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第108話 戦略爆撃機に至る道

 さて、艦載機(小型機)統星(すばる)で行くとして、戦略爆撃機(大型機)はどうするかな。本当なら、深山の改良版から始めるのが近道だろうけど……


 深山は既に作られていたが、参考にした機体(DC4E)が実験機だったためか油圧系のトラブルや複雑な機体構造による重量過多、その結果の運動性の悪さなどから『馬鹿鳥』などというあだ名を付けられてしまい、失敗機の烙印を押されてしまう。しかしオレは深山は設計が悪いのではなく、基本的に日本の技術力が足りていないせいだと思っている。史実では、この経験を踏まえて連山を作るわけだが、それには鹵獲したB17の存在が大きい。しかしこの世界では、日本はまだアメリカと開戦していないので、B17を鹵獲するなどということは当分ありえない。

 という事で(何がという事なのかよく分からないが)、深山の改良はもう一度(DC4Eではなく)DC4をベースにやってもらいたいという話を持ち掛けようと思う……誰にかと言えば中島飛行機の総帥、中島知久平(なかじま ちくへい)氏にだ……現在は内閣の鉄道大臣なので久永殿下を通して話をつけてもらう。


「これはこれは、久永殿下。いや、企画院副総裁と呼ぶべきですかな。殿下の資源外交の手腕には常々感服しておりますぞ……それで今日はどんなご用件で?」

中島鉄道相はたいそう機嫌良く我々を出迎えてくれた。

「政友会の雄である貴方に、そう言って頂けるのはうれしい限りです……本日は企画院ではなく国家戦略諮問会議の仕事で参りました。鉄道相の中島殿でなく中島飛行機総帥の中島知久平殿に、種子島少将を紹介したいと思いまして」

殿下はそう言ってオレを促した。


「海軍、戦略兵器開発計画部長の種子島と申します。どうぞ宜しくお願い致します」

オレが挨拶すると中島氏は黙って礼を返した。

「陸軍の私が、元海軍の中島殿に同じく海軍の種子島殿を紹介するのもおかしな話ですが、彼には色々助けてもらっているので是非話を聞いてやって頂きたい……」

久永殿下が言葉を重ねて雰囲気を和らげようとするが中島氏の表情は思いの外、硬い。

なぜだろう……何か嫌われるような事をやっただろうか。まさかスバルの名前をパクったのがまずかったのか、とか考えていると

「君は反大型爆撃機論者だと聞いているのだが」と言われた……ああ、それか。確かにオレは、ついこの間まで大型爆撃機を日本で作るのは否定的だったからな……なんて答えようか。大型奮進弾(ICBM)は核爆弾がないと今一だとか話すと絶対ややこしい話になるよな……単純に宗旨替えした事にしてお茶を濁すか。そう考えて、素直に謝って済まそうとした……それがさらに中島氏を怒らせることになるとは知らずに。


「以前は自分の不明の致すところで軽率な発言をしましたが、現在は大型爆撃機の有用性に気づきました。これからは微力ながら大型爆撃機の発展に尽くしていきたいと考えますのでご助力ください」

と下手に出てみたが

「儂を馬鹿にしているのか」

と言われてしまった……あれ、不味ったか?

「そんな不定見にコロコロ意見を変える奴のことなど信じられるか! いかに久永殿下のご紹介でも儂は自分の信じられる男でないと共に仕事をする気にはなれません。お引き取り頂こう」

「ちょっと待ってください、詳しい話しを」

オレが焦って言い訳をしようとするが、久永殿下は何も言わずオレを退出させ中島氏と話を続けた。


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


 オレは仕方なく、ドアの外で腕組みしながら壁にもたれかかっている。何かあっても久永殿下がいるから何とかなると思っていたが、甘かったようだ……しかし、どうすっかなぁ。中島氏にあそこまで嫌われると今後の進め方に支障が出るかもしれない。はぁ……最近、大体うまく事が進められていたんでショックがでかいなあ。


 そんなことを考えていると、久永殿下が部屋から出てきた。オレはすぐに謝ろうと走り寄るが殿下に手で制され

「代替プランにしましょう……大丈夫。順番が多少変わるだけです」

と言われて、そのまま帰ることになった。


 代替プラン……映画によくあるプランB(バックアップ)というヤツだ。大体、大したものでないこと多いが、今回の場合は割とちゃんとしている。つまり、中島が駄目なら三菱があるさ、という事だ……訂正。やっぱロクでもないプランだ……はぁ(溜息)。



後日、オレは三菱内燃機関株式会社、名古屋航空機製作所を訪ねた。今回はオレ一人だ。

「一式陸上攻撃機の改良版ですか?」

三菱の本庄季郎技師を訪ね、オレは、こう切り出した。

「一式陸攻は広胴化により空力を悪化させることなく航続距離を伸ばした素晴らしい設計であると思います。しかしエンジンの性能不足で防弾鋼板や燃料タンクの水密化などを諦めたのは残念でなりません……私は是非、本来の一式陸攻を発展させた機体を作ってもらいたいのです」

オレの言葉に居合わせた技師たちは若干引き気味だ……航空機会社にやってくる軍人なんて大体、偉そうに口をきくヤツばかりだろうから無理もない。しかし本庄技師の上司の服部技術課長は疑問を感じているようだった。

「問題点の改善を行えるのは願ったりですが、そんな都合のいい発動機があるんですか?」

そんなに良いものがあるなら天下の三菱が知らないはずがないと言いたげだ。先の一式陸攻の計画では、頼みの火星エンジンが出力不足で苦労させられたから当然かもしれないが。


「まだ軍機扱いだから関係者以外は知られていないが、非常に効率よくかつ出力も大きい新型タービンエンジンがあるのです……この大きさのものはまだですが、もっと小型のものはすでに実用化され実戦にも投入されています」

オレは自信たっぷりに説明した。現物を見たことがないと、なかなか信用できないだろうけど。


「それは、ドイツに貸し出されたという単発攻撃機で使われたエンジンですか?」

突然、身を乗り出すように質問してきた男がいた……後から聞いた話によると、深尾淳二というA8エンジン(後の金星)をわずか4ヶ月で作ったという伝説的人物だそうだ。これは思わぬ大物が釣れたな……オレは微笑みながら『それは開発が決まったら答えしましょう』と伝えた。


「ぜひ、やらせてください。というか、そのタービンエンジンの方も三菱(われわれ)にやらせてもらうわけにはいきませんか?」

とすごい意気込みだ。まあ技術者は新しいものには貪欲だ……特に航空技師なんて最たるものだからな。


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


「つまりジェットエンジンというのはレシプロエンジンの燃焼サイクルを横に並べて同時並行で行っているようなものです……レシプロならば適度な冷却期間がある結果、シリンダブロックは数百℃程度の加熱で済みますが、常に爆発に晒されているジェットエンジンの燃焼室は千℃を越え、1500℃程もなるので通常の金属では耐えられません。ドイツのハンス氏は燃料を冷却剤代わりに用いることにより900℃程度に抑える手法を開発しました。一方イギリスでは様々な金属材料を使用して高温に耐えられる材料を模索中です……しかし我々は金属以外の材料を用いることにより、この問題に対処しています」


 後日、正式な計画が開始されるとオレは新型タービンエンジン(なんてまどろっこしい名前は止めて、ジェットエンジンであると伝えたが)の原理と、さらにターボファンジェットの利点、特に高バイパス比にすればレシプロを超える燃料効率を達成できることを説明した(主に深尾氏のために)。一方で大型化によりタービンブレードの強度が今までより必要になるがそれについては、これから研究を進めなければならないことを伝えた。


 他にも、新型一式陸攻の目指すところを説明し、目標となる要求仕様を伝えた。曰く、

「本機は既存の一式陸攻より長距離、高速、積載荷重の大型化を目的として、併せて防弾性能を向上させ交戦時の生存性を高めた機体とする」

「全長、全幅は既存一式陸攻のほぼ1.5倍。エンジン出力は火星の2倍以上を想定し、航続距離は偵察時で10000km、爆撃時で3000km、巡航飛行速度は600km/h。最大飛行速度で950km/hとする。乗員は7名、爆装は60kg爆弾32発または500kg爆弾5発、雷装の場合は800kg魚雷3発可能。武装として12.7mm旋回機銃3挺(前方・側方)、20mm旋回機銃1挺(尾部)、誘導奮進弾「雷鎚」発射装置(上部)を搭載」

この話を聞いても、まだエンジンの開発に参加したいかと深尾氏に聞いたところ『当然でしょう』と言ってきたので、とりあえず横須賀のジェット推進研究所に連れてきて、永野に引き合わせておいた……実際の開発は九州とかあっちこっち飛び回ってもらうことになるけど。


 航続距離が他に比べて、やたら強化されているのは本機を欧州との連絡用途に想定しているからだ……日本から英国またはドイツに向かうのに日本占領下の東シベリア上空から、北極海をかすめ、スウェーデンまたはフィンランド上空を経由してほぼ9000km内外。本当ならこの用途はDC4ベースの新型深山を使いたかったのだが……さすがにこの距離を飛ぶためには燃料が7トンほど必要になり偵察仕様(爆装、雷装はなし)となる。それでも奮進弾を装備しているのは強みだ……前線視察中の司令官機が敵戦闘機に見つかっても、そう簡単に撃墜されるなどという悲劇は起こらないはずだ。



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[気になる点] ターボファンまで一気に開発するんか。 ターボプロップ飛び越えて。
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