第114話 機動打撃軍、人事構想
機動打撃軍の中心となる人材を決めるため、オレは山本司令長官を訪ねた。
「以前、海軍から連れて行けと言われた空軍関係の方はどなたでしょうか?」
長官に尋ねると、一度目を閉じて表情を厳しくした後
「まずは、山口多聞だな」
と答えた。
「えっ」
予想外の名前にオレは驚いた。山口中将と言えば主力の第一航空艦隊に所属する海軍の俊英で、将来を嘱望される存在でありとても山本長官に今後を心配される必要があるとは思えない。
何故、山口中将なのですかと聞いてみると
「奴は、このままだと南雲に使い潰される」
と返ってきた。
「南雲は航空部隊のことは知らないからな……代わりができる奴が必要だが山口は出来過ぎる。そして責任感が強すぎる。あれではいつか討ち死にすることになるだろう」
そんな山本長官の言葉に、おれは『……そうですか』としか言えなかった。
「それと貴様のために、井上に掛け合っておいてやったぞ。あいつが海軍の他の連中からの風よけになってくれるそうだ。あとで挨拶に行ってこいよ」
井上成美中将には以前、山本長官の新型戦艦建艦阻止の無茶振りの際、お世話になった。現在は第四艦隊司令官になっているとのこと。第四艦隊かぁ……
日本海軍は第一、第二が常設艦隊で第三艦隊は必要に応じて編制・解散される……今回も対ソビエト戦のため編成された。第四艦隊はさらにその次で、陸軍の支援や演習の仮想敵艦隊などの任務のため編成され指揮下の艦船も二戦級の船ばかりだ。ちなみに第一艦隊は一線級の戦艦が中心で、第二艦隊は主力の巡洋艦を中心とした編成になる。そして第一艦隊司令官は連合艦隊司令長官が兼務する。
「私としては有り難いですが、井上中将はよろしいのでしょうか? はっきりいってかなりの貧乏籤だと思いますが……」
そう言うと山本長官は
「井上には裏の事情まで話してある。ヤツはむしろ今の海軍上層部とやり合えるのを楽しみにしているようだぞ……それに井上が上に立つと、他の連中が勝手な邪推をしてちょうどいい目眩ましになる」
「邪推とは?」
オレの質問に楽しそうに
「ああ、海軍刷新のために古い艦を整理するという話があってな……井上がその艦を押付けられる先に転出するのだと噂が広がっている」
長官の悪そうな笑みを見るに、これは絶対、裏で噂を広めているのは彼自身だと確信した。
「実際、及川海軍大臣などは海上輸送や沿岸防衛のための艦船部隊を創設すべきだという考えを持っている……」
ほう……長官のマッチポンプだけでなく、実際そういう考えの人もいるんだ。機動打撃軍の海上輸送防衛隊に近い考えを聞いて自分たちの考えがまったく突飛というわけではないのを安心した。
「他に貴様の欲しい人材はいるか?」
そう聞かれて
「角田中将、大西少将をぜひ機動打撃軍にまわして下さい。それと源田中佐か淵田中佐のいずれかをお願いします」
と言うと
「うーむ、そうか……難しいかも知れないが交渉はしてみよう。それより今回、井上は大将に昇進することになっている。新しい組織のためだが、貴様はどうする?」
と返された……どうするって??
「小官は今まで通り、新兵器開発を進めたいと思いますが」
と答えると
「それは難しいかもしれないな……北白川宮殿下とは最近会ったか?」
と言われた……なんでここで久永殿下の話がでるんだ?
「いいえ」
と答えて、山本長官の下を辞し、こんどは陸軍関係の人材の相談に三宅坂の石原総参謀長を訪ねる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「先日話のあった陸軍艦船司令部の件ですが、ぜひ我々の機動打撃軍で働いてもらいたいと思います。田代昌次殿にもぜひ現役復帰して輸送艦隊組織や海上機動旅団の構想を我々の機動打撃軍の下で実現できるよう率先して活動して頂きたいと思います」
と石原総参謀長に伝え、他の陸上部隊の組織の中心となる人物に心当たりはないか尋ねてみたところ
「まだ腹案だが」
と言ってモンゴルにいる第三軍の本間中将とその幹部組織はどうかと教えられた。
曰く『もうすぐモンゴルの占領は解かれて親日勢力による新国家体制へ移行が行われる。もちろん新政府を支える駐在軍は置かれるが第三軍は解体され日本本国へ帰還することになる』
実際の兵士は山下第一軍やモンゴル駐在軍を配下とすることになる今村第二軍に振り分けられるが第三軍の統率・指令組織をそのまま機動打撃軍の陸上部隊の組織として編入するのはどうか、というものだった。
「私としては願ってもないですが、今村中将の意向はどうなのでしょうか?」
と聞いてみると
「もちろん実際の話を聞いてみないとなんとも言えないが、今村という男は頭の切れる男だ。我々が礼を尽くして求めれば今後の情勢の進展に必要な事を理解し、よい答えを返してくれると思う」
という話だった。オレはその答えにひと安心し
「有り難うございます。それではその線で進めて頂ければと思います……それにしても新組織は皆、中将閣下で私から何かお願いするのは畏れ多いですね」
と軽口を言うと、一瞬キョトンとされ
「君は、まだ久永殿下と話してないのか……なるべく早く伺った方がよいぞ」
と言われた。みんな揃って久永殿下、久永殿下と何なんだ!?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
数日後、北白川宮久永殿下にお目通りのお願いをしたところ、宮中の軍事顧問府に来るように指定された。以前、就けられた国家戦略なんとか補佐についての話があるということだったが通された部屋には軍服姿の久永殿下がいた。
「ご無沙汰しております。軍服姿の久永殿下は初めてですが一体どうされました」
と伺うと
「ああ、いつもの企画院の話とは違って国家戦略諮問会議の件だからね。堅苦しいだろうが我慢してくれたまえ」
と言われた……いや、オレは軍人ですから別に構いませんが。そう思いつつ、ふと軍服の襟章を見ると星が増えている。あれ、この前中将に昇進されたばかりの気がしたが……さすが皇族昇進のペースが早いと、この時は思っていた。
「すでに知っているかも知れないが先日、畑陸軍大臣、及川海軍大臣から新軍設立が上奏され、目下関係各部で創設準備が進められている」
ここで一旦、言葉が句切られ視線が向けられた……お前が原因だろうと言われている気がする……済みません、その通りです。
「これに関連して、私の所にも組織改革の話が及んできた」
なんだろう……新しい軍が増える分、国家戦略なんとかは取りやめになるとか? 殿下には申し訳ないけど、あんまり存在意義の分からないものだったし、ひとつやることが減ってラッキーくらいに思っていると
「各軍の意思行動の統一の必要性が求められ、大本営を常設とし軍事参議院と内閣企画院の諮問機関である国家戦略諮問会議をこの下に移動、各軍の参謀部と連携をとる組織として改編されることになった……そして諮問会議で主幹であった私に取り纏め役が回ってきた」
……それは、うーん結構大変な役を任されてしまったということか? でも史実で陸軍と海軍がバラバラだったり統帥権の独立を盾にとって政府のいうことを聞かないで暴走したりするのを食い止めるためには調整役が必要だよね……そう言う意味では政府と宮中に関係の深い殿下は適任かも知れない。久永殿下は難しい仕事がひとつ増えて大変だろうけど、まあそれは部下の人たちに頑張ってもらうということで……
ここで、またこちらの様子を確かめるようにご覧になった後、久永殿下がとんでもないことを言った。
「そこで君にも、新しい組織の『統合参謀会議』に参画して調整役を担ってもらいたい」
……ちょっと待て。何でオレにそんな役が回ってくるんだ?! 技術関係の話ならまだしも参謀たちの調整なんて絶対無理だろ!! オレは心の中で大声で叫んだ。
「私も今回のために階級をひとつ上げられてしまったが、君も一肌脱いでもらいたい」
前にもそんなことを言われた気がする。あれは山本長官と石原総参謀長だったか……今度は久永殿下からも言われてしまった。もうやめて! これ以上脱いだら某巨人みたいに筋繊維を露出させてしまいそうだ?!
「そ、それは……」
オレがようやく一言、口にすると
「種子島時休中将を統合参謀会議執行役に任ずる……よろしく頼む」
と言われた。
はぁぁぁぁ?!
オレは、ここ数年で一番難しいと思える無茶振りを押付けられた。




