第百話 道三の誘いにて候う
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「ちょっ、お前ら。なんて格好してんだよ!」
俺が道三に敗北宣言しそうになった時に二人が乱入してきた。
乱入してきたのは良い。
だが、その服装は何なんだ?
「うふ、似合うかしら?」
たわわな胸元を『これでもか!』と開けている小六。
「中々に良い生地を使っておるのう。藤吉。これなる姿はきらいかのぅ?」
こちらも胸元を強調している長姫。それに生足が見えた。正直エロい。
二人の花魁姿に頭がクラクラしてきた。
「うむ、これは中々に眼福よな」
は、道三の眼が下がっている。
なんか鼻の下が伸びているようにも見える。
あれほど眼光鋭かった人物がデレデレした顔になっていた。
これではただのスケベ爺だ。
「あら、蝮の旦那。お久しぶりねえ」
「む、そなた小六か?」
「まだ耄碌してないみたいだねえ」
道三は小六だと気づいてなかったのか?
道三がデレデレした顔から真剣な顔に戻った。
「ふむ、あまりに遅いから来てみれば双六をしておったのか?それにさっきは聞き捨てならない話をしていたわね?」
そう言って長姫は俺の隣に座りしなだれかかる。
あ、あの、当たってるんですけど。
「まったくしょうがないねえ。あたしが居ない間に何やってんのさ」
小六もまた俺の隣に座って俺の腕を取って胸を押し当てる。
ちょっと小六さん。
少し離れましょうか。
その感触はヤバいんですけど!
右手に長姫、左手に小六と両手に華状態。
これがプライベートなら良かったが目の前には道三が居る。
嬉しいけど嬉しくない状態だ。
「ごほん、話を戻そうかの」
「待った。蝮の旦那。その話は受けれないよ」
「そうです。藤吉はわたくしの物です!誰にも渡しませんわ」
いや、俺は誰の物でもないです。
「其を決めるのは小僧よ。そなた達ではあるまい?のう、小六。それに今川の姫よ」
「あら、知ってましたの?これだから蝮と呼ばれるのですわ。あなたは」
マジかよ。道三は長姫の事も知っていたのか?
「なに、わしには色々と教えてくれる者もおるのよ」
それは一体誰だよ? 俺に教えてくれませんかね?
「蝮の旦那。なんであんたは藤吉に執着してんだい。おかしいよ?」
「執着か? お主には分かるまい」
「いいえ。分かりますわ。武田が動いているのでしょう」
武田が? それが俺と何の関係が有るんだ。
「鋭いのう。さすがは今川治部よ」
何の話なのか。さっぱり分からん。
「思えば小六よ。そなたが義龍を選んでおればこのような事にはなっておらなんだ」
「は、あたしは自分の夫くらい自分で見つけるよ」
「自分で見つけたのがこやつと言う事か?」
いや、正確には俺が口説いたんだが?
勘違いさせたけどね。
「藤吉はあんたとは違うんだよ! 利用するだけ利用したあんたとはね」
ぐ、耳に痛い!
「それはすまなんだな。しかし、藤吉がわしの息子になれば、そうすれば」
「つまりはわたくしを通して今川と結びたいのですわね。それに小六さんを引き入れる事も出来ますものね」
なるほど! なんとなく分かって来たぞ。
「だから藤吉に執着してんのかい。旦那ほどの男がそれだけの理由で藤吉が欲しいのかい?」
「それだけと言うがの。考えても見るがよい。その小僧はお主を引き込み。そして今川治部を懐に入れておる。それだけでも十分に取り込む理由になろう。あまつさえ越後とも繋ぎが有ればこの先どれ程の事をなすか。想像出来まいて」
道三の俺の評価って小六や長姫を含めての評価なのね。
「越後?」 「初耳ですわ!」
ぐ、二人の俺の腕を掴む力が強くなった。
「それに織田家に居ってはその力を十分に発揮出来まい。わしの所ならばお主は存分に働けよう。何を迷う必要がある?」
道三の所で働くなんて考えたくもない。
爺さんのうえに油断出来ない上司なんて欲しくない。
それに道三から国を譲って貰っても今の俺では無理だ。
経験とか地位が足りないのではない。
名が足りないのだ!
圧倒的に名前が売れていない。
尾張での俺はまだまだ知名度が低いのだ。
名も知らない人をいきなり主にするなんて俺なら考えられない。
それにそんな人物を美濃国人衆が支持するだろうか?
きっと道三に何か有れば国が割れるだろう。
道三に付くことは俺に取ってギャンブルでしかない。
泥舟にわざわざ乗る奴なんていない。
道三はもう詰んでいるのだ。
この美濃は草刈り場だ。
織田家、六角家、浅井家、朝倉家、そして武田家が虎視眈々と狙っている。
一国一城の主を夢見ているが、こんな危ない国の主なんてごめんこうむる。
「さあ、答えを聞かせてもうおうかの?」
答えは決まった。
「断る」
「ふ、これほどの条件を断るとはの。お主はバカなのか?」
安い挑発だ。だが、乗ってやろう!
俺は両手の華を抱き寄せる。
「俺は俺の手で城を、国を手に入れる。誰かに譲って貰うなんて冗談じゃない。欲しい物は自分で手に入れる。そうだろう斎藤道三殿」
「……藤吉」 「あたしはあんたに付いていくよ」
二人が瞳を潤ませて俺を見ている。
少しカッコつけ過ぎたかな?
「く、くく、くはは、ふははは。面白い。やはり男はそう有るべきよ!」
あ、あれ? 絶対怒ると思ったんだけどな。
「ますます気に入ったぞ! 木下 藤吉」
「そ、それはどうも」
う~ん。ちゃんと断ったよな。もう誘われないよな?
「ふぅ、夕げを供にするつもりであったが、もう必要あるまい。これ以上話をしては情が移るわい」
えっと、これで終わりですかね。
「次に会うのは戦場じゃな。後悔しても遅いぞ」
既にあなたと会った事を後悔してますよ。
「ちょっと待ってください!」
大事な事を思い出した。
「うん、なんじゃ?」
「まだ勝負が終わっていません。最後までやりましょう」
「ぶ、ぶははは。真に面白い奴よ。良かろう。勝負は最後までやるものじゃな」
こうして双六勝負の続きをする事が出来た。
「よっしゃー!」
「ぐぬぬ。まさか負けるとはの」
「では、これに一筆お願いします」
俺は一枚の紙を道三に差し出した。
「なんじゃこれは?」
「保証書です」
この紙には俺達の安全の保証を約束する事が書かれている。
ここに来る前に用意していたのだ。
これに一筆書いて貰えば幾分安心できる。
今夜一晩くらいだけど。
「こんなものを用意しておったとは?」
「夕げの代金の代わりです。再戦する為には必要でしょう?」
「ふ、ならば次はもっと賭け金を積むとしようかの」
「次も負けませんよ!」
「ぬかせ! 最後はわしが勝つのよ」
道三は俺の差し出した紙に署名して帰った。
その足取りはなんか歳のわりに軽かったな。
こうして斎藤道三の誘いを無事に断る事が出来た。
出来たよな?
何とか今夜一晩くらいの安全は確保できた。
直ぐにもここを離れるべきだ。
しかし、俺は二人の花魁に捕まったままだ。
「夜はこれからだよ。ねえ藤吉」
「わたくし今日は一人では眠れそうにありませんわ」
どうやら今日はこれからが本番のようだ!
次回は遂に年貢を納めるのか?
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