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第101話 ロシアの起源と戦闘民族

 

 アーロンと別れたタルタリア人たちは、ソビエト軍と小競り合いをしながら南を目指していた。グルカ山岳旅団に属したおかげで近代兵器について学ぶことができ、別れ際に餞別としてモシン・ナガン小銃をもらった……もちろんソビエトの鹵獲品だ。


 だが鹵獲品だからこそ、敵と戦いながら消耗品の弾薬補充もできるという一石二鳥の戦い方ができた……彼らはソビエト軍をゲリラ的な戦いを繰り返しながらうまい具合に弾薬を補給しつつ南に進んでいった。


 とはいえ基本的に強力な敵からは逃げ回りながら時々自分達でも勝てる小部隊を襲うことを繰り返しているので移動は捗々しくなく、ようやくカレリア地峡を越えラドガ湖東岸にたどり着いた(西岸はフィンランドとソビエトの主戦場で強力な火力が集まる場所なので、あえてソビエト勢力圏側に迂回した)。それでも南に行くにつれ、強力な兵器を持つ敵が増えていく。


「チッ、あの装甲はこいつじゃ無理だ」

彼らの使っているのはデグチャレフ PTRD1941……いや、鹵獲品なので14.5mm PzB783だが、名前の通り14.5ミリでソビエト赤軍が使用していたボルトアクション式の対戦車銃だ。ポーランドとの戦いで対戦車ライフルが再評価されソビエト軍内で大量に配備されたため、彼らや兵器の乏しいフィンランド正規軍も(鹵獲兵器として)含めて非常にポピュラーに行き渡っている対戦車兵器だ。ドイツのⅢ号・Ⅳ号戦車の側面の30ミリ装甲程度なら貫通できる性能を持ち、当然のことながらT34以前のソビエト戦車にも有効だった。しかし新たに編成され始めたソビエト狙撃旅団(ソビエト陸軍の主力兵科)にはもれなくKV重戦車、T34中戦車、そしてT60またはT70軽戦車が40両ずつが基本セットとなったため、軽戦車以外に出くわす可能性もどんどん高まっていた。


「どうする? 一旦戻るか……この先のペテルブルグ(サンクトペテルブルグ、スターリングラードの旧名)はドイツとの戦いで近寄れそうにないぜ? どうしても行かなきゃダメかい?」

戦闘部隊の副官的立場のバトゥが、軍事の(おさ)、タジボーグと長老的巫女であるカラファを返り見る。

彼処(あそこ)には我らの曽祖から奪われた……祖先の形見(取り戻すべきもの)がある」


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


 ロシアの起源は862年にフィンランド国境に近いラドガ湖の西南にあったスタラヤ・ラドガにリューリク王が都を定めたことに始まる。彼はノルマン人(バルト海沿岸に現住した北方ゲルマン人の一派。ヴァイキングは彼らの武装集団を指す言葉)で伝承の上ではノヴゴロド周辺に住む複数のスラブ部族によって招聘された事になっている。曰く「我らの国は大きく豊かだが秩序がない。我らのところへ来て支配してほしい」と


 リューリクはこの地にノヴゴロド王国を建て、その息子イーゴリはウクライナの首都キエフの統治者になる。さらにイーゴリの摂政、オレグ公がキエフ大公国を建設し16世紀まで続くリューリク朝の祖となった。ロシア人 (ルースキイ)という名の語源となるルーシ(ルス)は彼の属していた部族の名だとされる(元々キエフに住んでいたポリャーネ族の国号だとする説もある)


 一方で、ノヴゴロド以外のロシアの土地には遊牧民系のタルタリア国が存在した。名前の由来は「タタール人の地」とも「ギリシャ神話の戦神(いくさがみ)タルタロスに征服された地」とも言われ、民は「背が高く、明るい髪色で白い肌を持ち、平和時は友好的だが一度戦いになると容赦のない恐ろしい戦闘民族」と評された。スラブ系アーリア人と言われキリスト教以前の信仰を持つと言われる人々が住んでいた。もっともアーリア人というのは白人と言っているのと大した差はない(それほどまでに広く曖昧な表現だ)だからナチスドイツが主張する至高の存在も、実は特定の人種民族ではなく漠然とした存在でありプロパガンダ的主張でしか無い。


 この地は元々、ヴァリャーグ(バイキング)とギリシャをつなぐ交易の道であり、北欧からは生鉄、セイウチ・クジラなどの革、美術品など、中央アジアからは琥珀、金、木材、穀物、奴隷など、南欧からはワイン、香辛料、織物、書物などがそれぞれ運ばれ交易されていた。スターリンの生まれたグルジアもこの周辺地域としてぶどうやワインの生産が盛んに行われていた。交易に伴いそれぞれの文化も交流し、南方民族からは、ヒュペルホレオイという北にある理想郷(気候に恵まれ、長寿を誇り、一角獣などが棲む地)とその手前のリーパイオスなどを琥珀の道(地中海から北ヨーロッパを繋ぐ道)にある国に重ね合わせ、北方民族からは、ギリシャやローマに連なる者、あるいは「ヴォルガ川での船葬の描写に現れる、見るもおぞましき巨躯の老女ヴォルヴァ(流浪の巫女)」という古エッダにあるヴァルキュリア(ワルキューレ、戦場で生きる者と死ぬ者を定める女性神)の原型がイメージされる存在である。


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


「ヤバい、取り囲まれた!」

岩場に僅かに盛り上がった丘と木立に隠れて、本体からはぐれた様子のソビエトの戦車小隊に狙撃をかけていたタルタリア人たちは、いつの間にか彼らの本隊と思われる戦車部隊が背後から迫ってきているのに気がついた。


「くそっ! 何人かで囮になって奴らを引きつけるからタイミングを見計らって逃げてくれ」

「無理だ。2、3両ならまだしも10両以上の戦車が相手じゃ見逃してもらえない……」


 この岩場に隠れていれば、しばらくは間をもたせられるが、やがては敵の戦車の火砲で全滅させられるだろうことは明らかだった。

「俺たちの旅もここまでか……せめて最後はタルタリア人らしく勇敢に戦って死ぬぞ」

「……昔の祖先たちみたいに馬でもあれば一泡吹かせられるのに」

遊牧民族の戦士を祖先に持つ彼らにとっては、馬で地を駆けながら戦うのが最後に思い描く姿なのだろう……しかし、その姿を体現する者がソビエト戦車部隊を追いかけて更に後方から迫りつつあるのに気づくには、まだ時間があった。


「アーロン隊長、前方で敵戦車部隊が戦闘中のようです。相手は……なんだありゃ?」

 最初は友軍の斥候か殲滅の危機にある山岳部隊かと思われたが、派手な槍飾りや兵士以外の人々が含まれている様子に見覚えがあった。

「ありゃ、タルタリアの奴らだ! まだこんなところをウロウロしてたのか」


 アーロンたちはレンドリース物資輸送経路掃討のため、グルカ山岳旅団本隊が攻撃する白海湾岸のオネガから遠く南下して、ラドガ湖からレニングラードに至る運河地帯を遊弋していた。そしてそこはレニングラード攻防戦を迂回してラドガ湖東岸を南下していたタルタリア人グループの移動先と一致していた。


「前方のソビエト軍戦車部隊をラプトルで挟撃する。ふたつに分かれて左右から回り込め! 最大戦速だ」

そう命じながら小隊隊長のアーロンはまっすぐ(いや戦車砲で狙われるのを避けるため左右にスイングしながらだが)最高速で戦場に向かう。

「……何か変な音がするぞ」

遠方から聞こえてくる甲高い異音に耳をそばたてるタルタリア人のバトゥは、すぐにソビエト戦車が車体から火炎を吹き上げる姿を目撃した……続いて腹に響く爆発音と黒煙の上がる様子も。


「戦車が攻撃されてるぞ……誰だ?!」

わずか5機のラプトルであったが十両程度の戦車を屠るのに大した時間はかからなかった。そして戦闘終了後、見たこともない移動兵器の中から見知った顔の男が出てきた。


「久しぶりだな」

「えっ?! アーロン大隊長か」

「いや大隊長はクビになって、今は第一装甲遊撃隊というグループの隊長だけどな」

「……それにしても、それは何だ?? 凄いスピードで走るし、簡単に戦車をやっつけるし……」

タルタリア人戦士の言葉にアーロンは得意そうに答える。


「なかなか、すごいだろっ。まるで新しい馬のようだと思わないか?」

「……ああ、本当だ。まさに戦車を相手に戦う騎馬民族の馬だ」

アーロンとタルタリア人戦士はラプトルを新しい時代の馬のようだと感じていることでは、一致しているようだ。



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