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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第五章 美濃征伐にて候う

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第百話 道三の誘いにて候う

百話達成です。これも応援して頂いている皆様のお蔭です。ありがとうございます!

「ちょっ、お前ら。なんて格好してんだよ!」


 俺が道三に敗北宣言しそうになった時に二人が乱入してきた。

 乱入してきたのは良い。

 だが、その服装は何なんだ?


「うふ、似合うかしら?」


 たわわな胸元を『これでもか!』と開けている小六。


「中々に良い生地を使っておるのう。藤吉。これなる姿はきらいかのぅ?」


 こちらも胸元を強調している長姫。それに生足が見えた。正直エロい。


 二人の花魁姿に頭がクラクラしてきた。


「うむ、これは中々に眼福よな」


 は、道三の眼が下がっている。

 なんか鼻の下が伸びているようにも見える。

 あれほど眼光鋭かった人物がデレデレした顔になっていた。


 これではただのスケベ爺だ。


「あら、蝮の旦那。お久しぶりねえ」


「む、そなた小六か?」


「まだ耄碌してないみたいだねえ」


 道三は小六だと気づいてなかったのか?

 道三がデレデレした顔から真剣な顔に戻った。


「ふむ、あまりに遅いから来てみれば双六をしておったのか?それにさっきは聞き捨てならない話をしていたわね?」


 そう言って長姫は俺の隣に座りしなだれかかる。


 あ、あの、当たってるんですけど。


「まったくしょうがないねえ。あたしが居ない間に何やってんのさ」


 小六もまた俺の隣に座って俺の腕を取って胸を押し当てる。


 ちょっと小六さん。

 少し離れましょうか。

 その感触はヤバいんですけど!


 右手に長姫、左手に小六と両手に華状態。

 これがプライベートなら良かったが目の前には道三が居る。

 嬉しいけど嬉しくない状態だ。


「ごほん、話を戻そうかの」


「待った。蝮の旦那。その話は受けれないよ」


「そうです。藤吉はわたくしの物です!誰にも渡しませんわ」


 いや、俺は誰の物でもないです。


「其を決めるのは小僧よ。そなた達ではあるまい?のう、小六。それに今川の姫よ」


「あら、知ってましたの?これだから蝮と呼ばれるのですわ。あなたは」


 マジかよ。道三は長姫の事も知っていたのか?


「なに、わしには色々と教えてくれる者もおるのよ」


 それは一体誰だよ? 俺に教えてくれませんかね?


「蝮の旦那。なんであんたは藤吉に執着してんだい。おかしいよ?」


「執着か? お主には分かるまい」


「いいえ。分かりますわ。武田が動いているのでしょう」


 武田が? それが俺と何の関係が有るんだ。


「鋭いのう。さすがは今川治部よ」


 何の話なのか。さっぱり分からん。


「思えば小六よ。そなたが義龍を選んでおればこのような事にはなっておらなんだ」


「は、あたしは自分の夫くらい自分で見つけるよ」


「自分で見つけたのがこやつと言う事か?」


 いや、正確には俺が口説いたんだが?

 勘違いさせたけどね。


「藤吉はあんたとは違うんだよ! 利用するだけ利用したあんたとはね」


 ぐ、耳に痛い!


「それはすまなんだな。しかし、藤吉がわしの息子になれば、そうすれば」


「つまりはわたくしを通して今川と結びたいのですわね。それに小六さんを引き入れる事も出来ますものね」


 なるほど! なんとなく分かって来たぞ。


「だから藤吉に執着してんのかい。旦那ほどの男がそれだけの理由で藤吉が欲しいのかい?」


「それだけと言うがの。考えても見るがよい。その小僧はお主を引き込み。そして今川治部を懐に入れておる。それだけでも十分に取り込む理由になろう。あまつさえ越後とも繋ぎが有ればこの先どれ程の事をなすか。想像出来まいて」


 道三の俺の評価って小六や長姫を含めての評価なのね。


「越後?」 「初耳ですわ!」


 ぐ、二人の俺の腕を掴む力が強くなった。


「それに織田家に居ってはその力を十分に発揮出来まい。わしの所ならばお主は存分に働けよう。何を迷う必要がある?」


 道三の所で働くなんて考えたくもない。

 爺さんのうえに油断出来ない上司なんて欲しくない。

 それに道三から国を譲って貰っても今の俺では無理だ。

 経験とか地位が足りないのではない。


 名が足りないのだ!


 圧倒的に名前が売れていない。

 尾張での俺はまだまだ知名度が低いのだ。

 名も知らない人をいきなり主にするなんて俺なら考えられない。

 それにそんな人物を美濃国人衆が支持するだろうか?


 きっと道三に何か有れば国が割れるだろう。


 道三に付くことは俺に取ってギャンブルでしかない。

 泥舟にわざわざ乗る奴なんていない。

 道三はもう詰んでいるのだ。

 この美濃は草刈り場だ。


 織田家、六角家、浅井家、朝倉家、そして武田家が虎視眈々と狙っている。


 一国一城の主を夢見ているが、こんな危ない国の主なんてごめんこうむる。


「さあ、答えを聞かせてもうおうかの?」


 答えは決まった。


「断る」


「ふ、これほどの条件を断るとはの。お主はバカなのか?」


 安い挑発だ。だが、乗ってやろう!


 俺は両手の華を抱き寄せる。


「俺は俺の手で城を、国を手に入れる。誰かに譲って貰うなんて冗談じゃない。欲しい物は自分で手に入れる。そうだろう斎藤道三殿」


「……藤吉」 「あたしはあんたに付いていくよ」


 二人が瞳を潤ませて俺を見ている。

 少しカッコつけ過ぎたかな?


「く、くく、くはは、ふははは。面白い。やはり男はそう有るべきよ!」


 あ、あれ? 絶対怒ると思ったんだけどな。


「ますます気に入ったぞ! 木下 藤吉」


「そ、それはどうも」


 う~ん。ちゃんと断ったよな。もう誘われないよな?


「ふぅ、夕げを供にするつもりであったが、もう必要あるまい。これ以上話をしては情が移るわい」


 えっと、これで終わりですかね。


「次に会うのは戦場じゃな。後悔しても遅いぞ」


 既にあなたと会った事を後悔してますよ。


「ちょっと待ってください!」


 大事な事を思い出した。


「うん、なんじゃ?」


「まだ勝負が終わっていません。最後までやりましょう」


「ぶ、ぶははは。真に面白い奴よ。良かろう。勝負は最後までやるものじゃな」


 こうして双六勝負の続きをする事が出来た。


「よっしゃー!」


「ぐぬぬ。まさか負けるとはの」


「では、これに一筆お願いします」


 俺は一枚の紙を道三に差し出した。


「なんじゃこれは?」


「保証書です」


 この紙には俺達の安全の保証を約束する事が書かれている。

 ここに来る前に用意していたのだ。

 これに一筆書いて貰えば幾分安心できる。

 今夜一晩くらいだけど。


「こんなものを用意しておったとは?」


「夕げの代金の代わりです。再戦する為には必要でしょう?」


「ふ、ならば次はもっと賭け金を積むとしようかの」


「次も負けませんよ!」


「ぬかせ! 最後はわしが勝つのよ」


 道三は俺の差し出した紙に署名して帰った。

 その足取りはなんか歳のわりに軽かったな。


 こうして斎藤道三の誘いを無事に断る事が出来た。


 出来たよな?


 何とか今夜一晩くらいの安全は確保できた。

 直ぐにもここを離れるべきだ。


 しかし、俺は二人の花魁に捕まったままだ。


「夜はこれからだよ。ねえ藤吉」


「わたくし今日は一人では眠れそうにありませんわ」


 どうやら今日はこれからが本番のようだ!


次回は遂に年貢を納めるのか?


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。

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