第42話 「黒騎士」参上!
ここは北大西洋、デゼルタス諸島にある無人島のひとつ。最近、船着き場が作られ整地作業と幾つかの工場のような建物の建築が行われた……ブラウン・ボベリー社による、パンツァードラグーンを用いた傭兵部隊の基地とするためである。もちろん表向きはそういったことは伏せられており建設用重機の試験場とされている。実際、送り込まれたパンツァードラグーンは重機として有効活用され、またたく間に整地や建物の基礎づくりが行われた。
懸案だった操縦者の養成も、日本から送り込まれた優秀な!アドバイザーのセッちゃん、チコちゃんたちによりもうすぐ一個旅団すべてを運用できる状態になる(何故か知らないが、傭兵部隊というのは旅団規模で運用されるそうだ……あまり大きすぎると統制が難しいということだろうか)
短期間で立ち上げた部隊は、指揮官クラスと一般兵の関係が難しいものだが、この部隊の場合は、一期生が中隊長クラス、さらに二期生が小隊のリード役という配置で上手くまとまっている。もちろん今回の旅団長および幹部は赤井隊長とその隊員が行う。次回からは生え抜き隊員を抜擢するだろうけれど。
島の港にはパンツァードラグーンを輸送、展開するための仮装貨物船『PEACEMAKER』が停泊している。見た目こそ普通の貨物船だが、船内で修理、補給等も行うことができ、船腹の喫水線近くには搬入/搬出口があって、そこから直接パンツァードラグーンを発着艦させることもできる優れものだ。また上部構造体には水上機も格納しており周辺の警戒や連絡なども行える。
1939年4月になると、この船は傭兵旅団の武器と兵員を満載し、北ヨーロッパの自由都市ダンツィヒの港に向かって初航海に出発した。ダンツィヒ港からパンツァードラグーンを陸揚げして秘密裏にポーランド、ワルシャワ近郊のジェイコブさんの基地に駐屯させるためだ。
同じ頃、ようやく初期ロットが完成し、契約も済んだパンツァードラグーン用、自動追尾式機銃オプションが日本からダンツィヒに向けて送り出された。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
港に着いたPEACEMAKER号には、K.BROP社の大型トラックが送り込まれ、パンツァードラグーンを荷台に隠して基地までピストン輸送を繰り返す。本当はそのまま自走させたほうが簡単なのだが、さすがに住民に見られでもしたら大騒ぎになってしまうだろう。ポーランドに着いてからは、オレも時々赤井隊長ことセッちゃんに憑依させてもらって様子を見ている。
搬入した実機をジェイコブさんに見てもらったところ、開いた口が塞がらないといった様子だった……まあ、ポーランド陸軍の常識とはずいぶん差があるからね。しかし、ジェイコブさんは『これを見ればポーランド軍司令部も考えを変えるかもしれない』と言い出した……いや、もうそんな段階じゃないし。もし悪意に取られたら反乱首謀者として死刑ものですよ! ジェイコブさん。
「ジェイコブ殿、それはかなり危険な行動です……我々は傭兵ですが、雇い主の無謀な行動は諌めなければならない」
赤井隊長にそう言われてジェイコブさんも司令部に見せるのは諦めたようだ。しかし自分たちの仲間には説明したいと言われて結局、以前王宮近くの教会に集まった反リッツ元帥派の人たちに、赤井隊長から説明するということになった……いや、いくら夜中でもパンツァードラグーンを首都のど真ん中に乗りつけるなんてムリだし。
オレはセッちゃんから、どんな格好で行ったらいいか聞かれたので、『黒騎士っていう触れ込みだからそれっぽい格好をすれば……』と伝えながら、思い浮かんだのは……怪傑ゾロ? いや本当の黒騎士ことザヴィシャ・チャルニって単なるおっさんだし、できるだけ英雄っぽく振る舞ってみんなに希望を持たせた方がいいかなって……もちろんセッちゃんにもそう伝えておいた。ちなみに『ゾロ』はスペイン語でキツネだそうだ。
「皆さん、本日もお集まり頂き、ありがとうございます」
「……ジェイコブ殿、緊急の要件とは何ですか? リッツ元帥派も最近は、いろいろ嗅ぎ回っている様子。あまり目立つ行動はしない方がよろしいかと思いますが?」
「臆病過ぎますぞ! そんなことではいつまで経っても現状を変えることは出来ません! 苦しんでいる民衆を一刻も早く救わねば……」
反リッツ元帥派って言っても、考えていることは随分バラバラのようだ。
「今夜、お集まり頂いたのはポーランドの将来について、こちらの……」
そこまでジェイコブさんが言ったところで、セッちゃんが彼を押し退け
「ザヴィシャ・ゾロと申す。ジェイコブ殿に無理を言ってここに来た……諸君はもうすぐこの国が未曾有の危機を迎えることをご存知か?」
と切り出した……まあ、アカイと紹介されるのはまずいだろうけどザヴィシャじゃあ、そのまんま黒騎士になっちゃうぞ。
「……未曾有の危機とは?」
軍人らしい格好の男がそう問い質した。
「西と東から敵が押し寄せ、政府は崩壊する」
「……それは、ドイツ軍か?」
先程の男がまた言う
「ソビエトもだ」
セッちゃんが答えると『二正面か……』と男は顔を歪めて呟いた。
「……都市も爆撃され、多くの市民が犠牲にあう」
「なんということだ!」
セッちゃんが続けると、今度は僧侶のような姿の男が声を上げた。
「本当の危機は、占領された後だ……多くの人々、軍人も森へ連れて行かれ殺される。残った人々も抗うことを許されず、何十年も他国の言いなりのまま過ごさなければならなくなる」
……これは、強制収容所とカティンの森と、その後のソ連の東欧支配か?
そこに集まった人たちは、言葉もなく暗い顔でお互いを見合わせる。
「今の政府が去ったら、わずかな隙が訪れる……その時に、逃げるか立ち上がるか、己の振る舞いを決めておけ……立ち上がるものが多ければあるいは救いも訪れよう」
ずいぶん、抽象的な話だ……これはセッちゃんなりの戦略なのか?
「……それは、黒騎士殿?」
普通に黒騎士って言われてるし。まあポーランド人にはザヴィシャといえば黒騎士なんだろうな。
「ああ、私も立ち上がる……王のために、信頼できる者のために。諸君も国中のものに伝えて欲しい。国を救うのは、ひとりひとりの勇気ある行動なのだ……時を誤らぬように、よくよく注意しているように、と」
本当に英雄っぽいセリフだ……セッちゃんてこういうのに合っているのかな。
みんなは、何も言わずに互いにうなずきあっている。
「ジェイコブ殿。ありがとう……我々も微力ながら人々のため、国のため、できることをして行こう」
「……まずは、このメッセージを多くの人に伝えて、その時を見逃さぬように」
「いや、皆さん……」
ジェイコブさんは何か言おうとしてたが、すでにみんな納得してしまっているので、余計なことを言うのは諦めたようだ。
「では、今宵は、ここまでということにしよう」
集まった人々はそういって解散した。
残ったジェイコブさんはザヴィシャ・ゾロこと赤井隊長に話しかけた
「先程のことは……」
「すべてこれから起こることです。そしてポーランドが救えるのも先程話したタイミングで反撃するしかないでしょう……それまでは耐えることです」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
セッちゃんが、今後我々の取るべき方法をジェイコブさんに話してくれた。さすが伊達に傭兵旅団の長を任されたわけではないところを見せてくれる。ちゃんとポーランド侵攻への逆襲を考えていたんだ。
そういえば、ソビエト軍は満州とノモンハンで戦った後、その戦力をポーランド侵攻に振り向けてくるんだっけか……最近、中国大陸の方は注意を向けてなかったが大丈夫かな。盧溝橋の中共の挑発テロにも乗せられなかった今村司令官だから信じているけど……あ、辻少佐は呼び戻しておかないとな。現場を変に混乱させるから。




