第七十八話 3人の女の子(後)
後は無言だった。黙々と目の前の料理を食べていく。話はあとで聞けばいい。まずはお腹を満たそう。
かなりの量を作ったはずだけど、料理はきれいになくなった。あの子たち3人とリーリさんベッキーさんが、その辺で掘った燃える石を中心に車座で食後の酒を楽しんでいる。
体の汚れも無くなり空腹も満たされ、ぎこちないけど笑顔も見られるようになった。俺は片付けという名目でちょっと離れたテーブルで酒を飲んでる。あの場所にいていいのはハンターだけな気がするんだ。
「再度になりますが、アジレラでハンターをしているリャングランダリですわ」
「ベンジャルヒキリだよ!」
「名乗るのが遅れてすまない。あたしはライってんだ。でこっちの弓を持ってるのはヤド-カでこっちのちっさいのがベレテだ」
「アタシが小さいのは事実だけどちっさい言うなッス」
ベレテちゃんがライちゃんに小さい石を投げた。ベレテちゃんはッス属性なんだな。
断定口調がライちゃんで「~でさ」みたいなのがヤドーカちゃん。よし、理解した。
「あたしらは3人で活動してた、4級ハンターだったんだ」
ライちゃんがグイっとカップをあおった。カップの中身はリーリさんが大量に作った透明なブランデーだ。幼く見えたけど3人とも16歳で成人はしているらしく、飲酒は合法だ。でも飲みすぎないでほしい。
「あたしらは成人したての時に野菜ばっかりのレリフ村から逃げ出して、アジレラに行ってハンターになって、4級にはなれたんだ」
「きつかったッス」
「見通しが甘かったといやぁそれまでなんだけどさ」
3人がぽつぽつ語りだした。リーリさんとベッキーさんは相槌だけで静かに聞いている。
「仲良くなった同い年のハンターが死んで、なんかこう、目の前が真っ黒になったんだ」
「大したスキルもなくて、なんか怖くなっちゃったんス」
「明日はあたしが死ぬかもしれないって思ったら、ギルドに足が向かなくなっちゃってさ」
3人が揃ってため息をついた。
「で、もうハンターはやめて村に帰る途中だったッス」
「たださ、運が悪いことに、ここにたどり着く前に追いはぎに遭っちゃてさ」
「相手の数が多くって、這う這うの体で逃げてきたんだ」
うわ、災難だな。てか、この先にそいつらがいるってこと?
「それは大変でしたね」
リーリさんがライちゃんにお酒を注いだ。ベッキーさんに目配せをして、つまみの山盛りポテチと手でちぎって塩と油をかけたキャベツを持っていってもらう。まだまだ飲みそうだし、ここで鬱積とか吐き出させた方がよさそう。
「出ていった手前、村に帰っても居心地が悪いだろうなーってさ」
「帰っても野菜を育てるしか仕事はないッス」
「さっさと嫁に行けとか言われそうだ」
「ライは幼馴染のアーレイが待ってるじゃないっスか」
「そうよ、村を出る時だって、いつでまでも待ってるから嫁に来てくれって言われててさ」
「ばっ、そんなんじゃねえって! それにもう違う相手がいるよ……」
「大丈夫っスよ、アーレイはライ一途スすから。あー、あたしにもそんな相手が欲しいっス」
「欲しいけどさー」
また3人揃ってため息をついてる。
なんか話の方向が違ってきてない?
「わたしもそんな方が欲しいですわ!」
「いーなー、そんなの、憧れちゃうなー」
あれ、おふたりさんも加わっちゃうの?
「あの男の人は違うっスか?」
「ちょっとそれについては聞いてほしいことがありまして」
ちょっと待って、俺にも流れ弾が来るの?
そんなガールズトークが続くこと数時間。ものの見事に全員が撃沈した。酔いつぶれて地面に寝っ転がっちゃってる。うら若き乙女がぐーかー寝ているでございます。
元気なのは俺とぶちこだけ。
「ぶちこ、あそこの酔っぱらいを部屋の2階に連れていける?」
「……わっふ」
むくむくっと少し大きくなったぶちこが屍の群れに歩いていく。
「ありがとね、明日の朝は肉をたっぷりにしような」
「わっふ!」
ぶちこはひとりを咥えては部屋に入っていく。賢くて助かるよ。俺だとセクハラになりそうだし、たぶん持ち上げられない。情けないけどさ。
ラッキースケベ?
俺はまだ死にたくないぞ。
「持ち物くらいは俺が持っていくか」
宴の後には彼女たちの背負い袋と武器類が転がってる。袋はアチコチ破けてるし、剣は刃こぼれがあるし、弓も欠けがあった。あの子たちの苦労が偲ばれる。
「ついでに直しておこう。これからもあの子たちの役に立ちますように、修繕っと」
荷物がぴかっと光る。
「どれどれ。ん、刃こぼれも無くなってるし、袋の穴もふさがってる。これかなら村に帰っても使えるでしょ」
荷物は1階に置いておこう。俺は、まぁ、床にでも寝ればいいさ。
2階に上がり改めて5人に清掃スキルをかけ靴を脱がす。脱がした靴は1階で保管だ。5人も運んだぶちこにご褒美の水と肉を上げて、二日酔い用の水を用意して、部屋に戸締りスキルをかけて、おやすみなさい。
遠くでコッコケルゾゴルァと聞こえた、気がした。
「……朝だ」
窓の隙間から陽が差してる。
「ん~~~~~」
ひと伸びして立ち上がる。床で寝たから腰と背中が痛い。2階は静かだからまだ寝てるんだろう。起こさないようにゆっくり扉を開いて外に出る。ちょうど連星の太陽が昇っていくところだった。
水袋の水で顔と頭を洗う。
「うー、目が覚める。さて、今のうちに朝食の用意と、あの子らのお弁当を用意するかな」
多少の食材は俺の魔法鞄にも入ってる。大したものはないんだけど。
あの3人はこれから村まで帰るのに1日かかるはず。お昼くらい渡しても、罰は当たらないでしょ。
「わっふ!」
「ぶちこおはよう。って散歩に行くの?」
ぶちこはわっふわっふいいながら空を駆けていった。人目につかないと良いんだけど。
朝食を何にしようかと唸っていたら部屋からリーリさんがふらふら出てきた。額を押さえて明らかに二日酔いだ。
昨日は頑張ったからね。手を握って手当を念じる。
「……あら、頭痛がってダイゴさん!? 何故に手を!?」
おや、驚いてる。記憶がないパターン?
でも手当スキルで二日酔いも治るのがわかった。病気とか怪我の一種とみなされるってことかな。
「二日酔いを治してみただけです。あと朝食を作りたいので食材を……」
「ハッ! あわわわ、まだ顔も洗ってませんわ。また二日酔いの情けない姿を……」
「まぁまぁ昨晩は頑張ってたでしょ。ベッキーさんと一緒に」
途中で会話がガールズトークになってた気がしなくもないけど。結果オーライだ。
「ま、魔法鞄は部屋の中ですわ」
リーリさんが俺の手を振り払って駆けて行ってしまった。うーむ、セクハラだったかもしれん。気をつけねば。
その後、ゾンビの様にふらふらと部屋から出てくる女の子に手当てをかけて二日酔いを治していった。そんなびっくりした顔しないでほしいなぁ。
朝食をすませ、お互い出発の準備をする。村はもう出荷の時間らしく、道は芋を満載した竜車であわただしい。
「「「大変お世話になりました!」」」
3人が横一列に並んで頭を下げてお礼を言ってきた。
「美味しい食事ばかりか寝る場所まで提供いただいたのにお礼もできなく、申し訳ない」
「傷も武器の損傷も道具も直していただいて、感謝しかないっス」
「おかげさまで、前向きな思考になることができました」
3人の顔は非常にすっきりしてる。これなら大丈夫かな。
「レリフ村はこれから忙しくなると思いますわ」
「へ、なんでっスか?」
「行けばわかるよ!」
リーリさんとベッキーさんが笑顔なんだけど、俺にはよくわからん。あそこでは死んでたしな。
「じゃああたしたちは先にいくので」
「おふたりさんのどっちが早いか、結果が気になるっスね」
「あたしは同着だと睨んでるけどさー」
なんだか意味深な言葉を残して3人は足取り軽く芋の村を後にした。さて俺たちも出ないとだけど。
「……ふたりはなにか競争でもしてるの?」
「わたしたちも出発しましょう! 早いところアジレラにつきたいですね」
「追いはぎに遭ったりして!」
「ベッキーさん、いやなフラグはやめて!」
む、うまいこと逃げられた。
次回で通算100話です(*'▽'*)




