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第112話 レンドリースと西の魔女、その2

 ここはロンドン郊外にあるロスチャイルド邸……スーツ姿の男と、この館の住人の娘が庭でお茶のひと時(ガーデンティータイム)を過ごしていた。男は陸軍情報部6課(MI6)、関係者にはサーカスと呼ばれている部署のメンバーだ……なぜサーカスと呼ばれているかというと、別に猛獣使いみたいな奴がいるとか云うことではなくロンドンのピカデリー・サーカスという場所に本部があることに由来している。


「Ms. ルクレチア、西の魔女から連絡があったそうですね?」

ルーシーは視線を手元のカップに向けたまま一口、紅茶を飲み

「ええ。『準備は整った』と……先方には貴方から伝えてくださらない?」

と答えた。普段とは違ってお嬢様のような口調のルーシーだった……彼女の手元にはオウムのような色鮮やかな大型の鳥が控えていた。まるで昔の南洋趣味の貴族の娘のようだ。ちなみに『先方』とは作戦で協力関係にある日本の特務機関のことである。

「はい。了解しました……思ったより早かったですね」


「こちらも相応のものを用意したからな」

ルーシーの言葉は目の前の男ではなく、別の存在に向けた言葉のようだった。口調も今までのお嬢様風ではなく男っぽいものに戻っていた……どうしてそうなったのかよく分からないが、男は場の雰囲気からさっさと帰った方がよいのを嗅ぎ取り、挨拶もそこそこに退散して行った。


ルーシーは、そんな男の行動を気にも掛けず、隣にいた鳥に目線を向けて言った。

「さて、そちらの要望は叶えた(銀の靴は返した)。これで、こちらの願いは叶えてもらえるという事でいいか?」

その鳥は暫く首をかしげていたが、やおら人間の言葉をしゃべり始めた。

「ダイジョウブだ……希望どおり見目の良い娘にしてやったぞ」

「……それだけではダメだ」

ルーシーは厳しい口調で付け加えるが、相手は余裕で

「バーナード・ショーばりの皮肉が言える頭のキレだったか(笑)……問題ない。アレは元々、才女だからな」


老婆のような、しわがれた声でしゃべっているが言葉は思いの外、表情(ニュアンス)に富んでいて、とても声まね鳥のそれとは思えなかった。

「本当か?」

ルーシーは相手の言うことをそのまま信じてはいないようだった。

「最近、彼女の書いた本の書評だ。アメリカでは多少話題になっているようだぞ」

いつの間にか、鳥が新聞の切り抜きのようなものをくちばしで咥えてルーシーに差し出した。

「……エルファモという名なのか」

「偽名さ。本名を載せたら南の魔女(グリンダ)にバレるかも知れないからね……詳しくは後で本人から聞くといい」

「……わかった。で、どうやってコンタクトするんだ?」

「マザーグースの『6ペンスの唄』の手紙を寄越した人物の、言うことを聞くように伝えておく。でも、そのままじゃダメだ……どう変えるかは銀の靴を確かめた後、教えるさ」


 そう言うとオウムのような風貌だった鳥は、みるみる色が変わり黒い大きな鴉になった……そしてルーシーの手元からトトッと離れると、一度振り返り

「精々、連中(OZの仲間)に思い知らせてやってくれ」

と楽しそうな声を残して、空高く飛び去っていった。


 ワタリが換えのティーポットを持って来たときは、ルーシーがひとり考えに耽っているだけだった。

「シンクレア卿が帰られたのは存じていましたが、魔女の使い魔も去ってしまっていたのですね……それで、交渉はうまく行きましたか?」

ワタリが新しい紅茶を差し出すと、ルーシーは

「ああ、やるべき事は済んだ……後は先方が用意する仕掛け次第だ」

と答えた。


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


 久しぶりに大陸にいる華子さんが日本に戻ってきていた。ずいぶん前のことだがイギリスから白海からのレンドリース阻止のための協力を求められた際、華子さんが潜り込ませていた話の『MI6との共同作戦』の準備が整ったからと説明してくれるためだった。あの時、オレは深く考えず諜報機関同士の情報交換でもするのかと思っていたが、聞いてみると全然違う内容だった。


 オレが新兵器を開発し、いろいろ手を回して日本がアメリカに負けないようにと準備を進めているように、華子さんもまた悲惨な歴史を阻止するべく行動していることを知った。五狐神とその大御神様の指金なのか、あるいは久永殿下関係なのか分からないけど……今までオレ一人が必死になって歴史にあらがうゲームをしているようなつもりでいたけど、そんなことはなかった。ちゃんと、この世界のひとりひとりが、みんな現実を見据えて真剣に考え、何とかするために行動している……自分の独りよがりな思い上がりに冷や水を浴びせられたような気がした。


「多分、時休殿はご存じだと思いますが、アメリカは中国権益を得るために国際世論を煽り、中国を擁護するふりをして日本に大陸権益の放棄を強要し、それが拒否されると国民を騙して日米開戦の策謀をめぐらせていきます」

その後の歴史では触れられることは少ないが、知っている人は知っている。イギリスに日英同盟を破棄させ、日本に国民世論の受け入れられないハルノートを突きつけて対日禁輸を行い対米開戦に向かわせる、いわゆるルーズベルトの陰謀だ。


 もちろん、そこにはルーズベルトだけでなく、自分のために日本を生贄にしたチャーチル、世界中にスパイを潜入させ数々の陰謀を為したソビエト、国の為というより自らの勢力に利益をもたらすため、欺瞞を撒き散らす国民党・中共・地方軍閥勢力等々、数え上げたらきりがない……国際社会の平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼などと甘っちょろいことを言うつもりはない。これが国家間の関係の現実であり、力の裏付けのない主張は夢物語であるという事実を認めるしかないのだ。


「そうだね。その動きは危険だ……ちゃんと対処しないと」

言葉とは裏腹にオレは、華子さんの行動に心強いものを感じてニマニマしていたので、不思議そうな顔で覗き込まれた。

「MI6から送られてきた情報によると、米国大統領は自分の政策の弁護のため蒋介石夫人を使って国内で演説キャンペーンを行っているようです。その中で宋 美齢は日本の行動を悪し様に述べ、中国共産党のテロ行為も日本軍に濡れ衣を着せて、対日強硬姿勢を見せる大統領の政策を賛美しているようです」

ああ、宋 美齢か。蒋介石は是々非々で、交渉の余地のある人物だけど、あっちはごりごりの反日家だからな……オレが無言だったので、もうひと言付け加える必要があると考えたのかも知れない。華子さんは

「向こうの世論戦(プロパガンダ)に日本だけがやられっ放しというのも業腹ではないですか」

と言って、少し悪そうな顔で微笑んだ。


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


「……それで、どんな対抗策を考えているんですか?」

オレが姿勢を正して華子さんの方を見ると、彼女は一葉の写真を渡してきた。写真にはショートカットの聡明そうで、かわいい金髪の女性が写っていた……例えて言うとオードリー・ヘップバーンかエマ・ワトソンという感じだ。

「エマ・グレースという新人女優だそうです……いえ、今のところ女優業より作家として有名なようですが」

と言って、新聞の切り抜きも見せてきた。

新聞の切り抜きはウィケッドという本の書評らしい……最近公開された『オズの魔法使』という映画の前日譚という触れ込みで、アメリカで話題となっているらしい。


「彼女が我々の協力者となってくれました。彼女の母親は宋 美齢のアメリカの大学時代のクラスメートで色々、情報を知っているそうです……随分、問題児だったらしいですよ、彼女」

ほう、それは……よく探してきたな、そんな人物。しかもうまい具合にネームバリューもありそうだ。

「エマなのですが既にいくつか映画にも出ているのですが、あまり話題(ヒット)作にならなくて……」

と言って、華子さんはチラシを何枚か渡してきた。

『イースター・パレード』、『ヒズ・ガール・フライデー』……うーん、聞いたことがないな。


「彼女は、我々にスポンサーになって大作映画に出させて欲しいと。彼女自身も友人の関係で日本に好意的らしいです」

それは是非会ってみたいな。今回の件以外でも役に立つ気がする。

「そこで、相談なのですが……時休殿の知識で、これから大ヒットする映画を教えてもらえないかと。その映画に彼女を主演させて貰えるよう交渉したいと思います」

なるほど……でも、大ヒットする映画って何だろう? 何かあったかな……


 調べてみても1940年代後半のアメリカ映画って、カサブランカとかヤンキーなんとかダンディとか戦争くさいのしか出てこない……オレはついつい彼女の写真に影響されて『ローマの休日』とか『スタア誕生』はどうですかと言ってしまった。だって顔のイメージがオードリーヘップバーンぽいんだもん。でも、これらの映画は10年くらい後の映画で、まだ制作準備も始まっていない……イメージはぴったりなんだけどなぁ。それと監督のウィリアム・ワイラーは現在、陸軍航空隊に入隊してしまっているので、どっちにしろ撮影するのは無理だ。


 オレはあきらめて別の映画を探そうとしたが、華子さんや他の面々は『ローマの休日』がぴったりだから、別の監督で映画を撮ってしまえと言い出した。そりゃあ世間ずれしていない王女様がお忍びでアクシデントを巻き起こす話なんて、誰が撮ったってヒットしそうな話だけど……それに資金だって国家予算に比べたら映画制作なんて全然問題ない……けど、いいのか? いきなり10年も先の映画なんて作っちゃって?


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 時代を間違えてしまった兵器を作りまくっている本人が何を言っているのやら。 兵器が時代を間違えているなら、映画が時代を間違えても問題はあるまいに。 ヒットするかどうかはともかくとして…
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