10月24日 AM10:32 京
朔はいつもと同じ様子だった。
昨日の電話のことについて訊ねても、
「わりぃ。昨日はなんか眠くて眠くて電話鳴ってるのにも気付かなかったんだ」
という返答が来ただけだった。
今日がまたあの日を繰り返しているのだとしたら、夕方太陽が沈むとき、世界は再び崩壊のときを迎えるのだろう。そんな状況であるのにも関わらず、教室内はいつもの光景のまま、怠惰で緩慢な時間の流れのなかにあった。
「しまった~。そういえばこの小テストの存在をすっかり忘れてた~」
「結果を知ってたのにも関わらず、このダメージ感。つらい~」
「残念だったな。というか、全然前回の教訓が生かされていないというのはいかがなものかと思うが」
屍と化した二人を眺めながら、この日常の風景があともう少ししか存在しないものとなるのかもしれないことを考える。
きっと二人も、本当はテストのことなどどうでもいいことだと思っているのだろう。それでもこうして日常に溶け込もうとしているのは、この日常に愛着を感じているせいなのか。それとも他に理由があるのだろうか。
「ところで朔。あとで話があるんだが」
ぽつりと、何気ない風に言葉を付け加える。特にそこに深い意味など存在しないように。なんでもないことのように。
「ああ。いいぜ。ただし昼休み、購買行ってからならだけど」
朔は腹を撫でながら、そこに棲んでいるらしい虫をなだめるように言った。
鈴という少女はあれから朔に連絡をしたのだろうか?
一応携帯の番号だけは彼女に教えたものの、朔の今日の様子からは、なにかがあったようには見受けられない。
世界が終わるまでに好きな人に告白をする。
朔が提案した事柄は、僕のなかで大きな意味を持つことになった。世界が終わり、そこから時間を遡った僕ら。
なぜ自分がここにいるのか。自分はなにをすべきか。
世界が終わる日を再び迎えた今もまだ、その答えは見つかっていない。
けれども、ただ一つだけはっきりしたことがある。
――自分の気持ちとちゃんと向き合わなければ、きっと後悔するだろう。
朔が教えてくれた。あの賭けに負けた僕は、否応なく朔の言葉に翻弄されることになった。つまり、茜に対する想いについて。
臆病に、片隅に隠れ、誰にも見つからないようにしていた気持ち。胸の奥底にしまい込んで、封印しようとしていたそれを引きずり出され、僕は自分の本心と向き合わざるを得なくなった。
僕は茜が好きだ。
それはどうしようもなく。
この気持ちに決着をつけることが怖くて、今の関係を壊すことが嫌で、ずっと見ないようにしてきた。
けれど、それはもしかしたら間違いなのかもしれない。
朔が言うように、相手にそれを伝えなければいけないのかもしれない。
しかし、だとしたら、それは僕だけの話にしてはいけない。
鈴に昨日話したように。
心残りにだけはしないように。
朔にも。
本当の気持ちを確かめなければいけない。




