第113話 Ⅵ号戦車、ティーガー委託生産
Ⅵ号戦車ティーガーの開発計画は独ソ戦のT34ショックの前から始まっていた。元々が陣地突破用の重戦車であり、それまでのドイツ戦車のように機動力、攻撃力、防御力のバランスをとったものと異なり、機動力を犠牲にしても火力と装甲を強化したものになっている。
火力は8.8cm高射砲を戦車砲化した8.8cm KwK36 56口径で距離1000mで既存のあらゆる敵戦車の正面装甲を貫徹できる。さらに低伸する弾道と正確なツァイスTZF9b照準器により高精度の射撃が可能となっている。また装甲は車体形状、レイアウトのよく似たⅣ号戦車の倍となる前面装甲を100mm、側面および後面60~80mmとした。車体重量もⅣ号戦車の倍以上となる57トンであるが行動距離は半分以下の100km程度となっている。
ドイツ軍としては、この戦車もイギリスおよび日本での生産の委託を行いたいため両国の関係者を招請してきた。前回のⅤ号戦車パンターの時はオレがドイツを訪ねたが今回は機動打撃軍設立準備で忙しいため、日本の戦車の父と呼ばれている原 乙未生少将、そして戦車砲弾の研究をかねて柴少佐と南部麒次郎氏にも同行をお願いする。オレの時のように航空機で各地を経由しながらというのは高齢の南部氏には大変だろうから、ちょうど現在欧州にいる遣欧艦隊と交代する第二次遣欧艦隊に随伴して陸軍船舶司令部から出してもらった船で行くことにした。とはいえ陸軍は特殊揚陸艦以外は民間船を徴用して任務をこなしているため、今回も大阪商船の高砂丸を使うことになった……この船は商船ではあるが艦隊に同行できる速度を出せる高性能船だ。他にもセラミック装甲関係や日本での戦車開発の専門家など十数名と機材などをドイツに送り込むので結構な大所帯となってしまった。これも商船を一隻仕立てなければいけなくなった理由のひとつだ。
渡欧に先立って原少将と打ち合わせを行ったのだが、ここで意見の差が出た。
原少将はドイツの意向を入れてパンターとティーガー両方生産するようにしてはどうかという意見だったが、オレとしてはティーガーの生産は行うべきでないという意見だ。何しろⅥ号戦車一台作る分でⅤ号戦車なら二台作れるのだ。それにティーガーでなくても、パンターも主敵であるT34やその次に出てくるIS2と互角以上に戦える力を持っている。日本軍としては消耗した戦車数を少しでも早く回復したい現在、新型重戦車よりも現行の中戦車の生産に力を注ぐべきだ。
「しかしティーガーに使われている新技術は、ぜひ帝国陸軍も手に入れておくべきです。なかんずく8.8cm 砲は他への波及効果も大きそうだ」
原少将がそう言った時、それまで黙っていた柴少佐が発言を求めてきた。
「お言葉ですが8.8cm砲よりも優先すべきは砲弾の研究です。ドイツは既にⅤ号戦車で硬芯弾(APCR)が使えますが、日本では生産できずドイツからの輸入に頼っています……さらにはその先にはAPDSやAPFSDSという新方式が開発されていく今後の世界の趨勢に吾していくのは喫緊の問題であります」
前から議論好きな男だったが、こういうところで自分の考えを押し出してしまうのは相変わらずのようだ……しかも今回の場合、柴少佐の考えに分があるから一概に叱りつけられない。砲弾技術の重要さを勉強させすぎたか(苦笑)
「……APDSやAPFSDSといったものが、どのようなものかは詳細は知らないが、我々がやるべき事がまだまだ多いのはわかった」
原少将は大人の対応で、一応相手の意見に理解を示しつつも自分の主張を変えるには至っていない様子で場が重苦しい雰囲気になる。彼も戦車に関しては一角の人物で技術の動向にもかなりの造詣を持っているはずだが……一方、オレはオレで一番優先すべきは日本の軍需生産力を効率的に運用することだというのを感じている。ドイツに御機嫌取りのため付き合って可惜これを無駄にするのは厳に慎むべきだ……オレはゲームに馴染んでいるから、こういった戦争運営的視点から見れるが普通の軍人は、そんなことは考えないだろうなとは思うが。
とはいえ今回の招請で、うちの主席となるのは原少将だ。ドイツで彼がどのように振舞うかで結果は、まるっきり変わってしまう。さて、どうしたものかと考えつつ、ひとつ誘いを掛けてみる。
「どうせならティーガーⅡをやりませんか」
「……ティーガーⅡとは? ドイツからの情報にはないようですが。そういえば以前も種子島殿はⅤ号戦車について、かなり早くからご存じだった……貴方の情報網はとんでもなく強力なようだ」
思った通り原少将は食いついてきた……やっぱり、戦車自体の話は放っておけないほど興味が強いらしい。
「これから一年くらい後に出てくる車体で、パンターのような傾斜装甲を取り入れています。さらに重装甲、高火力で相変わらず機動力はクソですが、エンジンをなんとかできれば史上最強の戦車になります。まだ設計段階のはずですから、うまく食い込めれば単なる生産以上に得るものがあるはずですよ」
「なんと……それは」
突然の提案に戸惑っている原少将にオレは畳みかける。
「それまではⅤ号戦車の生産に注力しつつ、新型砲弾とティーガーⅡの研究開発に参加していけば……前回のような新型装甲採用のいざこざも起こらないでしょうし」
新型装甲採用のいざこざというのはⅤ号戦車の生産委託の際、総重量が重すぎる件を指摘して日本で開発したセラミック複合装甲を採用すべきと提案した件だが、難色を示され結局、日本とイギリスの生産分だけに限定された件だ。その後の数字を見れば新型装甲の利点は明らかなのだがドイツでは、いまだ採用されていない。
「うむ。それはよいですな……だが、交渉は難航しそうだ。やはり種子島殿にもドイツに行ってもらうわけにはいきませんか?」
ようやくこちらの思う方向に考えを転換してくれたか……でも交渉の難しさを指摘された。たしかに、オレが原氏の立場でも『言い出した本人自身が交渉してくれ』と言うだろうな。だが、さすがに機動打撃軍の話をほっぽり出してドイツに行くわけにはいかない。どうするか……最悪、憑依してドイツに行って交渉に参加するか。後から飛行機で飛んでいったことにして。
「すぐには行けませんが、状況により後から飛行機で向かう事も考えます。ですがまずは原殿に一番槍をお願いしたいと考えます」
最終的に原少将とは渡欧後も細かく状況をやりとりし、必要ならオレも渡欧するということで、こちらの考えにそって話を進めてもらえると合意を得ることができた……早く機動打撃軍について目鼻を付けておく必要ができてしまった。




