翼が押し込まれた状態だった。


 ついにドイツ第10軍が正面のプルースィ軍を包囲し、ワルシャワ南方から首都への攻撃を開始した。たまらずポーランド軍総司令部は首都を脱出し総軍を南方のルーマニア橋頭堡で再編することを決意した。


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