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第104話 機動打撃軍構想、その2

 それからしばらくオレは他の事は置いておいて、空軍と将来の陸軍について考えを巡らせていた。


「(柴少佐の言うように機動軍を持つことは、機甲師団や機械化部隊での縦深戦術をとる近代戦には不可欠な要素だ。これに打ち勝つためには第二次大戦後のアメリカのように強大な航空戦力による地上軍の殲滅を行う以外にない。つまりは空軍主兵論だ……しかし今の日本の陸海軍をすべて一足飛びに近代戦用に変えてしまうというのは無理がある)」


……『新しい酒は新しい革袋に』ってか。

オレは夕焼けというより、すでに宵闇に変わりかけた稜線を眺めながら考えていた。

「(別に全部を新しくしなければいけない訳ではない。機動戦を行う部隊から始めて、後は時代の趨勢に合わせていけば……いっそのこと鉄機兵を上陸作戦に使うための神州丸のような揚陸艦も用意したいな。これって海兵隊か? いや、もっと汎用的な別のものがいいな……機動戦部隊的なもの……縦深攻撃をメインにした地上機動部隊、兵站維持軍、航空兵力、上陸支援艦隊をセットにした近代戦用の戦力にすれば……)」

今の戦いには無理でも、これから先の戦い……特に対米戦では必要な戦力かもしれない。これは、なかなかいいアイデアじゃないだろうか。


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


「これからの地上戦は、ドイツの電撃作戦をもっと洗練させた縦深攻撃を中心にしたやり方に変わっていきます。当然のことながらこれには機械化地上軍と航空支援戦力の組み合わせが不可欠です……日本の場合は四方が海に囲まれているため、さらに必要な場所に戦力を投入するために艦船が必要になります。日本には単なる空軍ではなく、この様な有効な戦力を一纏めにした新しい軍形態が必要だと考えます。もちろん戦いは進撃戦だけではなく占領地の維持や輸送航路の安全の確保など従来の兵力も必要ですから、これらは今までの海軍、陸軍の戦力で行います」

オレは一気に捲し立てると目の前の山本長官の顔を見た。


「これは、ずいぶんと大風呂敷を広げたな。空軍だけでなく陸軍も含めた新しい軍か……だが貴様は陸さんともいろいろ企んでいそうだな……やれる算段がついているならそれもいいか」

やっぱりオレが裏で陸軍関係と動いているのは察しが付いているようだ……それなら、やや強引だが先に進むのに協力してもらおう。

「では、海軍の上層部への根回しは長官におまかせしますので」

と言って一礼して長官室を辞そうとすると


「待て、海軍をオレに任せて貴様はどうするつもりだ」

と呼び止められた……海軍の根回しを全部任せてくるとは思っていなかったようだ。

「陸と政府への根回しに行ってまいります」

オレが当然でしょというふうに答えると、長官はしばらく考えた後こう言った。

「海軍から活きのいい空軍派を幾人か連れて行け。このまま海軍で燻ぶらせておくのも忍びない」

そうか、元々その辺りのことから空軍設立という話になったということか……だが、長官にも協力する理由があるならオレとしては願ったりだ。

「……了解しました。準備ができたら、また伺います」

オレはそう言って山本長官の部屋を後にした。


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


「それで君は新しい軍で何をしようというのだ?」

オレは陸軍の石原総参謀長に面会し新しい軍の構想について意見を求めた。陸軍については先に石原さんと柴少佐の考えた内容と、そう遠くはないので同意してもらえると思っていたが、思わぬ質問を受けた。

「残念ながら世界列強は今の日本を取り巻く状況をそのまま受け入れ続けるとは思えません。石原閣下のおっしゃるように、いずれは二大強国あるいは陣営に分かれた最終戦争が起こるのは必定……実際に戦争が起こらなくともそれに対応できる力を持つことが軍人あるいは国を守るものの責務と考えます」

「俺が聞きたいのはそんな分かりきった事ではない。ソビエトとどう決着をつけるのか、その先のアメリカとの戦い。そしてその為に、この新しい軍をどう使うつもりなのかという事だ」


 そりゃそうか……最終戦争論の元祖である石原さんに、こんな話をしたって釈迦に説法だな。じゃあ、何を話そうか? …………そう言えば石原さんにはオレたちの目的を腹を割って話したことがなかったな。まあ華子さんが説明はしていると思うけど、こういうのはオレの口から言うことに意味があるだろうし。

「私はアメリカとの戦いで日本が負けないようにすることを条件に、命を助けられこうして生きています。それにより未来で起こることについて多少詳しく知っています……勿論知っているからと言って何でもできるわけではありませんが」

オレは微妙にぼかしてオレの秘密を石原さんに打ち明けた……多分、華子さんとの関係からオレを助けた存在については勝手に思い当たってくれるだろう。そして多少無理してもオレたちに協力してくれると、なって欲しいんだけど……。


「日本がソビエトに勝利するためには実際の戦闘もさることながら、その強大な生産力を削ぐ必要があります……そのためにはドイツ、イギリスの欧州戦線と協力してソ連が国力を分散せざるを得ない状況を維持し、さらにウクライナやバクー油田といった戦略的価値のある地域を叩ける戦力が必要になります。これが今回、企図した新戦力の目的であります」

何とか新戦力の目的に繋げた説明の話ができてオレが一安心していると、


「……そうか。だが、そのような戦いは簡単に行えるものではないだろう。遠く離れ狡猾な駆け引きを常とするドイツやイギリスより、アジアに日本と心を合わせて戦う大国を育てるべきだと思わんか?」

と言い始めた。これは五族協和の王道楽土を打ち立てよという話だろうか……悪くはないが多分うまく行かない。

「それも良い考えですが、10年、20年では足りますまい……目の前の戦争にすぐ使える力が今、必要なのです」

それに、狡猾さにかけては中国民族のほうが日本の一枚も二枚もうわてだろう……まだ、一度条約を結べばそれを堅守するイギリス人のほうが信用に足る。まあ彼等の場合、あの手この手を使って不平等な条件を飲ませる悪辣さがあるが。


「うむ……貴官の憂慮ももっともだ。朋友が育つまで世界情勢は待ってくれないだろう……わかった。不肖、石原莞爾その考えに協力させてもらおう」

ようやく、オレは石原参謀総長から諾の言質を得て、新しい軍の詳細について説明を行い、第一歩として陸軍内でこの考えに賛同する仲間を増やすための活動を行ってもらえる要請した。


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


「……陸軍の師団編成を変えるのではなく、新しい軍自体を作るんですか」

石原さんとの話が終わった後、彼の元に引き抜かれて今回の件を進める実働担当となる柴少佐に新しい構想を説明した。

「ああ、これからの戦いは陸軍だけでするものじゃない。空軍も必要だし海軍とも一つの作戦の元、戦うことが必要になる。少佐の考えたものより、さらにひと回り、ふた回り大きな仕掛けが必要だ」


オレが用意した新しい軍(機動打撃軍という仮称が付けてある)の構想の叩き台の資料を見せながらオレが言う。しかし、少佐はオレの言葉など上の空で資料に食い入るように目を通している……普通、上官の話は注視して聞くだろう。前も思ったけど、コイツ、結構失礼だよな……そう思いながらも、オレは石原さんに教えられた柴少佐の来歴を思い出した。


『アイツは頭が良すぎるんだ。もともと帝大で経済学と社会学の博士号を取って欧州の大学で研究を続けていたんだが欧州大戦(注:第一次世界大戦の事)で世界情勢がきな臭くなった際、学問は実践で使わなければ意味がないと考えて突然、軍に志願してきたらしい』

『で、その時の担当者が扱いに困った結果、経済学者なら兵站くらいわかるだろうと兵站担当参謀にしたらしいが……周りの常識と違いすぎてな。いや本人はちゃんとやっているつもりらしいが……だが間違いは言わないので更に扱いに困る。今回の報告書も現場では判断できなくて参謀本部まで送られてきて……俺が関わる羽目になった』

学者上がりか……まあ学問だけでは駄目だと思い、軍に志願した志は認めてやるべきかもしれないか。いつも新兵器の協力を頼んでいる民間の研究者達のことを思えば許せる範囲か……だが一緒に働くからには上下関係を教えてやろう。オレは柴少佐を見ながら悪巧みを考えていた。


……まだ終わりませんでした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 前々から石原莞爾はかなり強い儒家だと思って居ました 儒家つまり学歴偏重主義者は皆支那は日本に追い付くと 感違いした事です、先進国に成るには学問より 其れを支える文化の方が大事と言う事です、 …
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