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異世界で水源管理してます ~水を拡げるスローライフ~  作者: 海水
首都デリアズビービュールズ
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第五十九話 いざ観光

 翌日はよく晴れていた。おてんとう様がふたつの快晴だ。昨日の雷雨は地面に残っている水たまりくらいしか痕跡はない。部屋ご自慢のテラスからはデリーリアの城ともいうべき建物が見えていた。


「城壁に囲まれた、都庁?」


 真っ白に塗られたぶ厚そうな城壁に守られているのは、頭がふたつあるのっぽビルだった。窓はあまりなく、屋上はとんがり屋根にはなってるけど、どう見ても都庁だ。変形しそうにも見える。


「あれがデリアズビービュールズの中心地、デリーリアの執務城でございます」


 俺の背後にいたチトトセさんが説明してくれる。


「執務城?」

「そうですわ。先日デリーリアの政治体系について説明したとおり、18の種族があの城で働いているのでしょう」

「あぁ、だから執務なのね」

「デリーリアに明確な王はいませんので」


 俺のつぶやきをリーリさんが拾ってくれた。そういやそんなことを教えてもらったな。


「最初期の城は、もっと優雅だったと言われております。統治機構に加盟する種族が増えるたびに増築され、とうとう30階を最上階とした高層建物になってしまいました。デリーリアの建築魔法技術と無計画の極みとも言えます。執務を主としておりますので観光などで内部に入ることはできませんが、伝手を頼りに裏からなれば……」

「いえ、危うきには近寄らずで行きますので!」


 国会議事堂に裏から入ろうとか思わないとの同じく、そんなところに忍び込むようなことをしたらふつうは重罪じゃない?

 最弱な俺が生き残れるとは思えないので却下です。


「そっかー、見てみたかったけど、ダイゴさんが行かないならあたしも行かない!」


 ベッキーさんはそう言ってくれるけど顔は残念そう。まぁ、他で我慢してもらおう。


「その代わりではありますが、デリアズビービュールズの周囲には見張兼観光用の塔がございます。そちらからの景色もとても良いものです。遠方の砂漠では砂クジラが空中に飛び出すところも見ることができます」

「砂クジラ! 串焼きのお肉だね!」


 ベッキーさんの顔がほわっと緩んだ。チトトセさんナイスです。


「ホエールウオッチングか。映像でしか見たことないから生で見てみたいな」

「それでは、本日は砂クジラを見に行くとしましょう」

「それと、買い物もできればラッキーかな」


 観光地でのショッピングはマストでしょ。その土地ごとのおススメ料理とか食べるとここに来たんだなーって思うし、大抵美味しいものだし。

 楽しまないと!


「昼食は如何されますか? ご用意もできますが」

「外で食べてみたいんだよね。ここの料理は絶品なんだけど、それとこれはまた別でさ」


 朝食はパンとスープと焼いた肉というシンプルなものだったけど、それぞれがすごくおいしくて、お代わりしたくらいだ。

 調理スキルさんが手伝ってくれるけど料理が食べられればいい俺と美味しい食事を提供したい料理人さんの心構えの違いだろうか。感謝しかない。


「じゃあ、屋台でたくさん買っていい?」

「ベッキー。食べられる量にしてくださいね」

「大丈夫! 買ったものは、ぜーんぶ食べちゃうもん!」


 ベッキーさんは花より団子に忠実だ。キラキラ笑顔がとてもかわいい。

 というわけで、レッツ観光である。


 宿を出れば、そこにはトカゲが引く竜車がいた。車輪は2個で、屋根がなくて景色がよく見える、4人乗りの大きな人力車って感じだ。前にふたり後ろにふたり座る形だ。分厚いゴムのような物体が車軸との間にあり、乗り心地をよくしているのかも。

 俺がプチコを抱えているからか、トカゲが伏せのまま動かない。チトトセさんが御者をやるらしく、トカゲに立つように話をしているのだがピクリとも動かない。


「……申し訳ありません、ジャッキーちゃんが言うことを聞いてくれません」


 チトトセさんが申し訳なさそうに頭を下げてきた。トカゲはジャッキーというらしい。名前を付けて貰えるくらい大事にされているようだ。

 そっとプチコの頭を撫で、この子は問題ないと伝える。プチコが俺の腕を抜け出してとことことトカゲに近づいていった。


「あ、危ないですよ」


 チトトセさんが停めようとするので問題ないと声をかけた。まぁ、でかいトカゲに小さなワンコが近づいたら危ないって思うよね。


「ぱふぅ」

「……ゲコ」

「ぱふぱふぅ」

「……ゲッコ」


 プチコとジャッキーがなにやら会話をしている。30秒ほど経ったらジャッキーが立ち上がった。トカゲっていうからコモドオオトカゲみたいな、いかにもトカゲってスタイルを予想してたんだけど、ワニみたいな顔で、脚がすらっと長くて、馬みたいにシュッとしている。

 この子が引くんなら竜車ではなく馬車だ。


「カッコイイ子だね」

「えぇ、ジャッキーちゃんは当宿の自慢のひとつです」


 ジャッキーが立ち上がったのでチトトセさんもほっとした顔だ。


「お乗りくださいませ」


 チトトセさんの声に押されて俺は前席に座る。横にはベッキーさんが来て、即座に俺の左手が確保された。


「これで移動するんだから迷子にはならないでしょ」

「万が一とか、あるかもしれないし!」


 ニパっと笑顔で一点の曇りもない瞳を向けられるとオジサンは何も言えなくなるのですよ。降参ですワカリマシタ。

 後ろにはリーリさんが座り、チトトセさんは御者席というのだろうか、ジャッキーの真後ろに座った。


「路面状況によっては揺れますので、お気を付けください」


 チトトセさんがそう言うと、ジャッキーがゆっくり動き出した。そういえば手綱とか何も繋がってないんだけど、どうやって指示を出してるんだろ。


「ジャッキーは人が聞き取れないほど高音の音を聞くことができます」


 チトトセさんが笛を見せてくれた。犬笛みたいなもんか。


「それでも笛の音で指示を理解するってのは、賢いんだなぁ、ジャッキーは」


 ぶちこの方が賢いですけど、とは言わなかったけど。ジャッキーも賢い。


「当宿で卵の孵化から育てていまして、わたしが親代わりなんです」


 チトトセさんは前を向いたままだけど、その声はちょっとうれしそうに聞こえる。

 どこかで買ってくるのではなくて卵から育ててのるか。すごすぎる。一流てのは、ここまでするものなのか。


「なるほど、おじさまが薦める宿だけあって、こだわりもすごいですわね」

「ねー、すごいよね!」

「ありがとうございます。ケイリューテンベルも喜びます」


 チトトセさんの弾む声をBGMに馬車は通りを進んでいく。通っているのが大通りなのか、往来の竜車の数が多い。幅も広くて、歩行者が竜車に見え隠れするくらいだ。


「店が沢山あるなぁ。でも看板の文字が読めないから何の店なのかわからないのが悔しい」


 リーリさんに文字を教えてもらおうかな。服のイラストが描かれているのは服屋さんだってわかるけど文字だけしかないのに扉で中が見えないとかが多くてさ。


「砂クジラを見たら市場にでも行かれますか? 大森林からハンターたちが持ち帰ってくる素材などを扱っている市場もありますし、ご希望があれば何なりと」


 おお、ショッピングも楽しめそうだ。

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