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第19話 帰国挨拶と最初の博打

 日本に帰国すると、早速海軍省に赴き、そのまま海軍航空本部、航空技術廠への辞令をもらいジェットタービンエンジンの研究主任になる。で、早速横須賀に実験工場を作り、オレがフランスに行く前に会ったことのある永野 治(ながの おさむ)も一緒にやってもらうことになった。ちなみに実験工場は「ジェット推進研究所」と名付けた(笑)なかなかカッコいい名前だと自画自賛している。


 研究は基本的に三分野。1.安定燃焼条件の解析。主に必要な燃焼前段階の圧縮条件とエンジン内の熱噴流の速度や温度がどこまで高くなるのかを調べる。2.継続燃焼のための空気圧縮の方法とエンジン内の気流制御設計の開発。具体的には遠心圧縮なのか軸流圧縮を採用するのかなのだが、これは軸流圧縮がよいというのは歴史的事実として既に分かっているので(ホイットルさん、オハインさん、有り難う)随分時間の節約になった。後は気流制御設計だ。3.最後は実用に向けたエンジンの研究。例えばジェットエンジンと言っても純粋なピュアジェットより、何割かを燃焼室に、他の空気流は燃焼室をバイパスして推進力にするターボファンエンジンの方が将来的には主流になる。こっちのほうが効率がいいし、アフターバーナーを使用するにも効果が大きい。戦闘機といってもいつも最高速で飛ぶわけではなく、ほとんど亜音速領域で飛ぶので実用的だ。こんなふうに実際使うためには沢山の応用的技術が必要になる。本当はジェットエンジンだけでも、もっといろいろやるべき研究がいろいろあるのだが、まずは稼働可能なエンジンを作り上げることを優先してやってもらう。オレにはこれ以外にもやらなければならないことが、いろいろあるのだ。


「さて、こっちはどうやって進めるかなぁ……」

他にも技術開発を進めるべき分野があるのだが、これはジェットエンジンの研究とは違うので、今のオレの職責では手を出すわけにはいかない……とはいえ、日本が戦争するためには、ぜひとも必要なものなので裏から手を回してでも始めなければならない。そこでオレが目をつけたのは『スパイ情報』だ。


 いや、別にオレがスパイをするということじゃない。ぶっちゃけて言うと、未来情報でわかっている『日本で活動している他国のスパイ』を当局に知らせ、その見返りに海軍以外の分野でも活動できるようにしてもらうということだ……かなり無理やり感があるけど。まずはどうやって進めるべきか、陸軍に詳しい華子さんに相談してみた。


「そうですね。誰に知らせるかが一番重要になると思います……この人物だと一番、影響があるのは近衛殿ですね。でも残念ながら彼ご自身には情報に見合うものを用意することは出来ないように思います……時休殿の願うものを用意できるのは嶋田中将、多田中将、中島中将といったところでしょうか。ああ、中島殿はいろいろ縁のある方ですねぇ。この方なら……ただ時久殿には少々厄介なことになるかもしれませんが。


 少々厄介というのは気になるが、他に手段があるわけではないし対応可能な問題なら、それで進めてもらうしかない。オレは華子さんに詳しく聞いてみることにした。

「中島 今朝吾(けさご)殿は憲兵隊司令官で、防諜を任務としておられますが以前、関東軍司令官になって頂いた今村少将の退役処分になりそうなところを庇ったことがあります。そして、この問題は現在、陸軍科学研究所技術本部長である久村中将が管轄する事柄であったので、スパイ情報を中島殿に流すのと引き換えに久村殿に、陸軍科学研究所の専任技官として採用頂けるよう口を利いていただくのがよいかと思います……厄介なところは海軍中佐の時休殿が陸軍技官になる点ですが。バレなければ大丈夫でしょう♪」


 おいおい、簡単に言ってくれるな。それはバレたら即懲罰除隊モノじゃないのか……

「もちろん、この件は時久殿だけでなく危険な問題が沢山あります。彼の人はドイツの大使館に深く食い込んでいますから、うまくやらないと日独関係に亀裂が出来るかもしれませんし、日本の大物政治家も絡んでくるので、そちらの対応もしなければなりません。時久殿が躊躇うなら、この件は手を出さない方が無難でしょう」

……これはもしかして、オレの覚悟を試しているのか?


 今まで味方だと思っていた華子さんから突き放されたような気がして衝撃を受けた。

「どうします? 何かを為そうとすると容易ならざる状況も受け入れなければいけない事態は起こりますが、時休殿は橋を渡りますか?」


 ……オレが根っからの軍人なら聞かれるまでもなかったのかもしれない。そして、もしこの時代に来た直後のオレなら悩みもしなかったかもしれない……でも、今のオレは、オレの肩にかかっているものを投げ捨ててしまうには、いろいろ経験し過ぎた。

ここで諦めるわけにはいかない……オレ自身がそれを選ぶのは拒否する心を身につけてしまった。もうオレは第三者的な、フリーハンドの立場には戻れないことを自覚しながら華子さんに答えた。

「やりましょう。それが一番良い結果が得られるのなら賭けに出るべきですよね」

「はい♪ では、私と殿下も掛け種(かけぐさ)としてテーブルに乗らせていただきます」


 華子さんが『掛け種』になると言った意味が分かるのは、しばらく後だった。


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[気になる点] 誤ターボプロップ 正ターボファン ではないですか?
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