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第33話 山本五十六中将に年貢を納めさせられる

 たまには報告に来いと言われて山本次官のところにやってきた。いや報告書は上げているんだけど……例の開発グループのニュースを。

「週一回は報告に来いといったはずだが?」

山本次官は、その報告書を見ながら言っている。

「『何もなければ週一回の報告でよい』と承っておりますが」

「『報告』というのは、ここに顔を出せということだ。書類で済ませていいとは言っていない」

次官がオレを見て、さも当然だろうという表情で言う

「失礼しました! 以後気をつけます」

オレは新兵教練のように、姿勢を正して直立不動で答えた

「……それで、せっかく来たのだから口頭で報告してもらおう。進捗の方はどうだ?」


 オレは山本次官の話し方が普通に戻ったのに少し安心して、報告書に書かれた内容を改めて口頭で説明し始めた。

「はっ、タービンジェットエンジンの方は、予定よりかなり前倒しで進んでいます。ネ1、ネ2試作発動機は来月にも完成の予定です。これで問題なければ実用発動機のネ10、ネ20の開発に移ります」


「うむ、順調なのは何よりだ。予定を前倒しできた理由はなにか?」

細かい所にチェックが入ってきた……オレはまさかそんなところまで聞かれると思ってなかったのでドギマギしながら答えた。

「……ドイツやスイスからの既存の発動機の情報が入手できたからであります」

手元に完成している他社のタービンエンジンがあったから、とかドイツで他の開発者と意見交換してきたというのは省略して答えた、ウソは言っていない。

「良い情報源を持っていると見えるな……他の開発はどうだ?」


「はっ、エンジン基材および装甲代替材を目的とした新磁器材料(ファインセラミックス)の開発は東京の先行民間会社の協力を得て工場施設の設営をほぼ完了。合わせてタービンエンジン向け新案技法の実験に着手。担当技師によると実用化に向け十分な手応えを感じているとのことです」

「こちらも順調か。ロ弾の方はどうだ」

次官は、今度は机の上で両手の指で絡ませながら言っている……これって相手の言っていることを疑っている時のボディランゲージだっけ?


「ロ弾については、タービンジェット機用、機載誘導噴進弾を企画し開発を継続中。目下、目的物検出装置の改良を続けております。また合わせて噴進弾が敵機近傍に到達した際、爆発し損害を与えられる近接信管についても着想を得て研究中であります」

「ちょっと待て! 誘導噴進弾とは何だ」

急に山本次官が身を乗り出すようにして大声を出した。まさかそこまで反応されるとは思っていなかった……前から報告書に書いていたよね、これ。そう思いながらもオレは冷静を装って説明をする。


「目標を追尾して飛行し撃墜する自動飛翔制御機能の付いた噴進弾であります」

「そんな事が可能なのか?! 夢物語じゃないだろうな」

そうか。確かにミサイルが実用化されるのは戦後のことだもんな……でもこれができないと数で攻めてくる敵機を相手できないから、こっちも情報をかき集めて必死に開発させているんだ。


「まだ戦闘機のような小型の目標には難がありますが、遠からず実用化できると信じております」

「信じられん……そんな物が出来れば戦いが変わるぞ」

ええ実際、史実でも大きく変わりました(笑)オレは反応のしようがないので曖昧な表情のまま誤魔化した。


「他にはないか」

「えーと、レーダーの方ですが……環境要因による検出結果の変動等の問題を解決するのに時間が必要なため現在、問題解決管理手法を導入して対策中です。電子計算機については基礎理論から計算機モデルを定義して、実証機の開発を始めようとしています。おそらく年内一杯は掛かるのではないかと……」


「レーダーはいいとして、なんだ電子計算機とは?」

次から次に質問されるので、少しうんざりしてきてオレはあまり考えもせず頭に浮かんだことをそのまま答えてしまった。

「電子計算機とは電気回路で高速かつ自動で複雑な計算を可能とする機械です。砲弾の弾道計算や暗号の解読、兵器の操作を人間に変わって行うことも可能とするものです」


「何だそれは、冗談としか思えんぞ……貴様の言うことは突飛すぎて信じられないことばかりだ」

そういえば電子計算機も戦争には間に合わなかった技術だっけ。少し技術開発を前倒ししすぎたかな……頭の中でそんな事を考えていると、しばらく目を閉じて次官はなにかを考えていた様子だが、やおらこちらの机の上に新聞を放り投げてよこした……少し前の宇垣首相の演説が一面の記事のものだ。


「……それについても説明してもらおうか?」

「……新聞の記事についてですか? どの記事でしょう?」

急に矛先が変わって、オレの秘密の核心に近い所に飛んできたので心臓がドキリとしてしまった。何を聞かれたのか、だいたい分かっているけれど、あえて分からないフリをしてみる……もし違っていればという淡い期待を込めて。

「しらばくれるな。首相の演説の記事だ……その演説の内容、貴様が前に話した内容とよく一致する。貴様と、それを考えた北白川宮殿下とはいったいどんな関係だ?」


……ついにそこまで辿りつかれてしまったか。さすが山本五十六さん、とオレは心のなかで感嘆した。本当のことを話そうか? いやダメだ。オレですらそんな話信じられるか!と思うから。以前、考えた作り話をしようか……これなら納得してもらえるだろう。


「駐在時に北白川宮殿下のお父上が懇意にされていたフランス人と知り合いになりまして、その関係で久永殿下やご婚約者の華子様と懇意にさせていただいています。話の内容が一致するのは殿下からお話を伺ううちに私の考えが影響を受けたからではないかと……」

「貴様はウソが下手だな……どうした? 前の時のように、俺を射殺(いころ)すような目つきで話してみろ。それでなくては俺を騙せんぞ」

知らぬ間に目を伏せながら話していたオレはハッとして山本次官を見た。彼はオレをまっすぐ見つめ、何かあれば食いつかんばかりの迫力を持っていた……ダメだ。この人には勝てない。


「これから話すことを戯言と思うなら、私を叩き出して全てを忘れてください」

それだけ言うと、何とか被害を最小にする方法を考えようとしたが、オレの頭は真っ白になって空回りしかしなかった。頭の中にテンちゃんや華子さんの様子が走馬灯のように浮かんでくる……何故かその時思い出した華子さんの言葉にすがりつくようにしてオレは気持ちを立て直そうとする。一旦、目を閉じ思い返した……『下腹部に力を込め眉間から射抜くように』だっけ。


「……今から八年後、日本はアメリカに敗れ、新型爆弾で国土は甚大な被害を受けます……連合艦隊は壊滅し大和は沖縄に水上特攻をかけ、敵航空機の集中攻撃で沈没します。緒戦こそ日本海軍は真珠湾奇襲を成功させ破竹の勢いでしたが……半年後のミッドウェーでは一航戦、二航戦の四隻の空母を一度に失い、以後アメリカが次々と打ち出す新型機や新兵器に為す術なく敗れてしまいます」

ついに言っちゃった……そう思いながら一度、山本次官を見てみたが、特に衝撃を受けている様子もなく淡々としている……これは? オレは予想外の状況に困惑しながら考えを回す……ひょっとして、それくらいの未来はすでに想定済みということか?


「私はさる人に命を救われた引き換えに、日本の負け戦を書き換えるために遣わされました……今いろいろな新兵器を作ろうとしているのは、その為の未来から持ってきた知識というやつです」

今さら変えようもなくオレは話を続ける。そして次官の様子をまた見てみる……目を伏せ腕組みをし口元には若干の笑みさえ湛えている……やっぱり戯言と思われてしまったか。


「ちなみに、山本大将は昭和十八年四月十八日ブーゲンビル島上空で乗機、一式陸攻が敵P38に撃墜され、戦死されます」

そこまで聞くと山本次官は椅子から立ち上がった。オレは顔を殴られるかと思い身体に力を込め目をつぶる……しかし何の衝撃もない。おそるおそる目を開けると、目の前に次官の顔があった。


「ハ、ハ、ハ! 貴様、面白いやつだな。海軍一の変人は参謀の黒島亀人だと思っていたが、貴様はその上を行くなぁ」

そう言うと、山本次官はオレに名刺を出させペンで何やら書き込んで返してきた。

そこには『次官技術担当秘書官』が消され『新兵器特命開発部次官 技術大佐』と書かれていた。


「ひとつ教えておいてやろう。ハワイのアメリカ軍の軍港は『真珠港』というのだ……この時代ではな」


「ちょ、ちょっと待ってください! なんですかこの冗談は!」

オレは山本次官にとりすがり『新兵器特命開発部なんて聞いたことがありませんよ!』と言うと『いま作った』と言われてしまった。ちなみに部長は山本次官本人だそうだ『大佐は部長になれんからな……新兵器が出来れば部長にしてやるぞ』と言われた……いいえ、全力で辞退いたします!


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― 新着の感想 ―
[一言] いっそのこと後代に、山本は日本の識者に、アメリカ秘密結社の犬と呼ばれて、売国奴と見做されてる事実を バラしたら?山本が知米?、アメリカを知ってる優れた、 戦略家なら眠れる巨人を目覚めさせる真…
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