第四十六話 増えた扉とローザさん
書き溜めはまだありますが毎日更新は今日が最終ですー
次話は明後日な予定です。
「ベッキー、落ち着きなさい。デリアズビービュールズは飛竜で飛んでも遠いのです。教皇様もふた晩飛び続けてアジレラに来たのですよ」
先生がベッキーさんを窘めてる。
「えー、でも、コルキュルには扉をくぐればすぐだよ?」
「ここの叔母の家にもつながってますわ」
ベッキーさんとリーリさんが反論する。
「ベッキー、すぐにコルキュルに行けるのですか?」
「わたしも噂で聞きましたが、コルキュルの水の教会が復活し、井戸も水を取り戻したと」
先生と教皇様が真剣な顔で食いついてきたこれ以上は俺が説明しないと。
「コルキュルの水の教会とはつながってるんです。そこが初めて聖なる山と外がつながったところなので」
「聖なる山とつながっている!?」
先生は転がんばかりに驚いてる。教皇様は冷静に頭の上の耳だけをピクピク動かしてた。
「先生と教皇様なら信用できますし、信用できないような行動をしたら水神様が許さないでしょうし。試しにコルキュルに行ってみますか?」
水神様が許さないといった瞬間にふたりともわかりやすいくらい動揺を隠せてなかったけど、コルキュルに誘うと
「ぜひお願いしたいです」
教皇様は静かに、でも力強く答えた。
とはいえ、教皇様をオババさんの家に連れて行くのはリスクが高いな。宗教のトップだぜ。何かあったら俺が死ぬ。
ここも水の教会なんだよ。できないかな。扉ができないかな。
ちらちらと教会奥の水神様の像に視線を送る。でも、何も起きない。
アジレラにはオババさんの家と繋がっちゃってるし、ふたつも要らないよな。
なんてため息をついた瞬間、水神様の像が眩く輝いた。
「「み、水神様の像が!」」
「やっちまったぁー」
先生と教皇様と俺の声が重なる。
閃光が収まると、何もなかった水神様の像の真横に、見慣れた鉄の扉が鎮座していた。
「もう、驚きは減ったね!」
「慣れとは恐ろしいものですわ」
隣にいるベッキーさんとリーリさんのの落ち着きっぷりは、なんだか申し訳なくもある。普通なら腰抜かすとこだよ。
「と、扉が……」
先生は震える指で扉を指して、教皇様は無言で跪いている。そんな空気をぶち壊すように、できたばかりの扉が開いた。
『あら、ここにも繋がったのですね』
ひょっこり姿を見せたのは、ローザさんだった。白いワンピースではなく、俺と教皇様と同じ水色のローブを着ていた。
「ローザさん?」
『ぶちこちゃんたちを送った後に水神様の元に参ったのですが、ちょうど新しい扉ができたのでつい開けてしまいました』
テヘペロ的な笑顔であっさり言ってのけた。
『ここは、アジレラの教会でしょうか?』
「ローザさん、よくわかりますね」
『水神様の神気がとても濃いですので。ここまで濃い神気は、ここの他はコルキュルとデリアズビービュールズくらいです』
神気? 神の気配って感じなのかな。俺にはあまり感じな……でもここは初めて来たときは神聖な感じはしたな。像もテカテカに磨かれてたし、先生が熱心なんだろうなぁ。
それに、井戸に水神様の鱗があるわけだし。そりゃ水神様の気配が強いって、当たり前か。流石に本部は水神様との縁が深いのかな。
『デリーリアは昔から水神様への信仰が篤い地域なのです』
「他の、なんだっけ、あ、ベルギスと商人の国はそうでもないと」
『土地柄や住んでいる民族によって崇める神が異なります。それらの地域は他の神を信仰しているものが多いのです』
「あたしはここで育ったからね、水の神様を信仰してるんだよ! ドワーフはね、だいたい土の神様を信じてるんだ!」
「わたしは風の神様ですわ」
ふたりとも俺に向かって宣言するように話してくる。俺は別にだれが何を信じていても気にしないから問題ないんだけど、彼女ら的には何かあるのかな。
「リーリ様には、信奉する神が異なっているのに協力していただいていて、とても恐縮です」
「当然のことですわ。水の神様がいらっしゃらなければ私はいまこうして生きていることはできませんでしたもの。崇拝している神様とこれは別ですわ」
ローザさんがニコリとほほ笑むとリーリさんもお返しの笑みだ。美人さんが微笑みあうのは、絵になっていいもんだ。
「俺が住んでたの国はどこのどんな神様でもバッチコイな国だったからなぁ。八百万神がいる国だし。他の国は一神教が多いけど、うちらは恨みを持って悪霊になってしまった偉い人も祀って神様にしちゃうし、神様に関しては何でもありだな」
『そ、そうなのですか? ダイゴ様のお国は懐が深くていらっしゃるのですね』
ローザさんが素直に驚嘆してる。いつもと違い普通の女の子に見えてとても可愛らしい。
「祟りがあるなら逆に祀ってしまえば祟りがなくなるだろうって考えらしくて」
『面白い考え方ですね。それならば私も祀られていたのかしら?』
ローザさんがふふっとほほ笑む。あれ、ちょっと怖い。
「……ローザさんは恨みでも抱えてたんですか?」
『ふふ、生きていた時はいろいろありましたので』
ローザさんは笑ってるけど、ちょっと影が見え隠れする。
生きている時か。そういやローザさんの生きていた頃って知らないな。水神様の近くにいるんだから当然信徒というか教徒だったんだろうけど。
「その、お顔……水のローブ……ローザ……水神様……まさか、ロータンヴェンヘ-ザ様であられますか!?」
『かつてはそう呼ばれておりましたが、いまはローザ、ですよ、エランドヴィリリアング教皇』
「わ、私の名前などを、もったいないことです……」
『えぇ知っていますよ。貴女の熱心な信心は水神様も知るところですから』
ローザさんが教皇様を見た。教皇様は床に手を付け、額までつけてしまった。
教皇様だけでなくローザさんを見た先生まで。なんだか俺もやった方が良さげな雰囲気。
『ダイゴ様、おやめください。そこのふたりも立ちなさい』
「「はっ!」」
おう、ローザさんの纏ってる空気がピリッと変わったぞ。なんだかうっすら青く光ってるようにも見える。
『ダイゴ様、ちょっとこのふたりとお話があるので、少しだけお時間をください』
「ほえ?」
変な声を上げた時には、俺はベッキーさんとリーリさんに両腕を確保されて、ずるずるとローザさんから引き離された。
「こんなことしなくても邪魔しないって」
「乙女の秘密なのですわ」
リーリさんが突飛なことを言い出した。
「乙女の秘密を暴くものは、正義の神様にお尻ペンペンって、習ったよ!」
ベッキーさんもおかしなことを言いだした
いや、そんなの習ってないけど。結局、教会の入り口付近まで連行された。
奥の水神様の像の前でローザさん含めた3人が、というかローザさんが一方的に話をしているように見える。こっちを見て「おぉ!」と驚くような声が聞こえるんだけど、俺の何を話してるの?
待つこと5分ほど。水神様の像が光って杖みたいのが出てきたり、ローザさんが着ていたローブを教皇様に手渡してたりしてようやく話が終わったらしく、ローザさんが大きく手を振った。
『ダイゴ様、行きますよー』
初めて声をかけられたときはAIみたいな印象だったけど、いまの仕草なんてその辺にいるJKみたいだ。年相応?というのおかしいけど、外見相応な振る舞いになっている。
みんな俺よりも若いから「若いっていいね!」って思っちゃうオッサン上司の気持ちが理解できたよ。




