第10話 「D day」その後
「なに? 南京でなく洛陽に向かいたいだと?!……それでは鉄機兵の回収地点が上海沿岸ではなくなってしまうぞ」
赤井は、信陽の補給基地に着くと長距離無線で作戦本部に状況を伝え、蒋将軍の依頼についての具申を述べた。
「……洛陽からなら往路を戻れば十分行動可能範囲となります。ここで南京に連れて行っては蒋将軍の信頼も失うことになります。どうぞご配慮を」
「我々が日本軍だということは蒋将軍には知られてないのだろう?」
「一応、アメリカ軍を偽装してみましたが、かなり疑いの目でみられています。いずれにしろ解放後にアメリカに問い合わせられたら簡単にバレますので……」
「……変な小細工をしない方が今後のためか。わかった。回収部隊には、こちらから作戦変更を伝達しておく」
「はっ、ありがとうございます」
「補給を完了し、引き続き作戦遂行を頑張ってくれたまえ。以上!」
「了解しました」
「ここは洛陽ではないようだが?」
一方、ケージから一時的に出された蒋将軍は訝しげにそう問いかけた。
「ここは前線補給地です。機体の燃料補給と整備を行い、目的地洛陽に向かう予定です」
「……そうか。いくら新兵器でもそうそう自由に行動できるわけではないか。少しは安心した」
「それは?」
「こんな新兵器を多数用意されたら我々は戦いようがないのかと危惧していたのだ」
「そうでしたか。しかしご安心なさるのは、いささか早計かもしれません。これが必要数揃えられた暁には戦闘方法は全く変わってしまうでしょう」
「……いいのか? 私に秘密をばらして?」
「これは迂闊でした(笑)。閣下と話しているとついつい余計な情報を漏らしてしまいます」
赤井はいかにも失敗したふうを装って笑っていたが、蒋将軍はむしろ、その様子を見て苦虫を噛み潰すような表情に変わった。
「……示威行為か、余裕だな日本軍は」
それを聞いて今度、驚くのは赤井の番だった。
「何を……おっしゃいます」
「図星か。アメリカ軍なら出所を隠す必要はない。ソ連軍も同じだろう。まあその場合、私はモスクワか何処かに連行されるかもしれんが……そして、我々国民党軍が共産党軍と共闘するのを最も嫌がるのはどこか。考えてみれば簡単な答えだ」
「……」
「まあよい。君たちの作戦は大成功だ。こんな物を中国戦線に投入されたら我々には勝ち目はない。少なくとも対抗手段を考えつくまでは……」
赤井は既にリップサービスするような余裕はなかった。
「……閣下。整備と補給が、もうすぐ完了します。よろしければ中にお戻り下さい」
「わかった。お手柔らかに頼むよ」
蒋介石が開放されたニュースが世界を駆け巡るのは早かった。そしてそれは西安に向けて出発する予定だった、ふた組にとって望ましいものではなかった。
「マダム宋、ミスター蒋が開放されたというニュースは聞きましたか?」
「はい、張学良は殺されたそうです」
「私は一旦、本国に帰る必要があります。また戻ってきますので、その時はまた、ご一緒させてください」
「ええ、変わらぬ関係が続くことを祈っています」
そして、もうひとつ。
「西安辯事処が襲撃された? そのような勢力は行動していなかったはずだが」
「……状況はよくわかりませんが、情報を集めると新兵器が使われたようです。少数ですが、とてつもなく速く移動し弾を跳ね返し、壁を簡単に壊す力を持っているらしいです」
「それは……アメリカ軍か? なんとも厄介なことになったな……国民党はもはや我々に譲歩はしないだろう。早急に対策を検討しなければ」
「はっ、周同志。中央委員会に報告を上げておきます」
「頼むよ」




