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第109話 強襲揚陸艦と船舶の神、その1

ご都合主義展開はまだ、続きます……。

 今まで何度も使わせてもらっているから、それほど特別とも思わなくなっていたが鉄機兵や神威を作戦工作に投入するために使った『神州丸』は、かなり特別な船だ。

元々、第一次世界大戦の戦訓で上陸用舟艇母艦から舟艇を降ろし武器や兵員を積み込み上陸を行うのでは時間がかかり手間も問題も多いことから研究が始まった。 


 大きな特徴は船内の舟艇格納庫に多量の舟艇(大発を最大29隻、小発を最大25隻)を搭載し、そのまま船尾泛水(はんすい)設備から安全・迅速に進水できるようになっている点だ。さらに護衛砲艇として装甲艇最大4隻、高速偵察艇最大4隻を上甲板に搭載し、こちらは大型デリックで泛水する。さらに戦闘機・偵察爆撃機を最大12機も上部構造物内に格納しており、カタパルトから発進させることができた。他にも7センチ単装高射砲6基、20ミリ単装高射砲4基、7.5センチ野砲1基、爆雷、水中聴音機なども装備していた。


 このような装備(大発に八九式中戦車、自動貨車等搭載可能)や兵員(標準収容兵員1200名、最大2000名)を上陸用舟艇で迅速に進出させられる揚陸艦は、この当時他国では、ようやく別種の艦からの改造により就役させ始めた段階で日本に一日の長があった。我々はこれをさらに大型化・機能強化し特五式中戦車や統星を搭載・運用できる艦を多数揃えたいと思う……さて、誰に話しをすればいいかな? そう考えていると石原参謀総長から『相談したい件があるので三宅坂まで来られたし』との伝言が伝えられてきた。史実では一年前に市ヶ谷台に移転しているが、日華事変の起こっていないこの世界では陸軍省と陸軍参謀本部はまだ三宅坂に置かれている……つまり参謀本部まで会いに来いということだ。


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


「早速だが、君は陸軍船舶司令部を知っているか?」

執務室で開口一番、石原参謀総長はそう言った。

「詳しくは存じないですが、陸軍の艦艇を一括して運用する部隊かと」

元々は台湾陸軍補給廠が他の在外駐在部隊へ軍需品などの補給管理業務を統合し、宇品に本部を置いた陸軍運輸部となり、その後大陸との輸送力強化のために運輸部長が第一船舶輸送司令官を兼務し、さらに船舶司令部へ改編されたという概略を説明され

「少し前、田尻昌次という男が運輸部長兼第一船舶輸送司令官だったのだが、不審火騒ぎで罷免された。次に後を付いだ上月中将も半年余りで佐伯少将に代わった」

随分頻繁に司令官が代わっているな……っていうか不審火くらいで代えられるか?

オレの表情を読んだのか石原さんが言葉を足してくれた。


「田尻中将の罷免には参謀本部が裏で画策したらしいとう話がある。しかし彼をすげ替えたくらいでは組織を思い通りに動かせなかったようだ……何しろ『暁部隊』と呼ばれて他の陸軍部隊とはずいぶん気風が違う部隊らしい。参謀本部では今の船舶司令部を解体し別の要員で編成し直そうとしている。だが私の見たところ、今の組織は優秀で与えられた職責を十二分に果たしている……組織の軋轢で潰してしまうには忍びない」

そういう事か……つまり山本長官が艦隊編成の話の際、『燻ぶらせたくないから海軍内の空軍派の人間を連れて行け』と言っていたのと同じだ。優秀な人間を組織のせいで潰したくない……確かに旧軍の悪弊のひとつではある。そんなことをやっている余裕なんて無いのにな。


「お考えはわかりました……ただ、実際にどうするかは一度、その人達に会ってからにしたいと思います。陸軍参謀本部に睨まれても手に入れる価値があるのか、この目で確認させていただきたいと存じます」

オレがそう答えると、石原さんもそのつもりだったのか大きく頷き『実際にあってみるといい。特に田尻昌次という男にはな』

と言った……あれ、現在の司令官の佐伯少将でなく2代前の田尻中将……退役したから田尻昌次氏にか? 石原さんの言葉が少し気になって、未来知識でこの人のことを調べてみた。


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


 旧軍には兵站を軽んじる気質があって、参謀本部もきっと船舶司令部に『お前らは黙って輸送だけやってればいいんだ』という考えで命令したいんだろう……一方の田尻氏は舟艇自体の開発や運用する船舶工兵の育成、船舶輸送体制という組織も含めて考え自ら先頭に立って近代化を進め、『船舶の神』と呼ばれるほどの人だったらしい。


 現在の体制では戦時には民間の船舶を船員ごと徴用し、軍の輸送任務に就かせる。しかし、そんな状態ではたちまち民間の輸送は滞り国力が押し下げられてしまう……軍需と民需のバランスを取り、最大の効率を求めるのは総力戦には欠かせない考えだ。しかし残念ながらそれを理解できるのは、この時代ごく一部の人間で大多数は軍需優先しか考えていない……そんな考えができる田尻氏と参謀本部が対立するのは明らかだった。そして彼は厚生省や大蔵省、鉄道省など船舶輸送に関係する政府各部と参謀本部及び陸軍省に宛てた「民間ノ船腹不足緩和ニ関スル意見具申」という具申書を出した……意見具申となっているが、内容は軍中枢に宛てた建白書のようなものだったらしい。


「これか……」

オレは得心がいった。つまりは軍の民間船徴用に対して異を唱えたのが戦争遂行への妨害行為と取られて罷免工作を行われたのだろう。本題の民間船徴用についてでなく不審火という別件で罷免するところに参謀本部のずる賢さを感じる……本題で突っ込めば反論され徴用方法を変えることになるかもしれないからだ。


さらにSS艇という20トン級の中戦車4両とトラック1両、兵員170名、弾薬・糧食3週間分を積み込める特大汽艇の開発を進めた(残念ながら開発完了前に氏は罷免された)という話に至って、オレはこの人をぜひとも、機動打撃軍(正確には、その兵站部隊)に欲しいと思った。この人ならオレのあやふやな構想をしっかりとしたものとして実現してくれる……ちなみに史実では、このSS艇を陸戦部隊と合わせて運用する海上機動旅団(・・・・・・)という上陸作戦専門部隊も計画されていた。これってまさしく機動打撃軍(ただし規模限定版)ではないか。



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