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第120話 戦車用ジェットエンジン HeS101開発とタフ・ネゴシエーション

 ヘンシェルのミッテルフェルト第三工場では、ショップ3と呼ばれる工場棟を中心として総勢8000人の労働者が昼夜ぶっ通しでティーガーⅠの生産を行っていた。しかしティーガーⅡ用に新しく作られた工場棟は静かなままだった……ティーガーⅠが生産にまわされると共に始められたティーガーⅡの開発計画だったが、道半ばの1943年2月にパンターⅡとの共通部品化構想が持ち上がり一旦、足止めされてしまった。結局パンターⅡが取りやめになったことにより開発が再開されたが、今度はEシリーズ計画により車体設計の見直しが行われている。


 設計主任のアーウィン・アダース博士は当然のことながら内心、強く憤りを感じていたが相手がクニープカンプでは分が悪い。なにしろ彼はドイツ戦車設計の大立者だ、しかもEシリーズ計画は軍需相のアルベルト・シュペーア、ひいては総統アドルフ・ヒトラーの肝いりの計画でもある……彼は兵器局から、いつ設計変更指示が来るかとビクビクしながら、ティーガーⅠの設計を継承したままティーガーⅡの設計が出来ないかを考える毎日を過ごしていた。


 基本的に重量が重すぎるのだ……設計の問題を解決しようと試行錯誤を続けると結局そこに戻ってきてしまう。現状のティーガーⅠですら57トンあるのに新型では、さらに20%くらい重くなる予定だ。これをティーガーⅠと同じエンジンであるHL230 P45で駆動しようというのだ、無理もでる……ちなみにエンジン名の末尾のP45というのは45トンクラスの車両用エンジンという意味である。


 陸軍兵器局も別のエンジンに置き換えることを考えないわけではなかったが、結果は捗々(はかばか)しくなかった。例えばポルシェ社が試作したタイプ192と呼ばれるディーゼルエンジンはX型18気筒のものだったが結局、うまく行かず廃案となった。次にSimmering(ジンマーリンク)-Graz(クラーツ)-Pauker(パウカー)社と協同で、排気量36.5L、720PS/2000RPM、16気筒としたSla-16-Typ192が計画されたが、これもポルシェとSGPの提携上の問題などで頓挫してしまっている。


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


「やあ、ハンスさん。お久しぶりです」

オレはハインケル社で戦闘機用のジェットエンジンを開発しているハンス・オハイン氏を訪ねた。彼は自ら開発したHeS8を搭載したHe280戦闘機の開発計画に参加していたが、この3月に量産されることなく開発は終了してしまったそうだ。


「He208の件は残念でしたね。模擬空中戦でFw190を圧倒したと伺ったのですが」

「軍はMe262を優先させるそうでして……」

さすがに彼は気落ちしている様子で、次の予定を聞いたところ少し休暇を取ろうと考えているということだったので、オレは彼を訪ねた理由を説明した。

「戦車用のエンジンですか……」

「はい、既存のレシプロエンジンでは出力不足なのでタービンジェットで出来ないかと考えています……もちろん越えなければいけない技術的課題は多々ありますが」

オレは圧縮方式を全長の長くなる多段軸流式でなく、彼の得意な遠心式にすることやレシプロエンジンに比べてパワーバンドの狭いジェットエンジンのためトルク変換機構の搭載、そして排気ジェットから熱を回収することにより燃費の改善を図りたいことなどについて熱心に語った。


「さすが種子島閣下……飛行機用ジェットエンジンだけでなく幅広い視点をお持ちだ」

オハイン氏は半ば賞賛、半ば自己卑下のような言葉を口にするので何とか元気づけ、こちらの仕事に参加してもらえるように言葉を尽くす

「だから、閣下とか止めて下さい。オレはハンスさんのジェットエンジンについての広い見識を買っています。貴方は絶対、成功する人です……この戦車用のエンジンは遠心式圧縮や燃焼熱の燃料による回収冷却機構など貴方の得意とするものを多く必要としています。どうかオレに力を貸して欲しい」

こうして、根気強く説得を続けた結果、何とか今後のことを前向きに考えてくれるようになり

「……わかりました。貴方にはいろいろお世話になっていますし、私も是非、世間を驚かせるものを作ってみたい。よろしくお願いします」

と言ってくれた。とにかくオハイン氏と共に、戦車用のタービンジェットエンジンの開発を進めよう……エンジンの仮称はHeS 101とかかな。史実で航空機用のジェットエンジンBMW 003を流用した戦車用エンジンの名称がGT101だし……ちなみにGT101は1944年に開発開始なので1年くらい前倒しした感じだ。GT101は終戦に間に合わなかったが、HeS 101は必ず実現してみせると強く決意を固めた。


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


 その後、イギリス代表に根回しをしてからティーガー増産会議に臨んだ。

「議論も出尽くしたようなので、当初の目的に戻りティーガーⅠ戦車の増産のための各生産拠点ごとの計画を確認していくことにする。まずヘンシェルのミッテルフェルト第三工場は現在ショップ3、ショップ5により月産25両であるが、さらにショップ4を新規増設し40両とする……」

各工場ごとに数字を積み上げ、ドイツ国内での月産数は104両まで増やすことが出来た……だがこれをパンターにすれば月産200両は可能だったろう。

「では、日本での委託生産量の計画を発表願いたい。原少将殿」


オレは指名された原少将を制して、立ち上がると

「日本では今まで通りパンター戦車の生産を行い、あわせてティーガーⅠの改良型であるティーガーⅡの設計開発に協力し、開発完了と共にこちらの生産を開始する事とします」

オレの発表を聞いてドイツ軍のお歴々達が目をむく

「失礼ですが貴方は? 何の権利があってそんな勝手なことを言っているのですか?」


議長役の士官の詰問するような言葉に対して、自分は大日本帝国の統合参謀会議執行役の種子島時休中将であると名乗り、

「先ほどの内容はアルベルト・シュペーア軍需相、陸軍兵器局6課、クニープカンプ博士の同意を得ています。そして総統閣下の裁可も頂いています。そうですよね? グデーリアン大将」

と話をグデーリアン大将に振った。オレの言葉で将官達の席の後方に座っていたグデーリアン大将に注目が集まる。


「……ああ。俺が直接、ヒトラー総統に確認した」

グデーリアン大将はぶっきらぼうにそう答えると、そっぽを向くように視線を外した。

きっと『あの野郎、俺にこんな悪役を押付けやがって』とか考えている気がする……ごめんよぉ。こうでもしないとドイツ側の会議の参加者を黙らせることができないと思うんだ。


「その代わりと言っては何ですが、イギリスでティーガーⅠ戦車を生産する件については私の方で纏めておきました。イギリスは生産設備資金についての提供と引き換えに生産を開始することに合意するそうです。そうですよね? イギリス代表」

「えっ?……ええ。本国に確認したところ、それで合意してよいとの回答でしたので」

イギリス代表の回答に会議の流れは再び戻り、合計で月産125両という数字を纏め閉会された。


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


「さて、では残りは原少将にお願いして、私は日本に戻ります。柴少佐、君も南部博士と共にしばらくドイツに留まってティーガーⅡの開発に参加するように」

そう告げると、原少将は泡を食って

「いやいやいや、待って下さい。そんな急に言われても私ではどう進めていいのか見当もつきません。目鼻がつくまで種子島殿に主導して頂かなければ……」

と言ってきた。


「オレはイギリスに約束した神威改の生産を日本で纏めなければなりませんので」

と言って帰国を企てる……はやく日本に帰らないと憑依で来ているのがバレてしまうかも知れないし。

 しかし、複合装甲の具体的な実装方法や戦車用タービンジェット開発グループの立ち上げなど、どうしたらいいのかと言いつのられ結局、1ヶ月ほどいろいろ走り回ることになった……どうか、オレが日本とドイツ両方で仕事しているのに気付く人物が出ませんように。




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