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第107話 STOVL機「統星」と誘導噴進弾「雷鎚」

「えーっ、今更VTOLをやめるんですか?」

「いや、やめるとは言っていないが……すぐに実用化できそうなのかという話だ」

オレがジェット版鶚の研究開発チームで方針変更の打診を行うと、いきなり反発された。

何しろ垂直離着陸は難しい。まず最初は直立型飛行機(テイル・シッター方式)が考えられた。ドイツでは、あのトリープフリューゲル、アメリカではXFY、XFV、そしてフランスではC450が試されたが実用には至らなかった。1960年になりイギリスが推力偏向式のペガサス・エンジンによりハリアーを実用化したが、これはかなり危険な機体で墜落などのクラスA事故が10万時間あたり39件と高い事故率となっており、11年間の運用期間中に全導入機の半数が失われた。


 1971年にはソビエトがYak38を開発運用したが、この機体はハリアーとは違い推進とは別に離昇用のリフトエンジンを2つ持つ。つまり合計で三基のジェットエンジンを搭載しているという事だ……リフトエンジンは通常飛行時には使われないのでデッドウェイトとなり燃料や兵装の搭載が厳しくペイロードは750kg、航続距離185kmであった(その後、改良により2トン搭載して400kmまたは1トンで600kmに改善された)。しかし実戦向きではなくNATOにはフォージャー(まがい物)とのコードネームをつけられ、実戦参加したアフガニスタン侵攻では赤道直下の空母ミンスクから発艦しようとしたところ高温による出力低下で離陸できない事態となった(その後、艦上で追加変更して離陸した)他にもレーダーやFCS(火器管制システム)が無いなど無理やりでっち上げたような機体だった。


 1985年になるとアメリカ(・・・・)がハリアーⅡを開発し、複合素材の導入や大幅な設計の改良により、ようやく実用的なVTOL機が完成した。クラスA事故も10万時間あたり6.76件となり30年間の運用で損失した機体は39%だった(それでもアメリカの軍用機のクラスA事故数のワースト2だ)。さらにV22(オスプレイ)は運用期間が短いとはいえクラスA事故は1.93でヘリコプターより余程安全と言われている。


「垂直上昇から水平飛行に移るのに噴射方向が変わるなんて今まで無かったですからね。操縦が大変なのは仕方ないですよ」

開発チームの技師長は渋々、難しい理由を認めたがオレは別の部分に気が付いた。

「ちょっと待て、それって操縦手が手動で噴射方向の変更をやっているってことか?」

技師長はオレの言っていることが理解できないのか、きょとんとした顔で

「ええ、当然でしょう……姿勢が不安定になる前兆を計器から読み取れればいいんですが、現状は操縦者の勘に頼るしかないのが辛いところで……」

たしかオレはコンピューターを使えって言ったはずだか……あれ、それは神威の話か? ってことはジェット鶚のチームには言ってない……そういえば鶚って遣欧艦隊からの戦訓から開発が始まったんでオレはあまり意見は言ってないんだった。


「遷移中の機体姿勢維持の支援の為に制御コンピュータを使用するように。具体的には外部の気流の変化を検知しながら、機体姿勢を維持するよう噴射量と方向を三軸に渡って負帰還制御(フィードバック)するよう設計する。もちろんコンピューター制御中でも操縦士の操作は行えるようにする」

他にも三軸制御を容易にするために機体尾部に3つ目のエンジンを追加。エンジン自体の向きを変えるのではなく噴射制御板による偏向方式にすること。オレは必要な項目を列挙しながら設計変更を命令した。しかし、エンジン追加による燃料増加のため機体後部の設計変更等々と短期間ではとても無理だろうな……どうしたら予定を遅らせないようにできるのか頭の痛い問題だ。


 だが設計チームがもっと強く抵抗したのは、新型の中心課題であった垂直離陸を諦め、短距離離陸/垂直着陸とするSTOVL化だった。せっかくのオモチャを取り上げられた子供のように、何度も何度も再考を上申され、その度に最大積載状態で、最も燃料消費の激しい垂直機動の愚を説き(実際ハリアーⅡ以後では普通は滑走して離陸する)、これを諦めることによってどれ程、開発期間が短縮できるかを(これは物理機構より制御コンピューターのソフトが数十パーセント簡略化できるというのが大きい)言を尽くして説明したが、チームの共通目標として一度打ち立てられたものを取り下げさせるのは難しいという事を実感させられた。


 何度も激論になった挙句、最終的な決着点としてソフト変更でVTOL化できる機体を開発期間を延長することなく完成させることができれば、配備後の改修で全機VTOL化するという約束で開発部隊と勝負することになった……意地の張り合いという子供の喧嘩みたいな結果に見えるが、実はオレとしては表面上渋い顔をしながら内心、湧き上がる笑みを押さえるのに苦労している状態だった。なにしろ修正内容を期間延長なくやり遂げさせるという難題を(開発チームの頭に血がのぼった為に)彼ら自身の意地でやり遂げる気になったし、絶対足りていなかったソフトウェア開発期間を大きく短縮できる(コンピューター関係の最終責任者はオレなので、これはオレが解決しなければならないことだが、最初は離陸時の垂直から水平飛行への遷移の姿勢制御はしなくてもよくなり、配備後の改修までに不足部分を作り込めばいいという)条件で済ますことができた。オレとしては(喧嘩腰のやり取りと不服そうな表情をしただけで)何も譲歩せず100%要求を飲ませたのと同じことになった……山本司令辺りに結果を話せば『貴様、ずいぶん腹黒くなったなあ』くらいのことは言われそうだ。


 ジェット鶚開発チームを騙した(?)埋め合わせに、装備する誘導噴進弾については頑張って良いものを使えるようにしたいと思う……今、震星が装備している噴進誘導弾の天狼は集合発射筒(ミサイルポッド)に収めるために小型で飛翔距離も長くはない。これは震星が高速な機体の為、敵機に十分近接して撃てる為だが、鶚は高速でない(ジェット化されれば前よりはマシになると思うが)ので噴進弾が長距離飛んで命中(あるいは近傍で爆裂して被害を与えられる)する方が良いだろう。


「なあ、糸川っち。どう思う?」

オレは久しぶりに糸川技師長(彼は既に噴進弾開発のバリバリの第一人者だ。まだ30になったばかりだけど)の所に話をしに来ている。

「長距離飛翔させるためには、全長を長くする必要がありますね……それと多用途(マルチロール)機に搭載することを考えると、やはり天狼の改良ではなく別の種類の噴進弾を作るのが良いと思います」

「……それは、どれくらいで開発できるかな」

「そりゃあ、何とも言えませんが数年は掛かるんじゃないですか」

やっぱりそうだよな。でもせっかく開発期間を延ばさずに機体ができるんだから、それに載せる武器が間に合わないでは許されない。

「……半年で」

「ムチャ言わないでくださいよ! それじゃあ外側だけ変えて中身は今のを詰め込むくらいしかできないですよ」


「……それもいいかもな」

「何ですかそりゃ? そんなんじゃ作る意味ないじゃないですか!」

糸川っちは食って掛かってくるが、結局ソフトの話と同じで必要なところ(機体に搭載するための規格)だけ先に決めて、内容は後から改良するのでいいんじゃないかな……そう説明すると彼は怒りを収めて(単に呆れられただけかもしれないが)開発計画を考えてくれるようになった。


「普通は主翼下のハードポイントに装備するんですけどね」

鶚は機体構造上の制約でハードポイントを付けられない……なので胴体脇の補助フロート部に装備することになる。但しフロート自体の浮力を失わないため上側の10cm程度の所に埋め込む形にして片側6発、合計12発分円筒型の収納筒を設ける。一応、冠水しないように蓋をつけるが、誘導弾発射時には開くようにする(各筒ごとに作ると大変なので横長の蓋になっている……なんか機体下部に張り出した補助翼の前縁フラップみたいだ。


「自動追尾だけでなく遠隔誘導も可能にしませんか?」

何日か後、糸川っちはオレにそう言ってきた。噴進弾の能力的に退化している気もするが説明を聞くと確かにそちらの方がよさそうだ。曰く、

「今より長距離飛翔して炸薬量も増え、対空だけでなく対艦や対戦車にも使うことを考えると、ある程度の距離をコントロールしながら飛ぶことが必要だと思うんですよ。もちろん最終誘導は赤外線や磁気検知でしょうが……」

そうだな、実際対戦車ミサイルなどは遠隔誘導が多いし、上手くすれば障害物を避けて攻撃できるようになるかもしれない。

「そうだな。だが、新機能を追加するほど余裕はあるのか?」

オレは新仕様には賛成しながらも心配を口にする。

「物理的に大きくなるので遠隔誘導装置を入れるのは問題ないはずです……機能がちゃんと動作するようになるのは時間がかかるでしょうが、後から改良していけばいいんですよね?」

オレは苦笑しながら、すっかり糸川っちにこの進め方(ソフトウェア開発手法で言うところのラピッド開発だろうか)のお株を奪われてしまったなと思った。


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


 例によって新兵器の命名に悩む……新型誘導弾は雷鎚(イカヅチ)と名付けたが、ジェット版鶚はどうするかな。鶚改(うおたかかい)はどうもゴロが悪いしレシプロ版の鶚と随分変わってしまったので別の名前がいいように思う……いろいろ悩んだ挙句、「すばる」という名を思いついたが、これって中島飛行機の後継会社が作った車のイメージが……まあ、未来から来た人間でなければそんなイメージはないんだろうけど。結局「昴」という字は使わずに統星と書いて「すばる」と読ませることにした……だんだん後の世のキラキラネームみたいになってきた(涙)



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 細かい所ですが >空母ミンスクから離陸しようとしたところ は離陸ではなく発艦とかのが良いかなと
[一言] ラピッド開発というよりクック・クレイギー・プランかな?
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