第四十三話 ギルドの空気とふたりの知り合い
誤字報告ありがとうございます(*'▽'*)
「ちょっとオジサン、ちっさいハーフドワーフと、お嬢様エルフを見かけたことはあるじゃん?」
おじさん、アタシたちと遊ばない?という感じで声をかけられたけど、これってベッキーさんとリーリさんのことだよなぁ。
「うーん、知らないなぁ」
考えるふりをして答えた。途端にふたりは興味をなくしたよう「そっか、ありがとじゃん」といって俺が来た道の方に顔を向けた。
疑わないのは良いことだと思うけど、安易に信じちゃうのはどうなのと思わなくもない。今までに結構な数の人に声をかけていて反応がなかったのかもしれないけど。
っと、先を急ごうかな。
「あ、ダイゴおじさんだ!」
教会のそばで農作業をしていた狼獣人のィヤナース君が俺に気がついたようで、声を張り上げた。そう、俺はオジサンと呼ばれているのだよ。
まだ30歳だと言い張りたいが子供から見たら成人男性はすべてオジサンだ。受け入れるしかない。
おっと、邪念は捨てよう。
「先生はいるー?」
「いま、本部から来た偉い人とお話してる!」
「……本部の偉い人?」
とっても嫌な予感がする。
「オジサン、今日はベッキーねーちゃんとは一緒じゃないんだ」
「ちょ、いまそれはだめ!」
ィヤナース君に向けて腕でばってんを作った。
「ちょいオジサン! ベッキーのことやっぱり知ってるじゃん!」
背後から先ほどの女の子の大きな声が。やっぱ気がつかれたかー。
「ちょっと待つじゃん! 姉さんこいつを止めてじゃん!」
「りょ」
しゅぱっと俺の前に移動してきた露出度高めの狐の女の子。うおおっと声が出かけた。
「オジ・ウソ」
目の前の子が俺を指さしてきた。
「オジウソ?」
「オジサンウソついたじゃん、ってことじゃん」
背後から同じような声が聞こえる。魔法使いっぽい子の方だな。
「ウソ・悪」
「ウソをつく奴は悪いヤツっていってるじゃん。人攫いと同じくらい悪いやつじゃん」
魔法使いっぽい子が俺の前に来てふたりが並んだ。よく見れば顔がそっくりだ。切れ長の目できつめだけど綺麗系な子たちだ。
露出度高めの子の言葉に魔法使いっぽい子がうんうんと頷いてる。確かに人攫いは極悪人だと思う。
「でもウソ悪じゃわからないって」
「姉さんは口下手なんじゃん」
露出度高めの子は言葉がなさすぎて通訳が必要な様子。いちいち通訳が必要なのは不便すぎるでしょ。
姉っていったけどツーカーな感じから双子だろうか。
「オジサン、ベッキーがどこにいるか、知ってるじゃん?」
魔法使いっぽい子にビシっと指をさされた。このふたり、人を指さすのが好きだな。
「知っていたとしても教える理由がないんだけど」
「ギルドからベッキーとリーリの呼び出しがかかってるじゃん。最近姿も見ないし、ちょっと心配になったじゃん」
目の前のふたりが神妙な顔をしている。心配してるっていってるし、このふたりはベッキーさんとリーリさんの知り合いなのかも?
「ギルド・悪・近・ダメ」
「いまギルドの雰囲気が悪いから行かない方が良いって伝えたかったじゃん」
「え、そうなの? 探してるからいるところに連れていけっていわれるのかと思った。知らない人にいきなり聞かれたから知らんふりをしちゃったよ」
「それはすまなかったじゃん。あたしはトルゲブガルエ、3級ハンターで火魔法使いじゃん。ベッキーとリーリとは、たまに一緒に依頼をこなす仲じゃん」
「わた・スカ」
「姉さんはマルドレックエヤであたしと同じ3級ハンターでスカウトをやってるじゃん」
「……スカだけじゃわからないでしょ」
スカウトってなんだろ。道端でモデルの卵をスカウトってのは全然違いそうだ。あとでリーリさんに聞いてみよう。
「俺は佐藤大吾。いまは、色々あってベッキーさんとリーリさんに助けてもらってる」
「ヒモ」
お姉さんの方に鼻で笑われてしまった。
「まぁ、ヒモといわれても反論できないかな。いちおう、食事とかで礼はしてるつもりなんだけど」
世話になってる割合の方が多いけどね。
「ところでギルドの雰囲気が悪いってのはどんな感じなの。伝えるにしても内容がわかってるとふたりも納得すると思うんだ」
俺の問いにお姉さんの方がうんうんと首を振った。
「ポ・売・減」
「ギルドのポーションの売り上げが減ってギルマスの機嫌が悪くって周囲に当たり散らしてるじゃん」
「うわ、最低なやつだ」
パワハラ上司とか絶対御免案件だ。やっぱりギルドにはいかない方が良いな。
「少し前から安いポーションが買えるようになってあたしたちハンターは大助かりじゃん」
「あー、さっき布屋さんでもそんなこと聞いたなぁ。おかげで珍しい素材が手に入るけど在庫が売れなくなるって嘆いてた」
「ネコババ」
「ギルマスがポーションの値を釣り上げて売り上げのほとんどをネコババしてたらしいじゃん」
「なにそれ、業務上横領じゃん。犯罪だよそれ」
「ギルマスの信用がガタ落ちでギルドの信用もガタガタじゃん。だからハンターも自分勝手に動いてるじゃん。ギルドの受付担当がすごい苦労して可哀想じゃん」
トップがそんなことしてたら部下のやる気はなくなるし、取引先の信用も失うし。売り上げの減少で社内の空気は悪くなる一方。受付担当さん、お疲れ様です。
「ふたりには、呼び出しがあるけどいかない方が良いって忠告を伝えておくよ」
「頼むじゃん! また一緒に依頼をしたいっていっといてじゃん!」
それいうと、ふたりは街の方へ歩いて行った。
後ろから見るとモフモフのしっぽが揺れてる。いいな、あれ。あれは触りたくなるな。
「ダイゴおじさん! 今日は何か作るの?」
「おう、びっくりした」
しっぽに見とれてたらィヤナース君が目の前にいた。
「あれ、オジサン、俺と同じ耳がある?」
ィヤナース君の視線が俺の頭の上に向かってる。あぁ、フードをかぶってた時に耳はなかったもんね。
ちなみに、俺の髪が黒いことはばれてて、でもベッキーさんが一緒にいて仲良くしているから人族至上主義な人とは見られていない。
「これはね」と指輪を外すと「わ、耳がなくなった!」とィヤナース君が驚いてくれた。
「ちょっと変装してたんだよ。今日は先生にお話が合ってね。あと、みなにおやつでも作ろうかなって」
「やったおやつだ! 俺も一緒に作っていい? 俺な、料理をする人になろうかと思ってるんだ!」
ィヤナース君が目を輝かせている。
あれか、教会で何回か一緒に食事を作ったりおやつを作ったりしてたから、面白くなったのかな。
「よし、今日も一緒に作るか!」
一緒に作ると俺も楽しいからね。
「おおダイゴ殿、丁度よいときに」
教会の入り口に先生姿が。その後ろには大柄な短い黒髪の獣人の女性と、ごつい白銀の全身鎧がふたりがいた。




