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第五十一話 後始末

 望まなくても朝日は昇る。今日も連星系の太陽が地平線の彼方から姿を現した。きっと今日も快晴だ。

 昨晩、飲みすぎた教皇様とその教皇様にしがみつかれた先生を家に泊めた。グデングデンで威厳をなくした教皇様を教会の子供らの前には出せなかった。

 ベッドは一つしかないけど、先生にひしっと抱き着いて離れない教皇様を部屋に押し込んだのは俺。中から先生の悲鳴が聞こえた気がするけど空耳に違いない。だって、先生も教皇様もぐっすり寝てるのか起きてこないもん。でも、あの部屋に踏み込む勇気は俺にはない。先生の無事を祈る。


 教会の子供はぶちこが面倒を見てたから安心だ。年長のィヤナース君を筆頭に自分で自分のことをできるように教育されてるみたいだから、夕食を作ってあげたら後は静かに寝てた。


 オババさんの家で行われていた女子会はだいぶ盛り上がったようで、あられもない姿で二日酔い状態の4人の女子が死屍累々だった。一瞬足を踏み入れてすぐさま退却した。セクハラとか言われても困る。そもそも俺が最弱なんだ、事案でも起こしたら吊るされかねない。君子は危うきに近づかないのだよ。


 で、俺は絶賛朝食の準備中。大人が起きてこないので教会に行って朝食の準備だ。

 今朝は簡単にパンと卵焼きにしようかと。サラダもつけるけど。


「パンにはバターをつけていいからね。あと卵焼きはひとり3つまで」

「ダイゴおじさん、パンのおかわりは?」


 ベッキーさんと同じハーフドワーフのテバサル君が配膳を仕切ってる。食べ物が改善されたからかテバサル君の身長が急激に伸びている。とは言ってもハーフドワーフは大きくはならないようで、俺よりも低いけど身体つきはすごいマッシブで俺なんかはワンパンで倒されるレベル。

 俺が弱いだけなんだけどさ!

 どうやら調理はィヤナース君、配膳はテバサル君と分担している模様。小さい女の子ふたりは食べる係だ。


「んー、食べたいだけ。足りなければ焼くから」

「そうだ、先生の分も取っておかないと!」

「あー、じゃあ先生と教皇様のは分けておくから、テーブルにあるパンは皆で分けて」

「わかった。トランダルのはこの皿な」

「はーい、やったーぱんがいっぱいだー!」


 猫獣人のトランダルちゃんもほっそりしてたけど、子供らしくモチモチになってきた。本人は太ったと気にしているようだけど非常に健康的でよろしいと、オジサンは思います。

 子供が元気がない姿は、大人として罪を訴えられているようで、やりきれなくなるのさ。


「じゃあ俺はあっちに行って先生の様子を見てくるから」


 片づけは子供らに任せて家に戻って大人の面倒を見ないと。

 先生と教皇様を押し込んだのは俺の向かいの部屋だ。防音が優れてるのか、俺が寝ているときは静かなもんだった。まぁ、酔っぱらいはすぐに寝るからな。


「酔い覚ましの水と、二日酔いの時は味噌汁だよなやっぱ」


 ってことでコンビニゾーンから味噌を取り出す。安心の白味噌さ。具は豆腐とかわかめが欲しいけど無いんだよなぁ。追加報酬とかで増えないかなー。そうしたらおじさんは頑張っちうんだけど。

 無いものねだりしても仕方がない。今朝はじゃがいもとたまねぎにするかな。


「大鍋ドーン、食材ザクザク、水で洗ってキラッキラ」


 皮むきくらいはした。

 水を入れて具を投入して加熱する。ぐつぐつ煮立ってじゃがいもが崩れそうになるくらいまで煮る。

 勝手に圧力鍋仕様になってるからあっという間にホロホロ具合まで煮込めてしまった。


「火を止めて味噌を投入」


 パッケージはないけど、舐めた感じは出汁入り味噌っぽいんだよね。出汁をとるための昆布とかがなさそうだからすごく助かる。さすが水神様。

 味噌も溶けたし味見だ。


「~~~! これぞ味噌汁だ。シンプルだけどそれが良い。崩れたじゃがいもと甘めな玉ねぎのハーモニーよ、二日酔いじゃなくても最高でしょ!」


 こっちに来て初めての味噌汁だ。あまりのうまさに感動しちゃったよ。海外出張で日本食が恋しくなる日本人の言うことがとてもよく理解できた。

 調理スキルさんさすがです。

 味噌汁もお供えしておこう。ありがたや。


 オババさんの家に繋がる扉から、リーリさんが半開きの目でフラフラと歩いてきた。スカートは何処に忘れた?という乙女のリラックス自室的な恰好だ。


「んん……お水、欲しい」


 タンクトップ風の肌着が肩からずり落ちそうでヤバいがヤバい。寝ぼけてるのかまだ酔ってるのか。両方か?

 水が入ったコップをそっとテーブルに置く。


「お水……おいしい」


 半目でほわほわしながら両手でコップを持ち、こくこく水を飲んでいく。いつものお嬢様はお家出でもされたのか。


「はぁ、おいしかった……」


 飲み終えてはふーっと息を吐いたときに、俺と目が合った。


「昨晩はお楽しみでしたね?」

「なななななんでダイゴさんが!??」

「リーリさんがオババさんの家の扉から歩いてきたんだけど」

「ちょ、服が!」


 リーリさんはずり落ちそうだった肌着を直し、肌着の裾を伸ばして下半身を隠すようにして後ずさって戻っていった。

 うん、俺は視線は逃がしてたから、悪くないと思う。

 リーリさんが扉の向こうに消えたと思ったら今度はベッキーさんが入ってきた。俺が作った青いワンピース姿だ。寝ぐせなのか赤い癖っ毛が大爆発してる。


「よかった、ちゃんと服を着てる」


 ベッキーさんは、眼を半開きにしてに、にへーっとした顔で、トテトテと俺の横まで歩いていた。

 うむ、酒臭い。まだ酔ってるなこれ。


「お腹、すいた」

「少しおとなしいけどいつものベッキーさんだった。味噌汁どうぞ。熱いかもだからゆっくり飲んで」


 作りたての味噌汁をカップに入れてテーブルに置いた。

 ベッキーさんはむにゃむにゃ言いつつもふーっとカップに息を吹きかけ、こくりと飲んだ。


「……温かい、ちょっとしょっぱくて美味しい」


 ゆったりと笑うベッキーさん。小動物的で保護欲を掻き立てられるんだ。子ども扱いすると怒られちゃうけど、まぁそんな感じだ。

 お腹もすいてくるだろうから朝食を用意するか。

 二日酔いさんたちには軽めな方が良いんだろうなぁ。丸パンと目玉焼きにでもするか。


「ベッキーっちはどこじゃん? ってかここってどこじゃん?」


 パンの生地をこねてると、オババさんの扉から見たことのある金髪で狐獣人の女の子が出てきた。この子は下着オンリーでとてもヤバい。


「あ、トルエこっち!」


 2杯目の味噌汁を飲み終えたベッキーさんがこっちこっちと手招いている。すっかり酔いはさえた様子。


「あ、あの時のおじさんって、耳がないじゃん、人族じゃん!」


 太いしっぽをばふっと膨らませたその子が俺を指してきた。

 今は変化の指輪をしてないから、狼な耳はない。


「人族は敵じゃん!」

「ダイゴさんは、良い人族だよ!」

「でも、人族は人さらいするじゃん!」


 トルエと呼ばれた子がふーっと唸った瞬間、その子が扉の外に吸い込まれるように飛んで行った。


「あ、トルエが飛んで行っちゃった!」


 ベッキーさんが驚いて俺を見てくるけど、俺もよくわからん。


「トルエが飛び込んできましたけど?」


 リーリさんが扉から顔をのぞかせた。


「うんとね、よくわからないけどトルエが「人族は敵じゃん!」って叫んだら飛んで行った!」

「……たぶんですが、ダイゴさんに敵意を持ったからかもしれませんね。ここは水神様の坐ところで、水神様の使徒たるダイゴさんに敵意を抱いたらそれは水神様に敵意を持つと同義でしょうから」


 ベッキーさんの答えに、リーリさんは背後にいるだろう狐の子を見た。あのふたりはそこにいるんだろう。


「ダイゴさんはわたしたちの命の恩人なのです。不躾な態度はやめてほしいですわ」

「そうは言ってもじゃん」

「浚、死」


 なんか物騒な言葉も聞こえる。人間なだけで殺意を向けられちゃうのは勘弁だ。


「うーん、殺されたくはないのでお引き取り願ってもいいですかね。ローザさんが来て何かあっても俺にはどうすることもできないので。朝食はそっちでお願いしまーす」


 面倒ごとは避けるべし。できればお会いしたくはないし、アジレラから離れて、デリアズ……なんとかって首都に行きたいかな。

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