第四十八話 ぷりんを作ろう
「わ、すっげえ!」
「ひろーい!」
「おやつはどこ?」
「ベッキーおねーちゃん、すごく広いね!」
子供たちが草が生い茂る元廃墟を見た感想だ。コルキュルに行くと話をしたけどよくわかってない様子。
「ここは、先生のお祖父さんが住んでいたところなんですよ」
先生がそう言うと子供らは口々にへー、とか、そうなんだー、とか、あまり興味は湧かないようだ。
孤児だから、なのかもしれない。ここで生まれたって感傷が生まれないのかなと考えてしまう。
「ここをね、先生は水が豊かな場所にしようと思っているんです」
先生は気にせずに笑顔で続ける。もしかしたらここをこの子たちの故郷的なものにするつもりなんだろうか。
それならば、俺は全力で協力するだけだ。
「あたしてつだうー!」
「俺もやるぞ!」
「なにやるのー?」
子供たちも先生のことになれば協力的でハイハイと元気に手を挙げている。小学校みたいで和む。
大人になるとわかるけど、子供の素直さは宝だよ。オジサンの俺には眩しいくらいだ。
「畑を作って野菜を作っても良いですし、果物の木を植えて育てるも良いですね。水は水神様のご慈悲としてどれだけ使っても困ることはありません。みんなで一緒に考えましょう」
「くだものたべたい! スイカは飽きたー」
「あまーいくだものがたべたーい!」
「野菜よりは肉だなー」
「ここで育てた食材でお店をできないかな……」
スイカって砂地でも育つから割と水分代わりで普通に食べてるんだ。市場で見かけてなんで荒地なのにって思ったけど、スイカは水はけが良い土地だといいらしくって、アジレラの川の畔の畑は適してるんだとか。
他の果物なら水が豊富ならいけそうだ。土の栄養とか気になるけどそこは水神様の水だ、いけるでしょ。
あ、コンビニゾーンにある果物の種って、埋めれば芽が出るかも?
おやつはプリンを作るつもりだから、材料を取るついでに果物も持ってこよう。倉庫にある種も持ってこようかな。おっと、薬草を育ててもいーじゃん?
戸締りスキルで入れるのは子供たちと先生だけにするとかできそうだ。孤児院の運営資金にもなるし、良いんじゃないかな。
「ダイゴオジサン、おやつは?」
ィヤナース君が俺を見上げてた。おっと、忘れてた。
「今日はプリンを作るよ」
「ぷりん、てなに?」
コテンと首をかしげるィヤナース君。割と大きな体になってきた君がやると、性癖がおかしくなる女性が出るかもしれないからあまり外でやっちゃだめだぞ。
「卵と羊乳と砂糖で作る甘いお菓子のことだよ」
「やった、お菓子だ!」
「わーい!」
お菓子と聞いた子供たちが騒ぎ始めた。
「じゃあ材料を持ってくるからみんなは教会の中で待ってて」
そう言い残して家のコンビニゾーンへ急ぐ。
「羊乳で作ればィヤナース君が再現できるはず。砂糖はたくさんあるし、卵もなんとかなる。プリンにくだものをトッピングしたら最強では? マネされても勝てるでしょ」
思わずぶつぶつ言っちゃうのは仕方がない。
コンビニゾーンも色々増えてて、枇杷、りんご、オレンジ、梨、柿、いちご、ぶどう、栗、桃なんかがあった。とりあえず背負い鞄に入るだけ突っ込んでいく。
「魔法鞄が欲しいなぁ」
水神様、くれません?
「それはわたしの役目ですわ」
いつの間にか背後にいたリーリさんの圧を感じた。何があっても俺に魔法鞄は持たせてもらえないらしい。食材は持ったのでコルキュルに戻るとしよう。
「さて、今日もィヤナース君に手伝ってもらおうかなー」
「まかせて!」
ィヤナース君が両手を差し出してきた。綺麗にしてほしいってことだろうから清掃のスキルで綺麗にする。調理前に手を綺麗にするのが当たり前になった感じで、とても良い。
「まずは砂糖に卵を割り入れて混ぜたら羊乳を加えて静かにかき混ぜる。勢いよくやって泡が立っちゃうと、食感が滑らかにならないから気を付けてね」
「わかった」
ィヤナース君の狼耳がぴくぴくさせて返事をする。調理の時は帽子か布巾をかぶれるように作るかな。布はまだたくさんあるし。
ィヤナース君が金属のボウルに羊乳と卵を入れてへらでゆっくこねるようにかき混ぜ始めた。人数が多いしお供えの分もあるしで、結構な量だ。
プリンの入れ物は金属製のカップなら人数分以上にあるらしいからそれを使わせてもらう。俺が用意するのは茶こしだ。これがないと滑らかにならなくて残念プリンになってしまう。
「滑らかさこそ大正義!」
「ダイゴオジサン、気が散るから叫ばないで」
「……ごめんなさい」
ィヤナース君に叱られてしまった。まぁ、作業してるのはィヤナース君だし、当然か。ダメな大人で申し訳ない。
ィヤナース君が混ぜている間に俺は果物を切ってようかな。
「プリンに合いそうなのは、酸っぱさのあるリンゴといちごかな。あとは種目的で切っておくか」
リンゴは皮をむいて一口サイズに切るやつとウサギさんにする奴の2種類にした。いちごはへたを取ってまるまるだ。梨と柿とぶどうと桃は皮をむいて食べやすくしておけばいいでしょ。切ったときに出た種は回収してみんなでまこう。
「ダイゴオジサン、そろそろいい?」
ィヤナース君がボウルを差し出してきた。へらを動かすと砂糖の塊もなく、よく混ざっている感じ。
「上出来だね。あとはこれを茶こしでこすんだ」
「こす?」
「よりおいしくするための一工夫なんだよ。大切なことさ」
こうやるんだって手本を見せる。茶こし経由でカップに注ぐだけだけどさ。
「よっと、こうかな」
ィヤナース君が苦戦しつつも何とかすべてのカップにプリンを入れた。ここからは俺が主体だ。
大きなフライパンを出して水を入れ沸騰させる。
「ダイゴオジサンのそれはいつ見てもずるい」
「まぁこれも水神様からもらった力で俺のモノじゃないからね。ずるいといわれても反論できないな」
苦笑するしかない。おいしいものを作るから勘弁して。
沸騰させたお湯にカップを入れていく。
「火を弱くして10分。火を止めて10分で完成。そのままでもいいし冷やしてもいい」
「わりと手間がかかるね」
「その分おいしくなるからね。料理に限らず、そんなもんだよ」
「ふーん」
ちょっと疑いの目で見てくるィヤナース君。君のそのうちわかるよ。火の番は調理スキルさんに任せよう。
「さて、待ってる間にくだものを皿に載せていこうか。大きな皿にまとめておいて、好きなものを取って食べるスタイルにしよう」
ィヤナース君と一緒に大皿に切ったくだものを載せていくと皆がそわそわしだすのが視界に入る。期待されてるとちょっと緊張する。調理スキルさんに失敗はないからそこは心配してないけど。
そうこうしているうちに火を通し終えた。
表面がつやつやで気泡もない濃い黄色。漂う甘い香りとほんのり湯気が食欲を誘ってくる。温ぷりんも美味しそうだ。先ほどからベッキーさんの視線が痛いので温かいままで食べよう。
「できたからみんなテーブルに集まってー」
「やった!」
「まってた!」
ワイワイしながらみな席に着いた。目をキラキラさせてぷりんを凝視してる。
「これはぷりんといって、スプーンで食べる甘いお菓子です。本当は冷やすんだけどみんな待てそうにないので温かいままで食べます。まだ熱いかもしれないのでやけどしないようにね。大きな皿にあるくだものは好きにとって食べてください」
俺の説明は右から左になってる気がするんだけどそれは仕方がないね。目の前においしそうなものがあったらそっちに気が行くもんね。
俺は水神様の神棚にお供えに行く。ローザさんと教皇様の分を確保しとかないと。
「いいですか、取り合ってけんかしてはいけませんよ」
先生が注意をすれば皆が「はーい」と答える。ちょっと寂しいけど、これは先生の人徳だろう。俺じゃかなわないよ。
「では、神に感謝をして食べましょう」
「「水神様に感謝を!」」
「いただきます」
ぷりんをひとすくいする。ぷるるんとはならないけど、しっとりしてて硬さもちょうどいい感じ。パクっと口に入れて舌で押すとほろっと崩れる。ほんのり上品な甘さが口に広がっていく。
「んー、幸せの味だ」
ふーっと満足の息を吐く。一気に食べるのがもったいないくらいだ。売ってるものを買って食べるのと比べると、おいしく感じるんだよな。作ったって達成感もあるからかな。
「うめぇ!」
「わ、温かくて甘くておいしい!!」
「優しいおいしさですわ」
「このくだものってなに?」
「それは枇杷だね」
「緑色の粒粒なのオイシイ!」
「それはぶどうだね」
俺が持ってきたくだものは見たことがないようなので都度説明する。栽培したら珍しさで売れるかもしれないな。もうコルキュルは農業都市にしちゃおうか。
「くだものに入ってる種は捨てないでね。ここで栽培しようかと思ってるからあとでまくからさ。珍しい果物でアジレラだと盗むやつとか出てくるから、ここ限定でね」
俺の言葉に皆が注目する。
「これ、育てたら、もっと食べられるの?」
「がんばる!」
「あたしやる!」
「わ、あたしもやる!」
「ベッキーはダイゴさんの御守でしょ!」
「あ、そっか!」
楽しそうな声と笑顔。前の職場にはなかったものだ。いいなぁ、この空気。




