第103話 機動打撃軍構想、その1
神威の改良と情報処理産業の立ち上げにようやく目鼻がついた頃、ひとりの男がオレを訪問してきた。
「第3軍第1兵站師団参謀、柴少佐?」
「貴方が種子島少将ですか。思っていたより随分とお若いのですね、そして聡明そうだ」
会うなり突然見た目への論評をされた……よく言えばフランクで軍人らしくない、悪く言えば軍隊という組織に性根を叩き直されていない感じで正直、不愉快だった。
「それで、オレに何の用だ?」
「失礼しました。種子島少将は鉄機兵や震星、鶚など多数の新兵器を考案された天才と伺っております。我ら第1兵站師団ではモンゴル戦でそれらを利用して新たな機動戦略を考案しました……私はそれを更に改良した運用法を提案したのです」
これは聞いたことがある。今回の大陸での作戦で兵站部隊を強化独立させて、補給基地を迅速に設置して蒙古電撃作戦を成功に導いたとか、補給基地に直掩航空部隊基地を併設して補給基地の防空と不足しがちな前線の航空即応戦力化にするのに成功したという話だ。
「ああ、その話は聞いたことがある。なるほど良いやり方だと思うが、それは陸軍内でそのまま運用を進めていけばいい話だろう」
「はっ、私も作戦部に報告書を上げたところ、詳しく説明せよと内地の参謀本部に呼びつけられまして、最終的に参謀総長が種子島殿に話してみろと」
「むっ、石原さんが、そう言ったのか?」
「はい」
……石原さんがこちらに話を振ってきたということは、簡単に軍の運用の話で片付ける話ではないということか……しかし何を考えてだ?
「……わかった。とにかく話を聞こう」
そう言ってオレは外の副官に、話が終わるまで誰も入れるなと告げて詳しい話を聞くことになった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「すると、柴少佐は兵站を中心にした機動軍を編成して攻撃部隊の主力にしろと言うのか?」
「いえ、兵站が中心とは言っていません。兵站基地に鉄機兵と特四式戦車、鶚攻撃機をひと組みにして運用するようにしていくべきと言っているのです」
……言おうとすることは何となく分かる。結局ドイツの機甲師団にしろ上手く運用できているのは航空支援があり潤沢な燃料と弾薬がある場合だ。それに戦車は侵攻力としては強力だが警備偵察にはあまり向かない。この点を鉄機兵で補えば第2軍の拠点防御のように効率的に運用できるという考えだろう……だが正直、対ソ戦以外であまり役に立つようには思えない。
「で、参謀本部は何と言っていた?」
「従来の作戦と相容れないので師団編成を変えるつもりはない、と……他にも我軍はそんな潤沢な物資を用意できる戦いばかりではないとも」
……なるほど、今の日本陸軍は基本的に砲と歩兵で敵陣地を攻略し、逆に要塞や塹壕で阻止線を構築して自陣を突破されないようにする戦闘思想だからな。それに常に潤沢な補給物資を用意できるというのも日本軍では考えられないだろうし。
「しかし考えてみてください。今後列強は益々力をつけ、やがて勝ち残った国同士の最終戦争に突入する可能性が高まっています。今までの陣地主義の戦闘では敵に遅れを取らざるを得ません……これからは機動兵器を主体とした速戦即決な戦闘ができなければ勝利を得ることは難しくなります」
これについては正解だな。特に新兵器により攻撃力が飛躍的に高まるこれからの世界では、いかに敵の戦力を先に叩けるかが重要になってくる……なるほど。この辺りが石原さんがオレのところにこの男を送ってきた理由か。石原さんは世界最終戦論者だから基本的に、この男の考えに異は唱えないだろうし。
つまり、これからの戦争に勝つためには機動戦用の部隊が別途必要になると……そしてそれはオレが関係している新兵器が主力として使われる兵種になる。だから、オレを焚き付けて、何とかさせろっていうことか……石原さん、そんな無茶を言ってもらっては困りますよ。
オレはひとまず話はわかった。検討して後でオレの考えを伝えると言って、柴少佐を帰らせた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
柴少佐を返した後に、石原総参謀長からフォローが来ていた。
「あの男の考えはなかなか面白いので聞いてみてくれ。それと貴官もここらで日本陸軍の為、ひと肌脱いで頂きたい」だと。正直、陸軍の面倒は石原閣下が何とかするべきでしょうと言い返したいところだが……そんなことを考えていると今度は山本司令長官から呼び出しがかかった。
「ご無沙汰しています、山本司令長官」
「ああ、貴様も欧州で派手に動き回って来たようだな」
……これはドイツやイギリスで纏めてきた新兵器開発に関する協力関係の構築の件かな、それともドイツに震星を供与した事とかイギリスに鉄機兵をレンドリースした件の事か?
「そろそろ貴様も日本海軍の為に、ひと働きしてもいい頃ではないか?」
えっ、なんかその言い方は最近別の人からも言われたような……てかオレって結構ガンバってると思うんだけど、海軍の為に働いてるって認識されてないんだろうか?
「……それは、どの様な?」
オレは恐る恐る山本長官に何を考えているのか聞いてみる。
「貴様、空軍独立論についてどう思う?」
オレは元の世界の状況を思い浮かべながら答えた。
「……将来的には主要各国はもれなく空軍を持つようになります」
「では貴様も空軍独立論に賛成ということか」
これは、どう答えたらいいのか……今後、空軍が必要かどうかという話では間違いなく必要という結論になるとは思うが、今すぐ海軍と陸軍の航空部隊を集めて空軍を作るべきかと言われると疑問符がつく……特に日本の場合は。
オレが返事に窮していると山本長官は、これ以上の意見はないと思ったのか、
「ならば貴様が空軍の設立を建白しろ。今の陸海軍に染まってしまった人間では、なかなか言い出し難いが貴様のような利害関係に縛られておらず、うまい具合に海にも陸にも顔の効き、さらに政府にもコネを持つ人間ならば上手くいくかもしれん」
長官はオレに空軍を作らせたいのか?! まさかそんな話とは。
「や、山本長官は空軍設立に賛成なのですか?!」
オレが思わず聞き返すと、
「……正直、俺にはわからん。これでも他の石頭共より先を見る目があると自負していたが、貴様の作る新兵器を見ていると、この先どうなるか思いもつかん……特に思わぬところから金や新しいモノを捻り出されるとお手上げだ」
これはシベリアの鉱山とか鉄機兵の話か……苦笑いしながら軽く手を上げて戯けている長官を見ながら色々考えていると、急にシリアスな顔をして、
「貴様は以前『上に立つ人間ならば簡単に諦めるな、泥臭くても無様でも負けない努力をしろ』と言っていたな……なるほど、その通りだと思う。武士ならば潔く死ねなどというのは良い格好しいの大馬鹿野郎だとわかった……今となってはな」
そう言って窓の外を見る長官の顔はやけにスッキリとしていた。
「だが俺も言ったはずだ。『戦うのは俺だけではない、貴様にも引き受けてもらう』と。忘れたとは言わせんぞ」
窓の外からオレの方に目線を戻してニッと笑った長官の顔は、悪巧みをする男のカッコよさが溢れていた。
長くなりすぎたので途中で分けます……すみません。




