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第122話 新「ローマの休日」脚本作り

 ルーズベルトへのカウンター・プロバガンダのための女優を売り出す映画を撮るという話は、女優映画の巨匠といわれるジョージ・キューカーを監督にするということになった。


 1899年生まれのハンガリー系アメリカ人の彼は、「若草物語」、「マイ・フェア・レディ」、「スタア誕生」などの映画を撮り(「風と共に去りぬ」も最初は彼が監督だったが方針の違いで下ろされてしまった……それでも女優の演技指導は密かに彼が行っていた)、グレタ・ガルボ、ヘップバーン(オードリーではなくキャサリンだけど)、ヴィヴィアン・リー、イングリッド・バーグマンなど錚々(そうそう)たる女優を育て、マリリン・モンローやオードリー・ヘップバーンの起用した映画も大ヒットを飛ばしてアカデミー監督賞を受賞した。彼はまた『媚のない誠実で格調高い演出と俳優の魅力を最大限に引き出す』演技指導の名人で、特に女優の魅力を引き出すことにかけては右に出るものがいないといわれている。ちなみにゲイだそうだ……なんとなく分かる気がする。


 監督は決まったが脚本家がなかなか決まらない。結局、元ゲーム会社のADをやっていたオレが原案(たたき台)を書くことになった……オレに出来るのは、せいぜいギャルゲーのアイデアプロットくらいなんだけどなぁ。


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


 主人公は王女様……うーん、個性が足りないなぁ。何かユニークな主人公らしさは……やっぱり王道は魔女っ()かな。「王女様は魔女っ娘でした」……奥様は魔女のパクりじゃないぞ。最初は能力を得た理由説明が必要だよな……ネズミに化けてた魔女が王女のペットのネコに捕まったのを助けて能力を授けてもらったとかどうだ?


  「アタシを助けてくれたお礼に何か願いを叶えてやろう……何がよい?」

  「うーん……ずっとお家の中にいて退屈なの。家を抜け出してスリリングな体験がしたいなぁ」

  「そうか。ならば定番の変身できる力か……シンデレラのアレでいいじゃろ」


こんな会話でどうだ? え~と、スリリングな体験はどうしようか……悪者(ギャング)と追い駆けっこ、とかかな。あと、武器と乗り物とか必要だな……やっぱアメリカ映画でギャングとやり合うには銃だよな。王女様のひみつアイテムとしてデリンジャーっていうか、メン・イン・ブラックに出てきたような小型光線銃(パラライザー)を持たせよう。 


 乗り物は……ローマの休日っていったらスクーター(ヴェスパ)だよな。でも、悪者と追いかけっこするには……どこでも走れるのが必要か。ひみつアイテムその2は普段はキーホルダーみたいで、ビルの壁でも地下鉄の中でも走れる「どこでもヴェスパ」とかどうだ?


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


「お久しぶりー、たーくん元気してた?」

シナリオを書いていたら、突然そんな声をかけられた。この『たーくん』呼びは、テンちゃんか……ずいぶん久しぶりだ。

「……やあ、久しぶり」


でも今はシナリオを書くのに忙しいので、遠慮してもらいたいことを遠回しに言った。

「いまシナリオを書くのに忙しいんだけど」

「なに、なに? 面白そうじゃない」

忙しいって言ってるのに、逆に首を突っ込んできた……テンちゃんにそんな気遣いを期待するのは無理なのか。


「ふーん、アメリカで日本の意見を代弁する人気者を作るために映画を作るの……随分、遠回りな作戦ねぇ」

そう言われると身も蓋もない……確かにもっと簡単なやり方はないのかと言う気もするが、これは華子さんが進めている案件だからオレからどうこう言うのは、よっぽどな事態でないと……イギリスとの協力関係を進められるという面もあるし。


「まあ、ハクちゃんも結構、回りくどい感じのことをやってるけど……」

テンちゃんはそう言ってハクちゃんことハイドリヒが、ナチスというかヒトラー相手にやろうとしていることを教えてくれた。なんでも『ドイツ民族がアーリア人の主導的立場に立つことを世界の人に認めさせるために率先して貴族的責任ノブレス・オブリージュを果たす道を進まなければならない』と考えるようにさせ、ソビエトの南部にユダヤ人を含めた多民族が共和して生きていける国を作ることを世界に向けて宣言させようとしているらしい。


 うーん……本当に出来れば素晴らしいけれど、ああいう個性の強い人物の考えを変えさせるのは、なかなか難しいだろうなぁと思っていると、心を読んだテンちゃんが解説してくれた。

「私たちの場合、周囲の人間に神の願いを広める力があるから、ある程度継続して会っていれば、そう難しいことではないわ。特にヒトラーは、ほぼ毎日ハクちゃんが作った神社に参拝しているわけだし」


ええっ、ヒトラーを神社に参拝させてる?! なにそれ?! オレはびっくりしてテンちゃんを二度見した。

「だって、総統執務室を管理しているのはハクちゃんよ。どんな仕掛けもやり放題じゃない」

……例のオリンピックスタジアムの聖火台を鳥居に見立てさせたように、ドアの意匠とか置かれている絵とかに象徴的なものを含めておいて毎日それに注意を向ける(気を注がせる)ようにさせれば、それで効果を及ぼせるそうだ……はぁ。本当に日本の神使、パねぇ。


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


 オレもハクちゃんに負けるわけにはいかない、と頑張ってシナリオの続きを考える。王女様を助けるイケメンだけど抜けてる相棒を配置して……そうだな、新聞記者とかにして事件の結末を記事にするってことにするか。

でもずっとギャングと追いかけっこじゃあ展開がつまらないなぁ……中ボスとか大ボスとか出てこないと……いっそ、悪徳資本家とか政治家。ああ、ちょうどいいのがいるじゃん♡大統領(ルーズベルト)が。


 というわけで、「ローマの休日」のシナリオは王女様が変身してギャングとドンパチして、それが悪徳資本家、政治家へとスケールアップしていく魔女っ娘ものになった。さすがに、これを「ローマの休日」と言い張るのはどうかと思いタイトルを変えようと思ったが、原題の「ローマの休日(Roman Holiday)」って『休日にローマの市民がコロッセウムで剣闘士同士の死闘を見て楽しむ』ということから「他人を苦しめて得る利益、楽しみ」という慣用句の意味があるそうだ……これは元の脚本の原案を書いたダルトン・トランボが共産主義者排斥運動(レッド・パージ)に引っかかったことの意趣返しとしてつけたらしい。オレは後から、こんな自分勝手な解釈をさせないように、あえて先にこのタイトルを使うことにした。こうすれば題名の裏にある意味がレッド・パージに関する事ではなく、オレの言いたい内容にすることができる……すなわち、世界で行われている(・・・・・・・・・)血みどろの戦いで利益(・・・・・・・・・・)を得ているアメリカ人(・・・・・・・・・・)という意味だ。この言葉は今のアメリカ人にこそ向けられるべき言葉だ。



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― 新着の感想 ―
[一言] 神社のマーク見ては、ハーケンクロイツと騒ぐ奴等の煩わしい事。
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