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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第三章 蝮と海道一の弓取り

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第六十五話 桶狭間の戦い

『桶狭間』


 いやいや、無い無い無い!!


 何だよこれは?


 確かに桶狭間の戦いに近いシチュエーションだけど、これは無い!

 俺は『織田 信長』じゃないんだよ!

 絶対に上手くいきっこない。


 これは罠だ! 絶対にそうだ!


 そもそもタイミングよく戦見物をしている奴を捕まえたのが怪しい。

 もしかしたら今川の間者じゃないのか?

 そうだよ、それなら納得がいく。


 でもそうじゃないとしたら?


 あー、くそ!

 どうする、どうしたらいい。


「藤吉。行くぞ!」


「勝三郎?」


「今川勢の場所が分かった。今奴らは陣を張っているらしい。そこに突っ込むぞ!」


「待て勝三郎。これは罠だ! 一旦戻ろう」


「何を言うんだ! これは好機だ! 敵は油断している。今なら」


「駄目だ。これは罠だ! 油断したと見せかけてるだけだ」


「ここに来て臆病風に吹かれたか。藤吉!」


「うぐ」


 勝三郎の視線が痛い。

 勝三郎の言い分も分かる。

 これは千載一遇のチャンスだ!

 しかし同時に絶体絶命の罠のような気もする。


 駄目だ。

 勝三郎を説得できる気がしない。

 よしんば罠だとして『だからなんだ!』て感じになってるんだよな。

 周りの兵もなんかやる気をみなぎらせてるしさ。

 ここで俺が撤退なんて言っても聞きはしないよ。


 それに俺の立場は勝三郎の副将みたいな立場だ。

 今この軍を率いているのは俺ではない『勝三郎』だ。

 なら、俺がやることは決まっている。

 勝三郎を補佐するだけだ。


「分かった。殺ろう勝三郎」


「ああ、殺ろう藤吉!」


「だがあくまで目的は物資を焼き払う事だ。それを徹底してくれ」


「ああ、分かっている」


 俺と勝三郎は改めて目的の確認をする。

 たとえ義元が居たとしても目標は物資だ。

 普段冷静な勝三郎なら大丈夫だ。


 ……俺はそう思っていた。



 東海道と大高道を結ぶ間道は幾つかある。

 今川勢はその中の間道から一つを選んだ。

 そしてそこは由りにもよって田楽狭間の桶狭間山に布陣している。

 これで豪雨でも有ればまさしく『桶狭間の戦い』だ。


 しかし、現実は雨どころか雲一つない青空だ。


 俺達を隠すのはわずかな木立だけだ。

 多分、桶狭間山から俺達の姿が見えているんじゃないかと思う。

 もう奇襲ですらないな。

 しかし、進軍を止める訳には行かない。

 可及的速やかに今川勢を捕捉しないと。


 そして、木立の切れ目に近付くと付近の雑草が踏み固められている場所を見つける。

 そしてそれは道になっていた。

 その道の先を見ると柵があちこちに見える。


 今川勢を遂に見つけた。


「勝三郎。物資が置かれている所を探そう」


「藤吉。見てみろ?」


「うん、何をだ?」


「上だ。輿が見える」


 勝三郎が山頂を指差している。

 だが俺にはよく見えない。


「いや、俺はそんなに目が良くない。輿が見えたから何なんだ」


「義元が上にいる」


「おい勝三郎。まさか?」


「藤吉。見たところ今川の兵は俺達より少なそうだ。殺ろう!今が好機だ!」


「勝三郎。俺達の目的は」


「これを逃したら、いつまた今川が攻めて来るか分からない。今殺るんだ!」


「落ち着け勝三郎。止めろ。俺達が敵う相手じゃない。大高でも殺られそうになっただろう。思い出せ!」


「あの時はそれでも上手くいった。今回は兵も多い。殺るべきだ!」


「勝三郎」 「乾坤一擲。これに賭けるんだ!」


 勝三郎が俺の肩を強く握る。

 その手から、いや体から熱さを感じる。

 勝三郎の目が俺に訴える。


 これは駄目だ。

 何を言っても無駄か。


 俺は空を見る。

 空は雲一つない晴天。


 殺るしかないのか。


「分かった」


「藤吉!」


 敵の大将が手の届く位置にいるのだ。

 いくら前もって目的を決めていても、それを見てしまえば他の事が見えなくなるのはしょうがない事だ。

 目の前の勝三郎をしてそうなる。


 殺るしかない!



「掛かれ!」


 勝三郎の号令の元、織田勢が桶狭間山に布陣する今川勢に襲い掛かった。

 義元が居るのは山頂付近だ。

 そこに向けて一直線に向かっていく味方の兵。


 今川勢は突然の事に驚いたのか。

 兵達が浮き足だって見える。

 これはいけるかもしれない。


 俺は勝三郎とは別の方向から山を登っている。

 この山の斜面は緩やかだ。

 それほど苦労せずに登れる。

 勢いよく登り敵の陣に襲い掛かる。


 その時上から太鼓の音が響き渡った。


 俺はそれを聞いた時、悪寒を感じた。

 言い知れぬ不安、しかし足を止める訳には行かない。

 目の前の敵を打ち破らないと行けない。


 俺は手に持っている槍を目の前の足軽達に叩き付ける。


 俺の身長は百七十を越えている。

 この世界では一般人よりも頭一つ大きい。

 大きい事はそのまま強さに繋がる。

 体のサイズが一回り大きい俺の打撃は普通の人の打撃よりも重くて強い。

 三メートル近い槍を力任せに振り下ろす。

 相手に槍が当たった瞬間、手に衝撃が伝わるが構わず叩き付ける。

 無我夢中だった。

 俺に叩かれた足軽達は立ち上がれずに地に伏すか。

 叩かれるのを恐れて逃げ出していった。



 周囲の足軽達を追い払うと勝三郎の率いる兵はさらに上を駆けていく。

 俺達もそれに続こうとした時、下の方から大勢の声が聞こえた。


「織田の兵を治部様に近づけるな! 掛かれ! 掛かれ!」


「「「「おう!」」」」


 見れば俺達が登って来た場所に今川勢が姿を表していた。


 俺達は今川勢に上と下に挟まれた。


「藤吉様。どうしますか?」


 どうしますか? そんなの俺が聞きたいよ!


 どうする。俺!



お読み頂きありがとうございます。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。


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