第24話 鉄機兵秘密基地とヨーロッパ派遣
「もう! 日本に帰ってから全然、連絡なしなんてヒドいじゃない。ちょっとは様子を聞くくらいしてもバチは当たらないだからね!」
テンちゃんが激おこだ。いや、用事もないのに連絡なんか来たらうざったいだろうって言ったら『たーくんて、女の子にモテないでしょ』と言い返された。余計なお世話だ!
で、どうしたの? と聞くと
「ミハイルさんが、たーくんに連絡取りたいって言ってきたんだけど……全然、音信不通になってるそうじゃない。ダメよ、普段から仲良くしとかないとイザっていう時に助けてもらえなくなるんだから!」
……なんか、久しぶりの電話で母親から小言を言われている気分だ。
「わかった。連絡しておくよ……そのうちに。他には何かある?」
「ツァイトが売れちゃって、生産が間に合わないの! 大急ぎで工場を拡張しているんだけど、今はタトラの人も帰っちゃったし……誰か手伝いを寄越して、プリーズ!!」
……なんか言葉づかいがぐちゃぐちゃだけど、忙しくて大変ってこと?
「わ、わかった。すぐに何とかするから、もうちょっと頑張って!」
「あと、ゲッペルスがフォルクスワーゲンをナチスの宣伝に使いたいから至急、打ち合わせしたいって……それから、それから、米国や英国からも輸入したいってオファーが来てて、とにかく会ってくれって……」
お、おぅ。本当にいろいろ大変だ。一応、ハクちゃんは既に手伝っているようだけど、他にも手助けできそうな人は……一瞬、ジャンヌのことを思い出したけど彼女の場合、手伝うと余計に問題を起こしそうだからダメだ。
ドイツに行けそうな人を手配しようとしてたら、ミハイルさんが突然現れた! いや別に瞬間移動してきたとかじゃなくて、普通にシベリア鉄道で日本までやってきたっていうことだけど。
「やあ、こんにちは! 時休サン」
「ミ、ミハイルさん、ご無沙汰してます。どうしたんですか日本までいらして?!」
「チョット、時休さんに相談したいことが……あと日本でのパンツァードラグーンの運用の仕方も気になっていたので、見せてもらおうと思いました」
詳しい話を聞くとパンツァードラグーン自体は好評価なのだが、搭乗者の養成が難しいと言われるらしい。確かに操縦のしやすさは気にしなかったけど、戦車や飛行機以上に機体制御が複雑だし、武装も砲塔ではなく対戦車ライフル銃を構えないといけないから操縦が大変なのは容易に想像がつく。
「そうですか。ちなみに現在の搭乗者の養成実績はどれくらいですか?」
「まだ正式な搭乗者養成は終了していまセンが、養成コースを管理する者によると40名で始めたのデスがすでに半数が脱落、ちゃんと操縦できるようになるのは1人、2人ではないかと言われていマス」
「……それは酷いですね」
いくら何でも40人中2人しかモノにならないなんて……成功率5%か。
「どのような養成課程を行っているのか見てみたいです」
「それは、こちらこそお願いしたいデス。でもまず、日本の操縦者の操縦を見学させてくだサイ」
そうだな。相手のやっていることを見ていろいろ意見を出し合うのは必要だと思う。
オレは早速、華子さんに(というか実際にやるのはセッちゃんかチコちゃんだろうが)操縦の実演が可能か聞いてみた。
「(はい、大丈夫ですよ。機体は今、東京湾の第二海堡に隠してあります)」
なんと、そんな所にあるのか……でも、いい所を見つけたな。海上要塞なら特殊揚陸船からそのまま搬入できて人目に触れることもない。
オレはミハイルさんに、操作の見学は可能であることを伝えた後、少し交渉をしてみることにした。
「こちらから養成課程の改善に人を派遣したいと思いますが、代わりと言っては何ですがミハイルさん、いいえブラウン・ボベリー社から、人を派遣してほしいところがあるのです」
「はい? それは何処ですか……こちらの要請に応えていただくのですから、当然そちらの要求にも応えたいと思います。詳細を教えてくだサイ」
オレは以前、相談に行った自動車の製造が軌道に乗ってビジネスを拡大したいのだが頼れる人がいないことを説明した。
「それは、スバラシイですね。ただ自動車産業に詳しい人間は残念ながら我が社にはいないと思いますが……」
ミハイルさんは、そう言うがこちらとしては会社の運営に詳しい人間であればそれで十分なことを伝える。
「そうですか。それではそういうバーター関係で行きましょう」
うまく、テンちゃんの方の問題も解決できそうな気配だ。
「私から、もう一つ提案があります」
そう言って、オレはパンツァードラグーンの運用方法について切り出した……これは、今考えたことではなく前々から思っていたことなのだが、兵器として各国に売るよりは戦闘力そのものを商売というか取引の材料に仕えないかということだった。
「いっそのこと、パンツァードラグーンと操縦者を含めて、紛争地域に派遣するスイス伝統の傭兵部隊を作るというのはどうでしょうか?」
「傭兵部隊デスか」
オレはスイス傭兵は一時期、ヨーロッパで名を馳せたことがあるのを知っている(これもゲーム知識だけど、山地で目ぼしい産業のなかった昔のスイスでは傭兵が重要な産業として成り立っていた。「アルプスの少女ハイジ」のアルムおんじも傭兵だったという設定があるくらいだ)だから傭兵に関する嫌悪感などもないのかと思ったが、
「残念ながら現在のスイスの法律では自国民を外国の戦争に派遣することは禁止されてイマス」
と言われてしまった。なんと、スイス憲法で禁止されているらしい。でもそうですか、と終わってしまうわけにはいかない、何かないか(交渉には手を変え、目先を変えて、粘り強く目的を達成しようとすることが必要だと、最近実感している)
「……えーと、それは国民じゃなければいいということでしょうか?」
オレは苦し紛れにそんなことを聞いてみた。
「そうですね。国民でなければ関係ないはずデス」
「では、外人部隊ならどうでしょう?」
なんか、スイス傭兵とフランス外人部隊の合体技みたいだが、どうだろう。
「操作性を改善した次期機は、機体そのものを販売するビジネスに投入するものとして、現行機は操縦者も含めたトータルの戦闘力パッケージとして提供するのはどうですか? これはよいビジネスモデルだと思いますが」
ミハイルさんは、慎重に考えた後、次のように答えてきた。
「私一人の一存では決められませんが……確かに今ある問題をカバーするには、よい考えのような気がします」
一応、この件は持ち帰って検討してみるということで、また後日という話になった。
◇ ◇ ◇
数日後、オレはミハイルさんを伴って、第二海堡に向かった。
ここは明治から大正にかけて、東京湾要塞の設備として作られた人工島なのだが、関東大震災で被災し復旧は困難と判断され、使われない状態になっていた所だ。
「この専用島にパンツァードラグーンの基地を作るというアイデアは良いですね。傭兵部隊の運用でしたら現地には船で運ぶことになるので参考にさせていただきます」
あれ、前回はミハイルさんは外人傭兵部隊という話には、あまり乗り気ではない感じだったけど、今回は随分積極的だな。これなら大丈夫か?
「では、さっそく操縦を見ていただきます。とはいっても上部ハッチを開放してそこから見ていただくだけなので、あまり見やすくはありませんが」
「はい。よろしくおねがいします」
ミハイルさんに確認をとってから赤井隊長ことセッちゃんに搭乗をお願いする。
「では、赤井隊長。演習をお願いします」
「はっ!」
外観確認、タービンエンジンや武器の状態などを確認し、上部ハッチから赤井隊長が搭乗する。座るというよりは腰掛ける程度のシートがあり、何本もあるフットペダルでエンジン出力やブレーキ、ホバー関係の操作を行う。そして膝のところに操作腕が出ていてこれで脚部の動きを制御する。上半身の前の部分は割と広い空間があり、無線やペリスコープの操作ノブ、計器が幾つも並んでいる。
「まず、補助バッテリーをオンにしてエンジンや動力伝達系の動作を確認します」
赤井隊長の説明が行われる。
「問題なければ、エンジンを始動し電源をこちらから供給されるようにします」
タービンファンにしては非常に低い回転音が始まり、徐々に音が高くなっていく。
「エンジン出力よし!」
「動力系接続!」
一度、機体がグンッと小さく持ち上がる感じがあった。これで機械補助で機体を動かすことが出来るようになったのだろう。
「通信系、各計器表示よし!」
次々と確認が行われ、動作可能状態になったことがわかると、
「本来なら、ここでホバー出力を上げて移動を開始しますが、今回は出力を最弱にして空気噴出だけ行います」
と説明が入り、脚部底面からブウォーと排気音が聞こえ、逆に機体側面から吸気が感じられるようになる。
「さて、まず機体腕の操作から。通常の操作はこのようにマニピュレータに自分の腕を差し込んで行います」
と言って赤井隊長が右手を差し込み、機体腕を細かく動かして見せる。
「右手は、ほとんど機械腕の操作に集中しますが、左手は必要なときだけ機械腕の操作を行い、通常は機内のボタンやノブを操作します」
「ああ、そうやるのですね」
ミハイルさんが納得したという様に声を出す。
「ですが、左機械腕も操作している状態では、このように……」
と言って、赤井隊長が歯でノブを噛んでペリスコープの操作を行う。
「えっ、そんなことを」
ミハイルさんは驚きの声を上げる。赤井隊長は周囲の確認後、肩でペリスコープを戻し、頭を全面のスイッチのひとつに擦りつけて無線を入れた。
「これは……」
さらに操作腕から、一瞬腕を抜き素早く指でパネルを操作して一秒もしない間に腕をもとに戻しす。もはや軽業師のような操作だ。
「幸いなことに鉄機兵は操作感度が鈍いので1/2秒程度なら操作を離しても大きく動作が崩れることはありません」
「すごいな……そんなふうにやっってたんだ」
オレもここまでやっているとは知らず、驚きの声を漏らした。
「今日はとても有意義な時間を持てました。ぜひスイスに来て我々の養成課程にもいろいろアドバイスを頂きたいものです」
ミハイルさんの中では、もうセッちゃんがスイスに来るのは決まりのようだ。こっちの予定も調整しておかないと……どれくらい向こうにいることになるかな。




