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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第五章 美濃征伐にて候う

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第九十九話 道三と双六にて候う

 俺の目の前にかの有名な斎藤道三が居る。


「よし、わしの番じゃな?」


 手に賽子を持ち自らの順番を訴えている。


「ふむ、これはここに。よし。そなたの番ぞ!」


 何とも奇妙な事だ。

 なぜ俺は道三と双六をしているのだろうか?

 しかもあの盤双六をしているだ。


「おい。そなたの番じゃぞ?」


 俺は一体何しにここに来たのか?


「おい、小僧。聞いとるのか? はようせんか!」


 は、そうだ。

 今は双六に集中しよう。

 よし、行くぞ!


「う~ん、これはここで良いかな。どうぞ」


「うむ。ではわしじゃな」


 こうやって見るとただの爺さんだ。

 賭け事に夢中なただの老人。

 何処と無く祖父に似ている。


「ふふ。今日の出目は良いのう。わしに勝てと言っておる」


 どうも道三は速攻で上がるタイプのようだ。

 意外だな?

 道三ほどの人物なら罠を張りながら相手の上がりを邪魔する戦法を取ると思っていた。

 俺がするように。


「よし。これは弾きますね?」


「な、何!」


 よし、よし。これで道三の上がりが遠退いた。


「むう? 素人と思っていたが。なかなかやりよるわい」


「負け無しだと言ったでしょう?」


「ふん、何。これは単なる肩慣らしよ。次は本気を出してやろう」


「え、続きをやるんですか?」


 道三がニヤリと笑う。


「何も一度の勝負とは言ってなかろう?」


 きったねえ~。さては俺の戦法を確認しようと敢えて最初は速攻型で様子見したのか?


「汚いですよ。そんな後だしみたいな?」


「汚い結構。最高の褒め言葉じゃな」


 ぐぬぬ。開き直ったな!


「なら三回勝負です!先に二回勝った方の勝ちで!」


「ふふふ。良かろう。だが勝つのはわしじゃ」


 扇子を開いて仰ぎ始める道三。

 余裕の積もりかよ?

 ならこっちは容赦しないぞ。

 盤に出ている石全部弾いてやる!


「ははは、これで終わりですよ」


「な、お主。少しは手加減せんか?」


「ふ、賭け事は手を抜かない主義なのですよ」


「ぐぬぬ。よし、次じゃ、次」


「ははは、次も俺の勝ちですよ」


 道三の負け宣言に気を良くした俺だった。

 しかし、次の勝負では……


「あ!」


「ぐははは、わしの勝ちじゃな」


「くっそー。後少しだったのに」


「何、お主もようやったわ。次で終わりじゃ」


「分かりました。次で最後です!」


 負けてしまった俺は少々熱くなっていた。


 そして最後の勝負をしている最中に道三が俺に尋ねた。


「ところでお主はなぜ織田家に仕えておる?」


「え、何ですか? 突然」


 何言ってんの。


「お主の事。調べさせたわ。お主はなぜそんなに織田家に肩入れする。小六と供に美濃に逃げる事も出来たであろうに」


 あー、信行の時の事かな?


「あれは俺を拾ってくれた恩人に恩を返したかったからですよ」


 そうだな。あの時は寧々に請われてやったんだよな。

 結局は無駄な事だったかもしれないけど、あれはやって良かったと思っている。

 お蔭で全く抜け出せる事が出来なくなったけどな。


「おなごの為か?」


 それは市姫を指しているのか?


「答えられません」


「ふむ、そうか。ほれ、これで上げれんじゃろ」


 あ、会話でフェイントかけたな。

 相変わらず汚い。


「しかし、お主はわしの事を恐れんのじゃな?」


「え、そ、そうですね。実は結構怖いんですけど」


「嘘を申せ。怖いと思う者とこうして遊びはせんじゃろが」


 確かに。俺は道三が怖くない。

 これはなぜだろうか?

 死んだ祖父に似ているからかな。

 祖父はよく俺に付き合って遊んでくれた。

 そして、意地悪な事もしてくれたし厳しかった。

 愛すべき祖父になぜか似ているのだ。

 この斎藤道三という爺さんが。


「ふむ、よし。決めたぞ!」


 手が止まっていた道三がようやく決めたようだ。


「どうせ上がれないんですから早くして下さいよ」


 出目からして上がれないし弾けない。

 俺の鉄壁の防御は完璧だ。

 この盤双六は俺に向いているのかもしれない。


 と俺が思っていると道三が真剣な目で俺を見ている。


「な、何ですか。本当の事でしょう。さっきは俺も殺られたんですからお互い様ですよね」


「お主。わしの息子に成らんか?」


「はぁ~。何言ってるんですか?」


 何言っての。突然俺に息子に成れなんて?


「お主は短期間で織田家の中に潜り込み功を立てておる。蜂須賀を味方にし、信行の謀叛にも関わっておる。それに桶狭間での活躍も知っておる。あの光秀がお主を警戒しておったほどじゃ。それに同盟が流れて直ぐにお主は行動を起こした。その行動力に実行力。それに何より人を惹き付ける才覚。織田家に置いておくには惜しい人材よ」


 俺はそれを聞いて冷や汗が出ていた。

 この斎藤道三という人物を俺は見誤っていた。

 やっぱりこの爺さんは恐ろしい。

 俺の事をこれほど詳しく調べていたなんて思いもしなかった。

 誉められた事よりもここまで調べられた事が何よりも恐ろしい。


「声がでんか。まだ有るぞ。お主越後とも繋がっておろう?」


 龍千代さんの事も知ってるのかよ?


「この事。お主の主は知っておるのかの?」


 う、多分知らないと思う。

 龍千代さんとの事がバレたら他家と繋がっていたと邪推されるかも知れない。

 この前の騒ぎの事もある。

 織田家の中には俺の事を疎ましく思っている奴は沢山居るのだ。


「何、脅すつもりで言った訳ではない。わしはお主の事を大層気に入ったのじゃ。どうじゃ、わしの息子に成らんか?」


 訳が分からない。

 俺の事を買っているのは分かるがなんで息子に成らないと行けないんだ?


 そこはせめて家臣になれと言えば良いのに。

「そこはせめて家臣になれと言えば良いのに」


 あ、またやった。


「おお、そうか。これはちと性急であったな。それならば長井の養子になってそれから婿入りすればよい。何安心しろ。わしが後ろにおれば何も心配する事はない」


「いや、そうじゃなくてですね?」


「嫁ならば濃が居る。あやつも一人で寂しいじゃろうしな。それにお主の事も気に入っておるしな」


 何! 今聞き捨てならない言葉を聞いたぞ!


「濃姫が何と?」


「濃はお主が気に入ったようでな。文に書いてあったのよ」


 何ですとー!

 濃姫は蝮に文を書いていたのか?

 いつだ。いつ書いていたんだ。


「そんなに不思議かの。娘が父に文を書くのは当たり前じゃろうが」


 濃姫が文を書いていたなら道三が俺の行動を知っていてもおかしくない。

 くそ、油断していた。

 まさか、濃姫が道三と繋がっていたなんて!


「どうじゃ。濃を嫁に貰ってわしの息子に成らんか。のう」


「どうしてそこまで俺を買っているんですか?」


「それを聞けばお主を返してはやれんのう」


 道三の目が冷たく光ったように見えた。

 さっきまでの親しみの有る目ではない。

 獲物を逃さない狩人のような目だ。


 やはり罠だった!


 これは断ったら殺されるパターンか?


 なら、受けると答えた後に逃げ出すか。


 それをやると織田家に使いをやって俺を織田家で始末させる手を打つだろう。


 どっちにしても俺が織田家に残る事は出来ない。

 これは詰んだ。


「さあ、答えを聞かせて貰おうかの?」


 俺はどうしたらいいんだ!


「俺は、俺は…… うけ」


「「ちょっと待ったー!」」


 後ろの戸がスパーンと開かれると俺の見知っている二人が現れた。


 現れたけど。なんだその格好は!


「「藤吉はあたし(わたくし)の物よ!」」


 そう宣言した小六と長姫。


 その勇ましい宣言をした二人の格好は……


 なんで花魁姿なんだよ!



次回で百話。何かしようかな?


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。


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[一言] すっごく見たい、花魁姿w
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