表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/101

40話 心の隙

 

「久しぶりだなぁ、龍崇(りゅうすい)。将軍になったんだってなァ! 」

「ぅ……」


 ぶうんっと風を切りながら、千聖(ちあき)は横に振られた燃え上がるフランベルジュをかわした。薄く切れた前髪が、炎に触れて燃え消える。近寄っただけでも熱い。

 縦に振り下ろされる規格外にでかい大剣を、自分の武器である大鎌で受け止めた。

 力比べの競り合いが始まるが熱くて耐えれたもんじゃない、と渾身の力を込めてはじき返し距離をとる。


 相手の懐に入ることができればだいぶ有利だが、炎にそれを阻止される。

 それに大鎌を使う以上、懐になんて入れない。本当に使いにくい武器を生まれ持ったもんだと千聖(ちあき)は内心愚痴を零しながらも、視線は目の前の敵ではなく、ある少女の姿を追っていた。


 少し離れたところで戦う天離(あまり)

 いつもと様子が違う。

 動きに、稽古の時にあるキレがない。

 代わりにあるのは、“迷い”だ。

 そのことに気が付いてから、千聖は自らの闘いなんて気が気ではなくなっていた。


「何して……」


 天離が相手しているのは幼い少年。

 こっから見てもわかるほど、武器の構えも不恰好。その表情は怯えていた。

 天離は、迷ってる。


「余所見たぁ余裕の表れか?」


 鼻先を通過する炎の熱で我にかえり、なんとか後方に1回転して一撃を交わす。

 そうだ、今は自分の闘いに集中しなくてはいけない。天離なら心配ない。

 自分にそう言い聞かせながら着地の勢いを殺さずに地面を蹴った。


「はあぁっ」


 横向きに薙ぐ様にして、レグルスの左脇腹を狙う。

 流石に動きが大きすぎて読まれているのだろう、燃える刃で受け止めようとしている動きが見える。

 だけど、それが狙いだ。

 刃と刃がぶつかるその瞬間、千聖は大鎌を消滅させた。

 急に手から大鎌が消え、千聖自身バランスを崩すが、そのせいでレグルスの視界から鎌と千聖の姿が消える。


「うぉぉ!?」


 レグルスの動きが一瞬鈍ったその隙に転びかけながらも彼の脇から背後へと抜ける。その間、腰にぶら下げている短剣を引き抜きながら地面についた右足に力を入れ、レグルスの懐に飛び込まんと方向転換をし突っ込んでいった。

 千聖の一撃を受けようと武器を構えていたレグルスだったが、うしろに回った千聖の動きを察知し刃先を回転させる。まるで武士が刀を鞘に収めるような動きで背後に突きを繰り出そうとしていた。その動きを捉えた千聖は、咄嗟(とっさ)に短剣で受けるも、突きの重さに耐えきれずに飛ばされる。


「ぐっ……」


 飛ばされながら、短剣をレグルスに向かって放った。


「ヤケクソは評価できねぇな!」


 フランベルジュで振り払われ、軽い音を出しながら宙を舞う短剣。が、気が付けば死神の姿が消えていた。


「はっ……」


 千聖を見つけ出そうと周辺を見回し、頭上から息を吐く音を捉えたレグルスは上を仰ぎ見る。夕焼け色の太陽を背に、大鎌を振り下ろす死神。その足からは蒼い光が(ほのお)となって燃えている。

 

(短剣を放ったのは注意を逸らすため、か)


秩序なき神速(イレイズ・オーダー)……ねぇ! 」


 死神の中でも一部しか出来ない。

 エネルギーを脚部で一気に、爆発的に発散させる事で出せる驚異的なスピード。

 その姿は決して目で追うことは叶わない。


 剣と鎌がぶつかり合い響いたのは金属音──ではなく、

 ぱしゃんっと何かが弾ける音。


「水……? 」


 レグルスに降りかかる冷たいという感覚、武器に纏わせた炎が一気に煙へと変わる。


「龍崇家の──水竜のチカラか」


 お互いの武器同士がぶつかり合った瞬間に、水が弾けた。

 ほんの一瞬、レグルスの視界がとらえた大鎌の姿は、先ほどまでとは全くもって異なるものだった。

 まるで水で創られたかのように透き通り、揺らめいている。

 光を反射される美しい大鎌は、フランベルジュの強い炎に(あぶ)られ、煙を挙げながら一気に水蒸気へと変わっていく。


「熱ッ……」


 フランベルジュの炎は消火できたが、上から攻めたのは失敗だった。

 熱気とも言える水蒸気を、千聖はもろに食らった。

 そのまま薙ぎ飛ばされて地面に叩きつけられる。


「い……ぅっ! 」


 少しの間もなく上から地面に向かって突き立てられる刃。なんとか転がってかわし、さらにくる追い打ちを大鎌の柄で塞ごうと構える。通常の鎌よりも強度がない水性(すいせい)の鎌は、振り下ろされたフランベルジュの刃により、柄の半分あたりまで切り込まれるも、なんとか一撃を食い止めた。

 ぶつかり切り込まれた衝撃で上がった水飛沫が千聖に振り掛かり、熱を持った自身の身体を冷ます。


「ったく死神ってーのは驚異的な丈夫さだ」


 今、水滴が大量についているフランベルジュに炎を纏わせるには、まず水滴を蒸発させる分発火させなければならない。この方法で少しずつ魔力を削っていけば勝てると、そう確信し、地面に膝をついて立ち上がろうとした千聖の視界の隅で、何かが光る。


 身をよじれば、通過したのは雷を(まと)った矢。矢が刺さるのもまずいが、濡れた身体に電撃もまずい。


「はっ」


 矢が飛んできた方向を確認する時間も与えられずに、重い一撃が降ってくる。今度は水性では受けきれないと悟り、右手から大鎌の柄を離した。

 得物は重力に従って落下し、地面とぶつかった瞬間、ただの水へと戻り飛び散る。

 千聖は直ぐに、今度は水性ではない真っ黒な大鎌を右手の中に創造し、レグルスの一撃を受け耐えた。

 が、あまりの重さに身体が沈み足元の地面にヒビが入る。


 想像以上の重さに焦りを覚えながらも、この状況をどう打破するかを考えていた。

 先ほどの矢。

 今、警戒すべき相手は目の前のレグルスだけではない、離れた位置からこちらを狙っている腕の立つ弓使いがいる。

 思い当たるのは騎士団副団長、弓使いのアランだ。

 アランは雷系統の魔法をよく使い、こちらもレグルス同様、先ほどの様に矢に魔法を纏わせて飛ばしてくる。電撃は今の千聖にとって大変分が悪い。


 なんとかレグルスの武器を押し返しはじき返した千聖は、後ろへ飛びのいて距離をとる。

 とりあえず狙撃されにくい森の中に入らねばと、木々が鬱蒼と生い茂る緑めがけて地面を蹴った。

 森へと逃げる途中にちらりと目につく、その一瞬の光景。

 僅かに攻撃の一手を躊躇(ためら)った天離の隙をつき、少年の持つ剣が天離へと伸びる様子。


「あッ……」


 目の前で、少年の剣が天離の身体に食い込んだ。

 小さく咳き込んで、血を吐く。

 地面に散らばる赤色が鮮明に映る。

 位置的には致命傷にはならないだろうが、頑丈な死神といえど刺し傷や切り傷は話が違う。

 自分が置かれた状況など全て忘れて、千聖は反射的に森ではなく天離の元へ行こうとする。

 

 それと同時に後ろから聞こえた風を切る何かの音。

 無意識にしゃがめば、頭上を掠めるフランベルジュ。大きく回転して飛んできた。


 今の一撃はなかなか危なかったが、千聖にとってはそれどころではなくなっていた。

 天離は刺されても立ったまま、腹を抑えて少年を見据えている。

 人を刺して震えている少年を前に、まだ迷っているように見えた。


「だめだ殺せ! 天離ィ!! 」


 叫ぶ千聖目掛けて矢が飛ぶ。


「ッ!」


 千聖がそれに気づいた頃には既にかわせる距離でもなく。

 ──オォォォン

 目の前に飛び出してきた狼が矢を噛み砕いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ