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第七十四話 小屋、買いました(リーリさんが)

 小一時間膝枕されて回復したころにベッキーさんが帰ってきた。


「ただいま! 美味しかった!」

「ベッキー、服にたれがついてますわ」

「あ、ほんとだ!」

「まったくもぅ」


 という夫婦にも似たコンビの会話を確認しつつ出発の準備をする。まだ昼時にもなってない。

 アジレラには早くついた方が良いってのもあって次の村で宿泊する予定とした。

 頑張って走ってるぶちこにはベッキーさんが買ってきた屋台の肉と水袋の水をだばだば飲ませた。疲れた様子もなく、逆に思う存分走れて満足げに「わふぅ」と吠えている。


「ちょっとは速度を落としてほしいなぁ」


 俺の前にベッキーさん、後ろにリーリさんの隊列はそのままで出発だ。


「無心無心無心無心」


 高速で後ろに飛んでいく景色と俺の腕にのしかかるベッキーさんの巨乳と背中に押し付けられるリーリさんの双峰の感触をゲヘナの彼方に追いやるべく呪文を唱え続ける。そう、俺は修験者なのだ。

 どこかに飛びそうになる魂を何とか捕まえつつ、耐えること1時間ちょっとで次の村に到着した。今度は何とか致命傷の手前くらいで済んだぞ。膝枕ができなかったベッキーさんがちょっと拗ねてたけど。


 村の手前1キロほどで街道に戻って徒歩で向かう。エーテルデ川沿いの街道がほぼ唯一の道なために道行く人や竜車は多い。そして村に近づくと急に畑が増えてくる。


「明らかにジャガイモってわかる畑がすげえ」

「見渡す限り畑だね!」

「さすがは芋の村ですわ」


 村の名前はクレードギャトという名前だけど、デリアズビービュールズに持っていくための日持ちする芋類の生産拠点だってことで通称「芋の村」と呼ばれている。竜車だと3日近くかかるらしい。ぶちこだと昼についちゃったけど。


「この村は人口が500人くらいなので大きくはないのですけど、商人と街道を行く人が多いので宿が多いと聞きました」

「ぶちこも泊まれると良いんだけど」


 ぶちこは小さくなって俺の足元をうろちょろしてる。デカいままで泊まれる宿はないだろうし、俺は犬だと思ってるんだけど、ぶちこは一応魔獣というカテゴリーらしく恐れる人も多いんだとか。

 ぶちこのどこに凶暴性があるんだか。賢くておとなしいワンコなのに。


「夜まで時間はあるから、色々探そうよ!」

「ベッキーは屋台が気になるのでしょう?」

「あはは!」


 話をしているうちに村の入り口に来た。簡素だけど石壁と門があって、一応兵隊さんらしき人らが立哨してる。入るための行列も、ちょっとだけある。


「ハンター崩れの追いはぎが出没するからですわ」

「芋しかない村を襲うの?」

「ここの芋は美味しくって、でも他にはなくって珍しいんだって! 楽しみ!」

「あー、特産があるんじゃ金があるんだろって発想なのかな」


 ニュースでも強盗は良く報道されてたしな。そんなに割が良いのかな、強盗って。

 ま、俺には向かないな。


「身分がわかるものはあるか?」


 門につくと兵隊さんに詰問された。威圧的なのは舐められないためなのか。武器をもって言われると怖い。


「はい、これは私とダイゴさんの身分証ですわ」

「ハイこれあたしの!」


 リーリさんが俺のだという身分証を見せている。ベッキーさんとリーリさんはハンター証を見せて通過した様子。つか、俺の身分証って……。 


「まずは宿を探しましょうか。このような村では、門の近くにありますので」

「夕方ぎりぎりに着いた時とか、助かるんだよ!」

「なるほどねー」


 宿の位置にも理由があるわけか。昔は駅の前にスーパーとかあったもんな。あれも駅には人が集まるからって理由があったし。


「あ、あそこにあるよ!」


 ベッキーさんが指さす方に、ベッドの絵が描かれた看板のある建物が複数見える。レンガ造りで、趣がある。


「ぶちこちゃんのことを聞くのですよ!」


 とててっとベッキーさんが走っていく後ろ姿にリーリさんが声をかけた。いつ見てもいいコンビだなぁ。

 宿に入って数分でベッキーさんが出てきた。両手でばってんを作って。


「ダメだったようですね。次に行きましょう」


 リーリさんは次の宿に向かって歩いていった。ぶちこがたれ耳を更にへしょッとさせて落ちこんでいる様子なので俺が右手で抱えてリーリさんを追いかける。


「ぶちこのせいじゃないからね」

「パフゥ……」


 うーん、元気がない。賢すぎるのも大変だな。


「あそこもダメでしたわ」

「あっちもダメだって!」


 下手な鉄砲も数撃てばって思ったんだけど全敗だった。ま、こうなりゃ野宿さ。


「仕方がないので、野営広場に参りましょうか」

「野営広場? なにそれ」

「宿が満員で泊まれなかった人が道端で寝られても困るので、野営可能な広場を設けるのが一般的なのですわ」

「あたしたちもね、何回かそこで夜を明かしたこともあるんだよ!」

「村の外で野営するよりも格段に安全ですし、屋台などの店で買うことはできますしね」


 へー、面白いやり方だな。駅前で寝っ転がってる酔っぱらいとかおもいっきり邪魔だし。こっちは残業で遅くなってるってのにって思い出したらムカついてきた。

 だめだめ、もうそんな過去はポイっとしなきゃ。


「野営広場はあっちだって、宿の人が教えてくれたよ!」

「ぶちこちゃんが怖いとかではなく、規則なんで仕方ねえんですわって方ばかりでしたから、親切で教えてくださったのですわね」

「なるほど」


 邪険に扱われたのではないなら、まあいいのかな。

 ということで野営エリアに行ってみるが、まだ誰もいない。まだ昼過ぎだしね。

 敷地は村を囲う石壁に面していて、門からも割と近い場所で、近くに民家らしきものはない。広さはサッカー場くらいあって、いまならどこでも使いたい放題だ。


「石壁の近くにしましょう。ベッキー、あれを」

「わかったー、どーん!」


 ベッキーさんが石壁の近くにことこと歩いて行って、どーんと四角い物体を出した。平面が10畳ほどの大きさで、高さが5メートルほどの立方体だ。材質はコンクリっぽく、鉄の扉がひとつついてる。でかい。


「ベッキー、扉は壁の方ですわ」

「わかったー!」


 ベッキーさんがひょいとデカイ箱の向きを変える。いやあれクッソ重いやつでしょよ。さすが力持ちベッキーさん。


「てかベッキーさんそれなに!?」

「部屋だよ!」

「小屋、でしょうか」

「いやどっちなのって、まぁいいかそんなの……」


 扉があって部屋というなら中に入れるんだろう。


「昨日、土産を買いにおじの店に行った際に、しばらく使ってない小屋があると言われまして」

「で、買っちゃったわけか……」

「移動するときの拠点にできそうでしたので」

「ベッドもね、あるんだよ!」


 ベッキーさんが扉を開けて中に入ってしまった。


「もぅ、ベッキーったら浮かれてしまって」


 俺たちも続いて中に入った。ちょっと埃の匂いがする。床も土汚れこびりついてて長く使われてなかった感じだ。

 部屋は外から見た大きさと同じで10畳ほどだけど正面奥に上に行く階段がある。寝るのは上の様子。下の部屋はテーブルと椅子があって壁面には棚もある。突き出し窓って感じの金属製の板が各壁面に見える。

 玄関もなく土足上等な部屋だからちょっと土汚れとか気になるけど、2階を土禁にすればいいだけか。


「急だったので掃除もできていないのですが」

「じゃあ今やっちゃおう。【清掃】っと。ついでにぶちこも綺麗にしちゃおう」


 埃っぽかった部屋の空気が一気に爽やかに変わった。土汚れもすっかりなくなったところでぶちこを床の降ろすとわふわふ言いながら階段を登って行ってしまった。走れるほど広くはないぞ、と思ったらすぐに降りてきた。狭かっただろうに。


「2階は土足禁止にしたいんだけど」

「それなら寝る場所が土汚れがなくって良いですわ」

「じゃあジンベイを着てもいい?」

「ま、まぁ寝巻替わりなら……」


 なぜか甚平が人気です。

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