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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第五章 美濃征伐にて候う

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第九十一話 北か、西か?

藤吉、飛躍の第五章スタートです!

 永禄二年 四月を迎えた。


 田植えを無事に終えて世は戦シーズンとなった。

 初夏から秋にかけては戦を仕掛けやすい。

 田植えが終わって農兵が使えるからだ。

 実際この期間は一番戦が多い。


 しかし、我が織田家は今年は戦をしない方針だ。


 戦を行うには以前も言ったが『大義名分』が必要だ。

 織田家が近隣に侵攻する為の大義名分はない!

 北の美濃斎藤とは昨年協力関係を築いた。

 これをこちらから破る程の大義名分は織田家にはない。

 強いて上げるのであれば元犬山城主の織田信清を差し出させる事で戦を吹っ掛けるくらいだ。

 信清は織田家の裏切り者なので彼を出しに使うのだ。

 でも、これは大義名分としては弱い。

 美濃国人を味方に付ける理由にはならない。


 東南の松平家とは同盟を結んでいる。

 あの人なつこっい顔をした松平元康は今川の防波堤だ。

 こちらから同盟関係を崩す必要はない。

 せいぜい今川と殺り合ってくれればいい。


 となると残るのは西だ。

 西の伊勢は、北は長野家。南は北畠家と別れている。

 近年この両家は仲はあまり良くない。

 長野家は六角家と同盟関係を結んでいる。

 これは北畠家との侵攻を恐れているからだ。

 北畠家は北畠家で伊勢統一を果たしたい。

 しかし、それほど積極的とは言い難い。

 名門北畠の動きは鈍い。


 こうして見ると北の美濃斎藤を相手にするより、西の伊勢長野家と北畠家を相手にするべきだろうか?


 しかし、長野家に侵攻すると近江の六角家を敵に回す可能性がある。

 その場合は北畠家と一旦手を結び。

 挟み撃ちにするのが良いだろう。

 これなら織田家単独で当たるよりも楽に侵攻できる。

 それに北畠家と盟を結ぶのに熱田が使える。

 伊勢神宮と熱田神宮は関係が深い。

 この二つの神宮に協力して貰えば?


 いや、駄目だな。


 史実では伊勢統一はかなり苦労している。

 伊勢国人衆を取り込むのに神戸家と北畠家に信長は自分の息子を養子にさえ出している。

 その後は両家は謀叛を起こして族滅に有っている。

 どちらの家も成り上がりの織田家の下に収まる事はなかったのだ。

 北畠家と同盟関係を結んでも、きっと良いことにはならないだろう。

 むしろ、最初から敵対してくれた方が後々楽だろう。

 何らかの理由で伊勢侵攻の大義名分を得たい所だ。


 とすると伊勢侵攻には伊勢国境付近に有る長島を抑える必要がある。


 今の長島は自治都市のような物で領主が存在しない。

 長野家の支配を受けていないのだ。

 そしてここを支配しているのは一向衆だ。

 しかし、厳密に支配している訳ではない。

 ここでの布教活動をしている内にいつの間にか支配層に成っていたようだ。

 ここは伊勢、尾張、美濃からの人や物が集まっている状態で治安が悪い。

 下手に力で支配しようとすると反発して噛みついてくる。

 そして、それを先導するのが一向衆だ。

 その為に長島は無主の地になっている。


 この長島という土地は非常に厄介なのだ。


 向こうでもこっちでも宗教は本当に厄介だ。

 しかし、長島の土地の利便性は非常に高く魅力的でも有るし、尾張の安全保障を考えるとこれをそのままには出来ない。

 一向衆を敵に回すか? それとも上手く取り込むかしないといけない。


 でも、あの一向衆だよ?


 取り込んでも内から食い破られる可能性が高い。

 何とかしないとな。


 と、考え込んでいるとコンコンと戸を叩く音が聞こえる。


「誰だ?」


「長です。お茶をお持ちしました」


「え? あ、ちょっと待って下さい!」


 俺は慌てて未来から持っていた物を葛籠に直す。


 そう、今俺は屋敷の自室で今後の事を考えていたのだ。


 長姫に入室を許可して二人で茶を飲んでいる。

 ちなみに戸を叩く行為は俺が家族に厳命して守らせている。

 どこぞのバカがいきなり戸を開ける事が有るので俺がキレて、そいつをぼこぼこにしてからはこの決まり事を破る者はいない。緊急時以外では。


「考え事は纏まりましたか?」


 長姫は辺りに散在している資料を見て質問してきた。

 この長姫を俺は好ましいと思っている。

 有り体に言えば好きなのだ。

 しかし、彼女は今川の人間だ。

 織田家にとっては貴重な人質なのだ。

 そんな大事な人物を俺は。


「どうしました?」


 気づけば長姫が近づいていた。

 目の前には彼女の美しい顔がある。

 俺はその顔をまとも見る事が出来ずに視線を反らした。


「か、考え事をしてました。な、何でしょうか?」


 今の俺の顔は、きっと真っ赤になっているだろう。

 は、恥ずかしい。


「ですから、考え事は纏まりましたか。と」


「いえ、全くです」


 俺は少しだけ彼女と距離を取って答えた。

 そう、全く纏まらない。

 北と西。どっちを選んでも一筋縄では行かない。

 それに俺には決定権がない。

 臣下の身分の俺では何も出来ないのだ。

 それなのに『手柄を立てろ!』なんて無茶振りされて、俺にどうしろと言うんだ!


「美濃の地図ですわね? それにこれは伊勢長野家の家臣の事かしら、こんな話が有るなんて知りませんでしたわ」


 彼女はそこら辺の資料を手に取っていた。


「興味が有りますか?」


「そうですわね。興味は有ります。特に貴方に」


 そう言うとまた俺の側に近寄ってくる。

 俺は思わず後退りして壁際まで下がった。


「そんなに警戒しなくてもよいのに。わたくしがお嫌いですか?」


「いえ、そうではないです」


 俺は首を横に降ってから答える。


「では、なぜ距離を取るのかしら?」


 そして、長姫が俺に寄ってくる。

 少しずつ、着実に距離を縮めてくる。


 あ、これ。なんか前にも有ったような?


「わたくしの想いに、貴方も気づいているでしょう?」


「いや、あの、しかし」


 これ以上は下がれない。

 しまった。 戸口の方に下がるんだった!


「大丈夫ですわ。皆には黙っていれば良いのです。さあ?」


 長姫の細長い指先が俺の頬を掠める。

 辺りには良い匂いがしている。

 あ、これは香を焚いているな?


 このままでは俺の理性が!


「長姫。俺は、俺は」


「さあ、我慢為さらずに。こちらに」


 なんて甘い言葉なんだ。

 ぐ、こんな誘惑に耐えられるか。

 俺はやるぞ! やってやるぞ!


「長姫!」 「ああ」


 ドスン、ドスン、ドスン、スパーン。


「何やってんだい! この泥棒猫が!」


「こ、小六!」 「もう、もう少しだったのに」


 部屋にやって来たのは小六だった。

 小六は美濃での情報収集の為に屋敷を留守にしていたのだ。

 そう言えば犬千代や寧々はどうしたんだろう?


「私が留守にしている間に事に及ぼうとするなんて、それでもあんた姫様かい!」


「わたくしはもう我慢する事は止めました。これからは自由に行動致しますわ!」


「は、囚われの姫様が何を」


「あら、わたくしは好きでここに居るのです。別に囚われの身ではありませんわ」


「何を!」 「何ですの!」


 もう寝よう。明日も早いし。


 二人には出ていって貰って眠りについた。


 二人は外で殺り合っていたようだが母様の声がして静かになった。


 今日も静かに眠れそうだ。


 翌朝、犬千代と寧々は二人仲良く眠っていたそうだ。


 二人揃って? 二人ともいつ寝たのか覚えていないそうだ。


 長姫を見ると微かに笑っていた。


 この姫様。二人に何かしたのか?


 こわ! 長姫こわ!



 そして、その日城に向かうと美濃斎藤家からの使者が来る話を聞いた。


 美濃斎藤家こちらが動く前に蝮が動き出したようだ。


お読み頂きありがとうございます。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。

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