第116話 強襲揚陸艦と船舶の神、その2
オレは強襲揚陸艦の建艦計画のため、現役復帰した田尻中将と共に海軍艦政本部を訪ねた。神州丸などの特殊船を作る時も海軍の協力を仰いだそうだが、今回の強襲揚陸艦の難しさはそれ以上なので専門家の参加はぜひ必要だ。
「井上大将から君達へ協力するように言われている……何でも新しい補助艦を作るそうだね。まあ、今は海軍の新造艦もないから問題ないが……」
艦政本部第四部長の福田造船中将は、あまり前向きではなさそうにそう言った……我々の強襲揚陸艦は補助艦扱いか。
「彼が、君達の造艦計画を担当する遠山技術中佐だ」
福田部長はそう言って、かなり若い技官を紹介してくれた。主力艦の設計主任ではなく、若手を持ってきたのも何か含むところがありそうだが、オレとしてはむしろ好ましい……日本海軍の軍艦設計は平賀 不譲こと故・平賀 譲造艦中将の影響が色濃く残っており、後にわかった平賀設計の不備などを修正したいオレとしてはこれまでのやり方に固執する人物ではやり難いのだ。ちなみに後で調べたところによると遠山中佐はブロック工法などを取り入れ、短期間に多数の海防艦を建造した人物だった。
「早速だが、これを見てくれ」
オレは田尻中将とまとめた強襲揚陸艦の設計概略を説明する。
「一万五千トンですか。全通飛行甲板と島型艦橋、艦尾および舷側に泛水装置……小型空母と輸送船を組み合わせたような艦ですね」
「ああ、これからはこういう艦が沢山必要になる……それから従来の設計と変えてほしい部分が幾つかある」
オレはそう言って、防水隔壁の縦隔壁の廃止(片舷に浸水した場合、横傾斜の回復が制限され転覆しやすい)と艦底および艦舷の増強での対応(こちらの方が魚雷防御力を上げられる)とすること、主要機関をシフト配置し敵の攻撃により一部が破壊されても全機能損失に至らないようにする事などを依頼した。
「飛行甲板は高温に曝されるため、木製でなく耐熱性の高い特殊鋼板を使用する」
実際には鋼板でなくセラミック複合材ブロックにするつもりだ……こうすることによりSTOVL機が利用可能になる。重さも軽減できるので多少トップヘビーになることを避ける助けにもなるだろうし。
「この飛行甲板前部に設けられた装置は?」
遠山中佐の質問に
「イギリス製の蒸気式射出装置だ」
と答える。日本製の射出装置は火薬式で射出重量に制限があり、ジェット化された攻撃機を過荷重状態で打ち出すには無理がある。それに射出加速が大きすぎてこれ以上火薬を増やすわけにもいかない……その点、イギリスの蒸気式は仕掛けが大掛かりになるが大重量を射出でき搭乗員にもやさしい。他にもレーダーや誘導噴進弾のシーカー機能を応用した自動追尾型の機銃射撃指揮装置、日向に搭載した長距離噴進弾を改良し単発化した噴進弾発射装置などを説明していると、遠山技官から『設計に入る前に各装置を勉強させてほしい』と泣きが入り、彼を我々の兵器研究グループに参加させ船舶への設置運用を研究してもらうことになった。
「しかし、お前さんも随分いろいろ手を出しているんだなぁ」
横で説明を聞いていた田代中将からそんなことを言われた。いやいや上陸用舟艇や揚陸艦から、どれを扱う船舶工兵の育成を手掛け、さらには陸軍の船舶輸送体制を再構築した貴方も大概ですよと、口にしかけて止めた……前の井上さんの時にも感じたが、自分の信念を(単なる妄信ではなく客観的に正しいことが前提だが)組織に抗って行動を為した相手に対しては、こちらも言葉ではなく行動で示さなければと感じたからだ。
「さて、残りの輸送艦についても済ませてしまいましょう」
オレはそう言って、機動打撃軍のもう一つの柱である軍需物資の輸送部隊が使う船舶の建造についての話に移る。これは田尻中将が解任させられてしまう切っ掛けになった「民間ノ船腹不足緩和ニ関スル意見具申」にもかかわる事柄だ……今の民間船を徴用し民需を圧迫してしまわないように専用船とそれを運用する部隊を作る必要がある。
「軍用輸送船の建造に関して一つ提案がある。輸送物資のサイズを特定のモノに規格化し、それ単位で集積、移動させるようにする事で効率よく兵站輜重が行えるようにすべきと考える」
要は後の世で広まる台板と輸送箱だ。これが使われる前は、沖仲仕と呼ばれる荷役がいちいち人力で船への積み込みや荷下ろしを行っていた。これをクレーンでまとめて行えるようになる。時間も大幅に短縮できる。
「船だけでなく鉄道やトラックでの移送もこれを基準にすれば、大幅に効率化かできるな……いっそのこと噴進弾や魚雷などもこの単位で運んで、そのまま発射器に装填できれば……」
オレは頭の中で思いついたアイデアをそのまま呟いていた。
「……思い付きは悪くないが、周りに言う前によく考えた方がいいと思うぞ」
田尻中将に窘められてしまったが、大丈夫。これは未来の世界で実用になっているものだ……ただ突然話をしたら驚かれるというのは確かだな。
「大丈夫です。ちゃんと話す相手とタイミングは考えますから……それより軍用輸送船の話を進めましょう」
勝手に話を始めて勝手に元に戻すオレに、田尻中将と遠山中佐はドン引きで『こいつ大丈夫か』という表情をしているが、もう慣れっこなのでオレは気にしない。
「輸送船をブロックに分けて作成し、最終的にそれを組み合わせる形で建造できませんか?」
いわゆるブロック工法だ。史実ではあと一年後の1944年に作られた一号輸送艦から用いられた工法だが設計は既に入っていてもおかしくない(但し史実では戦局が不利になった状況で行われたので、この世界でまだ考えられていなくても不思議ではない)ちなみに一号輸送艦は高速補給艦計画のものであり、『基準排水量1250トン(搭載能力約200トン)、速力23ノット、兵装12.7cm高角砲2門、25mm三連装機銃3基、爆雷36個、探信儀・水中聴音機各1、搭載物件の積み下ろしを迅速かつ容易に行えること』という要求諸元だったらしい。
「そ、それを何処から?!」
遠山中佐はびっくりして、そう聞き返してきたが『未来からの情報だ』なんて言えるはずもなく、オレは顔をニヤリとさせて上を指さして見せた。
オレは軍令部からの高速補給艦計画に、こちらの要望に合ったブロックを幾つか追加させ、貨物搭載方法についてコンテナを考慮に入れさせた型で機動打撃軍用の軍用輸送船を建造を依頼した。




