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第118話 ティーガー増産会議とタフ・ネゴシエーション

 ドイツに着いた原少将から一回目の会議の報告があった。ちなみに今回から暗号通信を新しいやり方に変えている。在独大使館や駐在武官事務所からの通信はすべてドイツ当局に傍受されているからだ。まあ、いきなり全部変えるわけにはいかないので原少将とのやり取り以外は従来の方法のままだけど……というわけで今回は新しい暗号通信のテストも兼ねている。


 会議で対ソ戦でのティーガー戦車の特筆すべき戦果が報告され、参謀本部は全ての戦車の生産をこれに切り替え大増産して、一気にモスクワ侵攻作戦に決着をつけたいという意向らしい。一方でグデーリアン大将は、これに反対し他の車両の生産は止めるべきでないと主張した。原少将も日本での事前の打ち合わせに一致するこの意見に賛意を示したが、他に賛成する者はなく一回目の会議はそんな状況で終わったらしい。


 さてと……まずは相手の主張が正しくない証拠を上げるべきだよな。ゲーム脳なオレは、頭の中に逆転○判の画面を思い浮かべながら考えた。

その結果オレは原少将に次の会議で、ティーガーとパンターの生産に必要な日数と戦場での稼働時間を質問してもらうことを依頼した。あと会議外でイギリス代表に新型戦車の生産の賛否について内々に確認しておくことも。


 二回目の会議での原少将の質問の結果、思ったとおりティーガーの稼働時間はパンターより短く、生産に掛かった日数で割ると圧倒的にパンターに分のある数値が出た……ティーガー推進派は『今後改良されれば徐々に良くなる』と主張したらしいが、一回目の会議とはずいぶん雰囲気が変わり、『軽々にパンターの生産を止めるべきではない』という意見に同意する人物も出てきたらしい。


 またイギリス代表に会議外で接触した結果、イギリスとしては特に確たる方針があるわけではないが、新規に生産ラインを立ち上げるには予算確保が難しい……つまり『ドイツから要請があったから』では政府や国民を納得させられないだろうと言っていたとの事……ドイツから費用の補填など、一定の譲歩が引き出せれば受け入れようと考えてようだと少将から報告された。

イギリスは状況次第というところか……なら、こちらで先にイギリス本国とネゴしてしまえば我々都合に合わせた答えを引き出せそうだな。問題はどうすれば会議に参加しているドイツ軍の参謀連中に日本がティーガーを生産しないのを認めさせるかだな……総統からそう言ってもらえれば、それで決まりだろうが……グデーリアン大将をうまく使って何とかそういう方向に持って行けないだろうか……オレはいろいろ考えを巡らせながら『来週には日本での仕事を片付けてドイツに向かう』ことを原少将に知らせた。もちろん実際に行くのではなく憑依で行くだけだが。


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


「おう、あんたは日本の装甲材屋か……あの時は悪かったな」

ドイツに来て早々、原少将と共にグデーリアン大将に会いに来たのだが、彼はオレのことを日本の戦車材料製造会社の人間だと記憶していたようだ。原少将が慌ててオレが日本軍の将官であることを伝えたが、オレは気にしてない風で答えた。


「はっは。あの席では装甲材の話ししかしませんでしたからね。そう思われるのも仕方ないです。一応、私の専門は装甲材でなく発動機です……まあ、他にもいろいろやっていますけれど」

実際、自分でも何と自己紹介したらいいか困ってしまうほどだ……ジェットエンジンが専門のはずだったのだが、誘導噴進弾の開発を始めたり、コンピューターを作ったり、セラミック装甲を作らせたり。最近は各軍の参謀の取り纏めの仕事まで押し付けられて……こんなでは間違って覚えられてしまっていても仕方ないよなと思う。


「なんだ、そうだったのか。で、君はどんな用事できたんだ?」

そうだった、そっちの話をしないと。早速、オレはグデーリアン大将に話しかける。

「貴方は戦車の機動力を何よりも重視していると聞きましたが」

『厚い皮膚より速い脚』というセリフは何に載っていたんだっけ……それについては言いたいことがあるのか、彼はすぐに答えを返してきた。


「それは正しくないな……俺は総合的な力を重視している。火力があっても必要な時に戦場に到達できなければ意味がない。もちろん戦場に到達できても十分に敵を破壊できなければ意味がないし、戦場に到達する前に破壊されるようでは論外だ」

「なるほど……その考えからするとティーガー戦車は良くないと」

「ああ。だいたいあれは目的が違うからな……電撃戦に使うものではない」

「敵陣地突破用の重戦車ですからね……今時、陣地を堅める戦い方は古いですし」

「ああそうだ……なかなか、分かってるじゃないか」


 会話が回り始めたところでオレは次の問いかけを仕掛ける。

「では、電撃戦に使えるくらい良好な足回りのティーガーなら賛成ですか?」

隣で原少将が少し心配そうな顔をしている。せっかくいい感じで会話が続いているのだから波風が立つようなことを言わなくてもいいのではといった感じだ……けれど、それでは先に進まない。


「む、話にならんな……そんなことが出来るわけがないだろう。45トンのパンターですら問題を抱えているのに、ティーガーは57トンだぞ」

やはり素直に賛意を示してはくれなかった。だが具体的な数字をすらすらあげて反論してくるところはさすがだ……もうひと押しだな。

「日本の装甲材を使ったパンターは35トンです。ティーガーに適応すれば50トンは切るでしょう」

「……それでも重すぎる」

そう断じたグデーリアン大将に、オレはチャレンジングな言葉を吹っ掛け続ける……不敵な笑みを浮かべながら。これは、相手の予想外の状況に引き込みながら譲歩を引き出すという交渉術だ……最近、ポーカーが大好きな山本長官から教えてもらったやり方だけど。


「……では、それでも満足するものを作れるなら、我々に協力していただけますね?」

グデーリアンは、こいつ何を言いたいんだという顔をした後、さらに考えを巡らせてから

「…………出来るものならな」

と答えてきた。とりあえず判定勝ちといえる程度の言質は取った(きっかけは作った)ので、オレは次にイギリス本国の相手(ルーシー)と交渉するため渡英する。


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


「日本では五月は端午の節句といって、子供たちに……」

相変わらず、ルーシーは日本の慣習に絡めて何か要求しようとしてきた。

「端午の節句は、特に子供に何かあげたりしませんよ」

オレが途中で話しをさえぎって、そう言うと

「……そうか。何もくれるつもりがないのに何しに来たんだ?」

と言い返してきた……なんちゅう言い草だ。オレは渋い顔をしながら用件を切り出した。

「ドイツでの新型戦車の生産の件です。イギリスでは予算以外は特に反対する点はないと聞きましたが?」

「……ああ、そっちの件か」

ルーシーが意外だという様子で答えた。いや、来る前に伝えてあったでしょう。

「イギリスには、既に生産した戦車が十分な数あるからな。だから現行の戦車を、これ以上増やす必要はない……なので新型戦車に生産を変えるのは特に問題はない。新しい技術が入手できる利点もあるしな」


 イギリスはドイツや日本と違って直接、戦闘には参加していない……フィンランドに派兵はしているが、山岳旅団や航空部隊だけで戦車は送っていない。だから自国のMarkⅣスペシャルやMarkⅤを減らすことはない状況だ。

「だが、見返りもなしに日本の言うままになるのは業腹だ……というわけで何か見返りをよこせ」

ひどい言い様だ……最近、遠慮が無くなってきたというか、他でのストレスをこっちにぶつけてきているのか……でも何か要求されるのは想定済みだ。ラプトルMarkⅡの生産で話をつけよう。イヤだというなら渡している機体を引き上げるぞ、と頭の中で考えると

「君はひどい人間だな……」

とルーシーが言ってきた。オレの頭の中の考えを読んだようだ。

「では、ラプトルMarkⅡを生産する代わりに、イギリスでティーガーを生産するのは了解するという事で……あ、この話は私の方でドイツとの取引に使いますから、まだドイツのイギリス代表にはOKを出さないでくださいね。どうぞよろしく」

「一回分、貸しにしておくぞ」

ルーシーは『割に合わないな』という様子だったが、オレは意気揚々とロンドンのロスチャイルド邸を引き上げベルリンに取って返した……まだまだ仕掛け(交渉)は完成していない。




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