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第七十三話 ぶちこの背に乗って

 今日も今日とて快晴の空。連星の太陽もギラギラ照り付けてきて、さながら夏である。だがここには夏という季節はないらしく、一部を除外して常夏の国なのだ。この中をアジレラまで帰るわけで。

 宿の玄関から見る外は、ちょっと陽炎も見えるほど熱されているようだ。


「今日も暑いねぇ」


 愚痴が出るのは勘弁してほしい。


「ダイゴさん、昨日のジンベイという服を着てはだめなのですか?」

「あれは風通しがいい代わりに砂も吸い込んじゃうから、体がじゃりじゃりになるよ?」

「う、それは考え物ですわね。道中では湯浴みなど望めませんし」


 ハンター装束のリーリさんが残念そうにうなってる。リーリさんが妙に甚平にこだわってるんだ。俺が着てるとリーリさんもベッキーさんも着ちゃうでしょ。という本音は隠しておく。

 ミラクルフィットするように作ったせいで体の線がまるわかりになっちゃうという欠点が発生したんだよ。ベッキーさんは巨乳を、リーリさんはモデル体型が男の視線を独占しちゃうのがわかるんだ。それって、身の安全的にもよくはないよね。よからぬ考えの男とかに付け狙われちゃいそうだし。


「そのアイディアは俺がうまーく使わせてもらうぜ」


 アジレラに戻る俺たちの見送りに来てくれたラゲツットケーニヒさんがにやりと笑う。その後ろでチトトセさんが力こぶしを作り、ケイリューテンベルさんが苦笑いをしている。きっと、名物にしてくれるでしょ。


「お世話になりました」


 俺たちは横一列に並んでぺこりと礼をする。部屋はすごいし飯はおいしいし面白いところに連れてってくれたしチトトセさんがシノビだしで本当にいい体験ができた。


「ま、俺はあっちでまた会うだろうけど、元気でな」

「ダイゴ様、宿に嫁に来ませんか?」

「ぜひ、またお越しください」


 3人に見送られ、宿を出て大通りを歩く。ぶちこは小さくなって俺の腕の中だ。デリアズビービュールズを出たら元の大きさに戻ってもらって、3人でぶちこに乗る予定だ。

 コルキュルからアジレラに向かうだけでへたばった俺を配慮した結果、ぶちこに乗っていこうとなったわけで。

 昨日、商会へ買い物に行ったふたりによさげな布やらロープやらを見繕って買ってもらって、それでぶちこに乗るための鞍とハーネス型の固定ひもを作ったのさ。


「あ、屋台だ! 砂クジラの串焼きが売ってるよ! ちょっと行ってくるね!」


 ベッキーさんが歩く先にある屋台に走っていくと俺の左手はリーリさんに確保される。


「まったくもぅ」


 とリーリさんは言いつつも本当に怒っているわけではない様子。俺たちが追いついた時にはちょうど買い終えたところのようで、屋台の店主はニコニコ顔で店仕舞いをし始めた。買い占めたのかよ。

 その後も屋台を見つけてはベッキーさんが突撃して完売させるというのを繰り返してようやくデリアズビービュールズの出口のひとつについた。

 巨大な門を出る人と入る人でごった返している中を行列と一緒に進んでいく。通勤時間帯のターミナル駅を思い出してちょっともにょる。

 門をくぐって表に出ても人人人でゲシュタルト崩壊しそう。

 街道はレンガで舗装されてて、竜車が通るたびにゴトゴトと音を立ててる。道を外れると、そこは荒れ地だ。

 アジレラまでの街道はエーテルデ川とつかず離れずらしく、途中の村も川沿いにしかないらしい。例外はあるみたいだけど。


「アジレラよりも、人が多いね!」

「さすがは首都ですわね」

「人が多すぎるから道を外れてぶちこには元の大きさに戻ってもらおうか」


 人をかき分けて街道から離れて出てぶちこを地面に降ろす。道からはだいぶ離れたから目立たないはず。


「わふぅ!」


 ぐぐっと大きくなったぶちこは、あれ、いつもより大きくない?

 いつもだと俺の頭がぶちこのあごくらいになるんだけど、おなかの下に潜れちゃいそうだ。


「もしかして成長期なの?」

「わふぅ」


 ぶちこがしっぽをバタバタさせて返事をする。まじっすか。


「でも、3人乗るにはちょうど良いですわ」


 リーリさんが俺作製の鞍とハーネスを、どこからか取り出した。と同時にぶちこが伏せになる。


「ぶちこは賢いなぁ」


 ちょうどいい高さにぶちこの頭があるから、思いきりわしゃわしゃしてほめてあげる。その脇でベッキーさんとリーリさんが黙々とハーネスと鞍を装着してる。俺は役立たずですすみません。


「できましたわ!」

「カッコイイね!」

「おおお、ぶちこが凛々しい!」


 背中に鞍を付けたぶちこは、鎧を付けたように見えて、すっげーカッコいい。誇らしげにも見える。

 早速ぶちこの背中によじ登るが、運動不足なおっさんには厳しかった。先に上ったベッキーさんに引き上げてもらった。我れ情けなし。

 ぶちこの背中は俺が寝転んでも大丈夫くらいは広い。並びは、前にベッキーさん背後にリーリさんとなっていて、俺はサンドイッチの具だ。安全のためのベルトを腰に巻いて準備完了。ぶちこがすっと立ち上がる。


「おお、見晴らしがいい!」


 高さはざっと4メートルってとこで、2階くらいの高さだ。ぶちこが歩いても揺れないし、快適だ。


「ぶちこ、あの道と並走して」

「わっふぅ!」


 指示を出すとゆっくり走り始め、すぐに景色が流れるようになった。ジェットコースターで天辺から落下する速度だ。


「わ、はやーい!」

「さすがぶちこちゃん、揺れませんね」

「こえぇぇぇぇ」


 確かに揺れはないしふたりは喜んでるけど、俺としてはコエーのさ。思わず前に座るベッキーさんのお腹に手をまわす。


「ダイゴさん、しっかりつかまっててね!」

「あら、ではわたしも支えましょう」


 後ろからリーリさんが引っ付いてきた。それ支えじゃない。

 前にまわした腕の上にベッキーさんの巨乳がどしっと乗って、背中にはリーリさんの柔らかなナニカが当たってるんですが。

 サンドイッチで天国だろって?

 俺とて男子だしこうなりゃマイサンも反応もするけど、それどころじゃねンんだ。

 生身で時速100キロ以上にさらされてみろ。しかも操縦権限がないんだぜ。怖さが勝るぞ!

 コルキュルで咥えられて運ばれた時よりも速いんだよ!

 たーすーけーてー!


「わっふぅ!」

「だからってもっと速くしなくていいからぁぁぁぁぁ!」


 体感で1時間ほど、俺の魂が召されたあたりで最初の村に着いた。竜車なら1日の距離らしいそこは、レリフ村というそうだ。

 デリアズビービュールズの人口を支えるには周辺の村から食料を持ってこないと全然足りなくて、ここレリフ村は、生鮮野菜の一大供給基地になってる。しかもかなりうまい野菜らしい。

 国の首都に納入するってことでより良いものを求め品種改良も断行する農業戦闘村ともいわれているらしい。

 村といっても人口は1万人もいるそうで、でも9割が農業に携わる人で残りはそれを運ぶ商人だとか。宿とか酒場の経営は商人が取り纏めてるそうな。偏りがすごいけどそれでも成り立ってるのもすごい。


「……見て歩く元気が、ない、です」


 魂が抜けてグロッキーな俺はリーリさんの膝枕で撃沈してる。心配そうな顔のどこかで嬉しそうにも見えるのは気のせいですか、リーリさん。


「予定よりも早く来てしまいましたので、少し休憩しましょう」

「じゃあ、あたしが野菜とか買ってくるね!」

「頼みましたよ。つまみ食いばかりしないように」

「わかってるって!」


 てててっとベッキーさんが駆けてった。

 そう、ここで食材を仕入れる予定だったんだ。あと井戸に水神様の鱗をいれる用事も。

 俺の代わりにベッキーさんが行ってくれる。俺、情けないとこしかないな。


「良くなったら、次の村まで行ってしまいましょうね」


 リーリさんに頭を撫でられた。幼子扱いされてます、俺。

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