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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第三章 蝮と海道一の弓取り

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第六十話 鳴海に着きて候う

 俺と勝三郎は加藤順盛の説得に成功した。


「すまんな藤吉」


「いやいや、勝三郎が根気よく話してくれたから上手くいったんだ。俺の手柄じゃないよ」


 実際の所、俺一人だと順盛は俺と会ってくれなかっただろう。

 勝三郎の近習筆頭という立場があったからこその成果だ。

 俺は所詮農民からの成り上がりでしかない。

 市姫様や信広様の後ろ楯を得ているがそれだけでしかない。

 これから俺が上に行く為には味方を多く得ないといけない。

 そして、その味方が上に居てくれると助かる。

 まずは池田勝三郎を上に上げる。

 俺が困った時に助けてもらわないといけない。


「これは借りになるかな?」


「今は織田家存亡の時だ。借りなんて気にしないでくれ」(嘘です。気にしてください)


「そうだな。この危機を乗りきったその時に返すとしよう」


「ええ、ぜひ」(良し!)


「お二方。明日には用意が調います」


 俺と勝三郎が話をしていると順盛が話掛けて来た。


「それでは船を使って鳴海に運んでください」


「私の名を使ってくれ」


「分かりました。池田様の名で手配しましょう」


「そうしてくれ。俺達は直ぐに発つ。荷の件くれぐれも頼む」


「お任せくだされ」


 順盛は不安に満ちた目をしていた。

 商売敵である堀田家よりも駿河の友野の方を相手にするのはやはり嫌なようだ。

 実際、この頃友野二郎兵衛は今川から様々な特権を与えられている。

 もし、尾張が今川の支配下に入ると尾張の商人は友野の支配下に入るだろう。

 例えるなら堀田家と加藤家は尾張で有名なデパートないしスーパーのようなもの。

 一方友野家は駿河遠江三河の三国で店を出している大手スーパーか、卸業者だ。資本金が違う上に統治者の庇護がある。

 友野が尾張に入れば堀田や加藤は今以上の商いが出来ない可能性が高いのだ。

 そうなると最悪の場合は店を畳まないといけない。

 それは商売人として看過できないだろう。


 俺だって嫌だ。


 であるならば、加藤家は是が非でも織田家に勝ってもらわねばならない。

 そこに俺達は付け込むのだ。

 要求した品は用意してもらった。

 後は俺達がそれを上手く使わないといけない。


 俺達は一路鳴海城に向かった。



 鳴海城には半日近くかけて来た。

 俺達が連れてきた兵力は約二千。

 勝三郎の千五百と俺の五十、そして熱田で五百を加えた。


 そして俺達を出迎えた山口親子は俺達に深々と頭を下げている。


「左馬助殿。どうか頭をお上げください」


「申し訳のしようもなく。この通りにて」


 正直、こんな対応をされるとは思っていなかった。

 何とか頭を上げてもらって城内で話をする事になった。

 そこで『山口 左馬助 教継』とその息子『山口 教吉』は事情を説明してくれた。

 まず、今回の今川侵攻の話を山口親子は知らなかったそうだ。

 侵攻前の直前のやり取りの中にも侵攻の事は知らされなかった。

 それが三日前の書状にて今川侵攻と道案内の要請を受けたという。

 実際の書状も見せてもらった。

 そして、山口親子は俺達が鳴海に来るまでは今川に合力しようと思っていたそうだ。


「斎藤が国境を侵しており、織田家は我らを見捨てるのではと思っておりもうした。しかし、実際はこうして兵を差し向けてくださいました。織田家に大恩を受けながらこのような………」


 これは危なかった。

 もし、ぐずぐずして兵を出していなかったら鳴海は今川の物になっていたかもしれない。

 しかし、そうはならなかった。


 これはツキがこちらに有る!


 ならばそのツキを逃さないようにしないといけない。

 俺はさっそく山口親子に策を説明する。


「何と大胆な!」 「このような策は?」


「これはあくまでも足止めの為です。どうでしょうか?」


「どれ程の時を稼げばよろしいか?」


「十日、いや五日は欲しい」


「五日ならば何とかなるやもしれませぬ」


 山口教継は不敵に笑った。


「なるべく時を稼ぎ援軍を待ちます。これが基本方針です」


「あい分かった! お任せあれ!」


 俺達はお互いに顔を見合わせ頷き合う。

 鳴海城は直ぐに籠城の準備を始める。

 俺と勝三郎は十騎ほど率いてこの地域の地形を見て回る事にした。


 俺は鳴海に来てからも思っていたが、あっちとこっちでは地形が微妙に違っていた。

 あっちで見てきた古戦場跡地の知識はここでは役に立たない。

 俺は慎重に周辺を見て周りの小さな脇道も見逃すまいと神経を尖らせていた。


 休む暇もなく見て周り、そして地図を書いていく。

 そしてそれを勝三郎、山口親子と見ながら見落としがないかチェックする。


 とにかく時間がない!


 今川の侵攻を知ったのがほぼ四日前だ。

 駿河からこの尾張の国境までは約六日、もしくは八日はかかる。

 そして情報にはタイムラグが生じる。


 そう、もしかしたら今日か明日には今川が現れる可能性があるのだ。

 鳴海城の籠城の準備事態は半日も掛からず終わった。

 元々、武具や兵糧は溜め込まれていたのだ。

 後は兵を集めるだけですんだ。

 そして山口親子は気の利いていることに斥候を放っていた。


 斥候の報告を聞いて俺達は気が抜けた。


 今川勢は大高城はおろか、沓掛城にすらたどり着いていなかった。

 更に一日が過ぎたがまだ来ない?


 そして、熱田から今川勢が何処に居るのか報告が来た。

 どうやら加藤家も気になっていたようで調べていたらしい。

 その報告によると今川勢は………


 岡崎で酒宴を開いているとの報告だった。



 バカなの、義元?


お読み頂きありがとうございます。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。


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