第130話 レニングラードにて、その1
アーロンたちがラプトルMarkⅡへの機種転換訓練を受けている頃、タルタリア人たちはレニングラード市内の教会、史跡などを巡り捜し物をしていた。
「本当にあるのかい? その祖先の形見って……大体、どんなものかも分かってないんだろ?」
尋ねられた長老的巫女のカラファは、それでも目をカッと見開いて
「ある! ワシは昔、長老から聞いたのじゃ。ツァーリの息子が我らタルタリアの形見を奪っていったと……そしてそれを元の場所に戻せば、我らの国もあった姿に戻ると教えられたのじゃ」
彼らもそれを年寄りの繰り言と思わないではなかったが、それを言ってしまったら自分たちがここにいる理由まで否定してしまうことになる。それに代わりに行うべき事もないのだ。今は彼女の言うことを聞いて、それらしいものを探すことにした。
「……ここはカザン聖堂と呼ばれサンクトペテルブルグの代表的正教会たっだんだが、ソビエト政府により無神論博物館にされたんだそうだ」
腕を拡げたような立派な建物の中は昔の遺物らしきものはなく、新しく作られた張りぼてのようなものとその説明で埋め尽くされていた。
「奥に倉庫とかないのかな」
「さあ? あってもオレ達に見せてくれる事はないだろう……他に行こうぜ」
それでも一応、中は見ていこうということになり回っていると突然、一人が声を上げた。
「おい、『タルタリア』って書いてあるぜ!!」
皆は驚いたようにそこに集まると、ソビエトの歴史を説明した展示物の中に『タルタリアのタブレット』と書かれた粘土板が展示してあった。
「やったぜ。これだろうカラファ様!?」
「ちょっと待て……これはルーマニアのものだそうだぞ。しかも複製品だ」
「はぁ?!」
皆は目を血走らせるようにして説明を読み、確かにルーマニアのトランシルバニア地方の出土品の複製と書かれているのを見た。
「くそっ、驚かせやがって……」
それでも、他にはこれといったものはなく無神論博物館の最後まで来てしまった一同は、複製品でもいいから手に入れたいということになり博物館の館長に話を持ち掛けた。
「我々は考古学に興味があり、遠くからここにやってきたものですが……あそこにある複製品を譲ってもらうわけにはいきませんか?」
博物館の館長は彼らの話を聞いてくれたが
「そうですか、あなた方の向学心は素晴らしいと思いますが、複製品といえども作るのには手間が掛かっており、お譲りするわけには……」
と難色を示した。
「そうでしょうとも。貴重な歴史資料ですからね……ところで今の時代、資料も大切ですが人間の日々の糧も重要ですよね。例えばこのような」
といって彼らの持ち物袋から、その日の昼食の糧秣をちらつかせた……一食分とはいえ、そこに来た人数分なので、それなりの量がある。館長はあっさり前言を翻した。
「貴重な歴史資料ですが、特別に向学心の高いあなた方に譲りましょう!」
とはいえ彼らもすべてを渡してしまうわけにはいかない……戦時中ではおなじみの値切り交渉が始まり、結局食料という現物を持つ強みで半分ほどの量まで値切ることに成功し無事、粘土板の複製品を手に入れることができた。
「……これは、なんて書いてあるんだろうな?」
「さぁ?……カラファ様は読めるかい」
「分かるわけなかろう……だが持ち帰れば、読める者もおるやもしれん」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「次は血の救世主教会か……ロマノフ朝にとって重要なものだったらしいが革命の時、野菜倉庫にされて包囲戦で荒らされて、今は単なる廃墟だそうだぜ」
「……あんまし期待できそうにないな」
「とにかく行ってみよう」
それでもそこには瓦礫に混じって昔の人達らしき銅像があり、その中のひとりが持っていた盾に書かれた文字が先ほど手に入れた粘土板に記された文字に似ているのではないかという話になり、やはり食料と物々交換して手に入れた。
「後は至聖三者大聖堂か……」
「もう何かあっても、交換する食料はないぜ」
そう言いながらも大聖堂を見には行ってみたが中は既に荒らされ、そこにあったはずの宝物は軒並み略奪されていた。
「本来ならここには『砦の鍵』と呼ばれるものがあったはずだったが……」
「まあ、ないものは仕方ない。とりあえず今日のところは帰ることにしよう」
「……今日の成果は『銅像の盾』と『粘土板』か」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
タルタリアの人たちがラプトル部隊の宿舎に戻ってくると、副官から『話があるから代表者はアーロン隊長のところまで来るように』との伝言がされていた。誰が行くべきかもめたが結局、戦争の話だろうという事で軍事の長、タジボーグと副官のバトゥが行くことになった。彼らが出向くと書類を見ていたアーロンはすぐに話を始めた。
「君たちが以前、来たいと言っていたレニングラードに着いたわけだが、目的は達成できたかい? それに君たちのこれからについても話し合いたいんだが」
アーロンはそう切り出すと、彼らは『ロシア皇帝によって持ち出されたタルタリアの遺物を探しているが思わしくない事、それが見つかったらキエフに戻しに行きたい』旨伝えた。
アーロンはしばらく黙って考えた後、それはどれくらい時間があれば解決しそうなのかを尋ねた。しかし二人ともそれを答えることは出来なかった。
「……わかった。しばらくは、そのタルタリアの形見を探すということだな。では、その間は我々の部隊に留まるということで良いか?」
ふたりは顔を見合わせた後、
「そうして頂ければ、ありがたいです」
と答えた。
「では、その間は我々の部隊の任務にも協力してもらうということで良いな? 実は君達にやってもらいたい仕事があるんだ……」
そう言ってアーロンは彼の考えを伝えた。
「本国から特別な指示のない限り、我々はフィンランド軍のレニングラード守備隊と共に周辺の占領維持活動を行うことになるが、活動範囲が今まで以上に広がることが予想される……ついては作戦中に戦闘部隊に燃料弾薬を補給する輸送チームを作りたいのだが、君たちは我々より優れた土地勘があると思うので、これの担当になってもらいたい」
ふたりはまた互いの顔を見合わせた後、
「それは構いませんが、人力で輸送するのでは大したものは運べないでしょう」
と心配を伝えた。
そういえば肝心な話をしていなかったな、とアーロンは気づき
「当然、人力ではない。新しいラプトルの到着に伴い、旧型機が余っている。君達にはこれを使って輸送を担当してもらいたい。当然、操縦訓練を受ける必要があるが旧型機でしかも移動だけなら、君達ならそう時間もかからず操縦できるようになると思う」
と伝えた。
ふたりは最初ポカンとしていたが、やがて驚いたような表情になり
「それは、つまり……俺達にあの機械の馬を貸してもらえるということですか?!」
と声を上げた。
「ああ。但し荷物を輸送するカーゴを引くことになるから、あまり高速で走り回ることは出来ない予定だが」
とアーロンが答えると
「アレに乗れるなんてすげぇ。スピードが多少、遅かろうがそんなの問題ないぜ!」
と喜びの声を上げた。




