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第115話 戦略爆撃機に至る道、大虎編


 大西瀧治郎少将は山本司令長官から機動打撃軍への移動を打診され、理由を尋ねた結果、『種子島に直接聞け』と言われた。大西を望んだのは彼だとのこと。その結果、大西少将は種子島に面会を依頼した。


 大西少将は現在、霞ヶ浦の航空教育部隊で教育本部長を務めている。史実ならば日華事変の勃発とともに第二連合航空隊司令に転出し、中国大陸への長距離爆撃作戦の敢行や第十一航空艦隊参謀長として真珠湾攻撃の作戦の計画検討など忙しく立ち回り続けるはずであったたが、日華事変や対米開戦が行われていない、この歴史では長く航空本部教育部長の席を温め続けていた。


 とはいえ、彼は兵学校時代から喧嘩瀧兵衛とあだ名されるほどの強面で、また任官以来日本の航空部隊の航空戦論とその実践を先頭に立って切り開いていった人物である。彼は飛行機乗りにありがちな、命知らずで他人など気にせず意見を述べる性格であり、難事を物ともせず突き進む旦力も並外れたものを持っていた。


 一方、世話好きで当時海軍の機関大尉であった中島知久平が民間の飛行機会社を作りたいと大西中尉に打ち明けた際も、資金を提供する出資者を探して奔走し爾来、無二の親友として水魚の交わりを持つに至った。しかし怪しい話でも頓着せず世話をするため、大西”ダボハゼ”説が海軍部内では広まっており、『大西さんがまた妙な話を持ち込むものだから』と、怪しい話はすべて彼のせいにされてしまうくらいだった。その最たるものが『水を油に変える』という詐欺事件だ。


 この話は最初、海軍軍需局に持ち込まれ相手にされなかったのだが、犯人たちは性懲りもなく各方面に働きかけを続け、貴族院議員の一条実孝から山本海軍次官に話がされるに至り、彼の命を受けた大西が数年前に実験に立ち会ったという横須賀鎮守府の石川信吾大佐の許に遣わされた。石川は友人の海軍機関学校出身の森田寛一と共にこれに立ち会い(見事に騙されて)水が石油に変わったのを確認したと話したので、その旨を山本に報告したところ『では海軍省でとことんやってみよう』ということになり、当事者の水野という男を水交社によび実験が行われることになった。


 水が二十本の試験管に入れられ、何やら薬品を数滴垂らした後に密閉され湯煎がされた……実験は延々、深夜にまで及び、立ち会いの将校たちが眠気に襲われた頃、『できた!』と声が上がった。中身を確認するとまさしく石油になっており、立ち会った軍令部参謀の城英一郎大佐などは『われわれが科学と信じているものは、まだまだ浅薄で世の中には解明されていない超科学的な力が存在するのだ』と興奮冷めやらぬように語る程だった。


 しかし海軍省で石油の技術面を担当する渡辺大佐が、事前に試験管の詳しいスケッチを記録しており、石油に変わったという試験管を調べたところ、それだけガラスの気泡の位置が異なることを見つけインチキが露見した。大西は水野と学問的裏付けを行ったという東北大学助教授を海軍省に呼び、芝居っ気を持ってネタばらしを行い

「以上で試験は終わりだ」

と告げた。二人が這々の体で海軍省を出たところを、待ち構えていた警察に逮捕され刑務所に送り込まれたのだが、大西は後日、彼らに差し入れをしてやったという逸話まである。


 オレは、こんな大西少将を見込んで、ぜひ依頼したいことがあった。

「山本司令長官から『貴官が私を機動打撃軍に呼びたい』と言っていると伺いました。理由をお聞かせ願えますか」

丁寧だが堅い口調で彼は、そう切り出してきたのだがオレは山本長官に教わったように『ここでは何ですから、外に一席設けましたのでそちらで話しましょう』と言って山本長官のなじみの料亭に連れ出した。『貴様もこれからはこういう事を覚える必要がある』と言われて店を紹介された……偉い人はこういうやり方で交渉ごとを進めるらしい。たしかにオレの今まで経験したことがない苦手な世界だ。


「私は大西殿の『航空軍備に関する研究』に書かれていた、大遠距離、大攻撃力、大速力を持つ大型機による攻撃部隊を是非、実現して頂きたいと考えているのです」

と彼の盃に酒を注ぎながら話すと、彼は黙って盃を干してから返盃し

「以前は『発動機の進歩で大型機の優位性はなくなり、大型機は誘導奮進弾に対して為す術がない』と聞いた気がするのですが」

と返してきた……やっぱり覚えていたか。


「そうですね。それについては以前と考えは変わりません。大型機による長距離・大規模爆撃はリスクも高く、損耗も大きいです」

と答えた……彼はオレに盃を干すように促してきたので、酒を飲み干し彼の盃に酒を満たした。ちょっと待て、これ話が済む前に酔い潰されてしまうかも……オレは焦って自分の盃を伏せて、彼の答えを待つ

「では奮進弾が爆撃機にとって代わると?」

彼は憮然としながら手酌で酒を汲み飲み干した……よかった、オレが呑まないことを責めるつもりは無いようだ。


「いや、そこは違います」

オレは身を乗り出して説明を始めた。ここで上手く持って行かないと中島知久平氏との会談の二の舞になってしまう。

「大西殿もご存じのことと思いますが、これからの戦いは兵隊同士の戦いだけでなく、国と国が持てる力のすべてを尽くした戦いになっていきます……そして敵国の軍需生産力を削ぐため、大規模爆撃が極めて有効な手段となります」

目の前に突き出されたオレの顔に面食らいながら、大西少将は少し考える様子で

「む、敵の基地や航空機を叩くための爆撃ではなく、ですか?」

確かに中国戦線では工場を破壊するというのは爆撃の目標に入っていない……中国では兵器は自国で生産するのではなく外国から買い付け、持ってくるものだからだ。


オレは徳利を持って大西少将に酒を勧めながら

「ドイツが日本の新型機を借りて、ソビエトの戦車工場を爆撃したのをご存じですか? 欧州の戦いでは戦場にある戦車だけでなく、工場で作る前の戦車まで攻撃の対象となっています」

「ほう、そんな戦いが行われているのですか」

少将は興味深そうに話を聞きながら、オレの前の盃を表に戻して酒を注ぎオレの前に置いた……まだ飲めるだろうということか

「しかしソビエトは、工場を他の場所に移転させて戦車を作り続けています……結局、工場を爆撃する程度ではいたちごっこで敵国の生産力を削ぐ程には至らないのです……もっと大規模な、国全体を爆撃対象とするようなものでないと」

オレは覚悟を決め、盃を飲み干すと徳利を突き出して彼に酒を飲むことを勧める。しかし彼は盃でなく湯飲み茶碗を出して、酒を注ぐよう要求してきた……そろそろ酒飲みの本性が出てきた感じだ。


「そういった場合、大型奮進弾より大型爆撃機で爆撃を行うのが効果的なのです……正直、以前お話ししたときはそこまで考えに入れていなかった。そんな戦い方ができるのはアメリカくらいで、日本にはとても無理だと思っていました」

「……種子島中将は、そんな戦い方が日本にできるようになると?」

大西少将はオレの前にも湯飲み茶碗を置いて酒を注ぎながら声を潜めて、そう尋ねてきた。


「……簡単ではありませんが、今の日本ならすべての力を合わせれば手が届くかと」

オレも東シベリアの資源が手に入らなければ、こんなことは考えなかった。でも今なら……オレは湯飲み茶碗を握りしめ、それをあおりながら大西少将の顔を見つめる。

「そのために私を?」

少将も酒を飲み干し、オレの目を見ながら問いかけてくる。

「簡単ではありませんが、貴方ならきっと日本の大型爆撃機隊の未来を切り開いてくれると見込んでいるのです」

そこまで言って胃の中から込み上げてくるものを必死に押さえながら少将を見つめる。大西少将はそんな様子のオレを見て、何か愉しげな表情を浮かべ

「なるほど……分かりました。不肖大西、全力を持って務めさせて頂こうと思います」

力強く肯きながらも、まだまだ酒が止まることはなく夜が更けるまで酒を酌み交わすことになった……当然オレは厠で吐きながら付き合い続けることになった。




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